第六十二話 俺と諸君の戦果会議
『末期世界の攻略は済んだよね?
端末に流れてきたから知ってるよ。
こっちへ助けに来れるよね?
第三世界の有象無象は連れて来ないでね』
国際連合指導者ロシア連邦アレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキーより、7月14日15時半頃受信。
『末期世界第3層攻略おめでとう。
まさかこれほど早く攻略されるとは予想外だった。
さて、早速本題だが、機械帝国の攻略は我らの管轄なので、こちらへの干渉は控えて欲しい。
国家間外交に聡いお前なら、干渉した結果どのような状況になるか理解していることだろう。
頼むから自重して欲しい。
信じてるから。
なお、第三世界諸国に関してはこちらへの積極的な援軍を期待する』
人類同盟指導者ドイツ連邦共和国エデルトルート・ヴァルブルクより、7月14日19時頃受信。
人類が誇る二大勢力の指導者からそれぞれメッセージを送られた、国際協調を是とし平和を愛する日本国の探索者である俺。
大国同士の利権と歴史問題が複雑に絡み合った政治メッセージは、唯一の平和主義の列強と言っても良い我が国にとって極めて難解と言わざるを得ない。
よって、日本国としてはこれらの要請に対し、前向きに善処するという回答を示した。
『我が国の利点は何かね?』
日仏連合首班日本国上野群馬より国際連合へ、7月14日16時頃返信。
『我が国を始めとする他国家への内政干渉に強い懸念を表明する』
日仏連合首班日本国上野群馬より人類同盟へ、7月14日19時頃返信。
俺の気持ちとしてはすぐにでも機械帝国へ殴り込み、二大勢力の間で蝙蝠プレイをしつつ利権を引き摺り出してやりたい。
しかし俺にはやるべきことがある。
末期世界第3層では敵の度重なる奇襲もあって、第三世界諸国と言う纏まりのないくせに数だけはうじゃうじゃいる国々が入り乱れながらダンジョン攻略を行っていた。
攻略中は俺の統制下で何とか制御していたが、戦後は各国が己の戦果を主張して泥沼の利権闘争になりかけている。
同盟や連合のような背負うものが重い大勢力はともかく、中小国家のように腰の軽い国々が泥沼の利権争いなんてやろうものなら確実に人類間戦争が勃発してしまう。
それを防ぐために日本が責任ある地域覇権国家として、国際協調を後進国共に手取り足取り教えてやらなければならないのだ。
「———— そういうことだ。
分かったかね?」
「分かる訳ねぇだろうがっ!」
新興宗教にハマった野卑なバイキングが、文明人からの懇切丁寧な説明に怒声で返しやがった。
今俺達は日本の根拠地にある食堂を会議場へ改造し、そこで末期世界第3層で得られた魔石の配分会議を開いている。
本来の定員は48名のところに102名を詰め込んでいるので、少々密集しているもののそこは仕方がない。
我慢して欲しい。
脳味噌まで筋肉と火薬で汚染されている後進国家のため、俺が最初に配分案を提示したのだけど、彼らには大いに不満があったようだ。
乞食根性が染みついた中小国家にとって自分が他人よりも多めに貰わないと気が済まないのかなぁ?
さて、馬鹿にするのはこれくらいにして、真面目な話、ダンジョンでは途中から彼らの指揮を放棄していたため、俺には彼らの貢献度ってやつが把握できていない。
それぞれの証言や無人車両からの録画データなどである程度の見当はつくが、悲しいことにそれで算出した報酬に満足しない輩が大勢いる。
勿論、彼ら自身も自分達が本来よりも多めに主張していることは十分承知だろう。
俺としても彼らが本当に言いたいことは分かっているつもりだ。
ようは、俺の取り分を減らして乞食共に分け与えて欲しいってことでしょ?
嫌だね!!!
大国の責任?
いつからテメェらは日本の属国になったんだよ!
養って欲しけりゃ、持ってるもの全て献上しな!!
国際協調?
知らんわ。
小国連中が列強たる日本に合わせろや!!
平和主義?
日本にとっての平和主義って意味だからな!!
他国の平和よりも日本の利益やろがっ!!!
「ではもう一度簡単に説明しよう。
今回の攻略では投入した戦力、消費した戦費、実際の撃破数、あらゆる面から考えて勲一等は我々日仏にある。
貢献度合いで言えば9割9分が日仏だ」
「待て!
それには日仏が来る前に我らが攻略していた分が考慮されていない!」
脳筋インディアンの戯言は捨て置く。
「その分は都度、諸君らが回収している筈だろう。
今回の会議は我々が来てから、第一段階作戦以降に得られた魔石についての会議だ」
「それにしても日仏の貢献度合いが些か水増しされているのではなくて?」
フワッフ製造機が煩わしいボディーブローを放ってくる。
「殿下、ルクセンブルクが召喚したフワッフの原資は我が国から供与された魔石だという事実をお忘れなく。
それに今回得られた魔石は総計8万5200個ほど。
例え1%でも852個と膨大な数だ。
個人火器程度しか持ち込んでいない諸君らなら、十分以上の利益が出る筈だろう」
言外に戦車の一つも持ち込めない弱小国家は引っ込んでいろと言い放つ。
ルクセンブルク一派が持ち込んでいたのは装甲車だから戦車ではないのです!
俺が室内にいる面々を睨みつければ、7割方が黙って下を向いた。
2割は懇願するようにこちらの機嫌を窺い、残りの1割は反抗心剥き出しで俺を睨みつけてくる。
大半の中小国家にとって、列強からの反感は多少の国益を捨ててでも回避すべきものだ。
ダンジョン戦争と言う全国民生中継の環境下では露骨な工作はできないが、彼ら弱小国は戦場で列強からの支援無しでは極めて厳しい状況に陥ってしまう。
それにもかかわらず歯向かってくるのは、彼らがある程度の組織力を持っていることの証左に他ならない。
おそらく下を向いてやり過ごそうとしている面々の中にも、反抗組と水面下でつながっている国家が隠れていることだろう。
一応、彼らを一時的に指揮下に置いていたので、ある程度はそういう繋がりを把握しているつもりだが、全てを把握するためには人手も時間も何もかも足りなさすぎる。
「だからと言って、日仏というたった2ヵ国が8万4千個もの魔石を独占するのは、強欲以外の何者でもない!」
脳筋インディアンの脳味噌役であるボツワナ野郎が何か言っている。
そう言うお前らは一体どれだけの戦費をかけたんだよ?
日仏は1兆6000億円つぎこんだぞ。
今度の戦いでも流用できる兵器類の購入額が大半だけど、消耗した武器弾薬や兵器の整備補填費用も1000や2000では
「それはつまり今回の戦費もある程度負担するということでよろしいか?
ちなみに諸君らが乗り捨てた輸送多脚車両は1両あたり550万$、ロケット弾は1発20万$だ」
会議室に重い沈黙が舞い降りた。
高嶺嬢と白影の二人がいるキッチンからの良い匂いがあまりにも場違いだった。
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