第四十五話 引き延ばされる外交回

 理不尽な要請をかました挙句、俺とイロコイボーイに向け不敵な笑みを浮かべるシャルロット公女。

 ルクセンブルク一派はイロコイボーイ達と同じ第三世界側ではあるが、協力関係にある訳ではない。

 イロコイボーイ達はダンジョンの第3層解放直後から末期世界で戦っていたのに対し、公女達は魔界を攻略していた。

 第三世界諸国と一括りにされているものの、実態は全くの別勢力と言って良いだろう。

 そんな彼女が日仏連合と末期世界の第三世界諸国との会談に割り込み、散々に掻き回して日仏連合に喧嘩を売った理由。

 

「我が国としては、ルクセンブルク大公国からの要請は遺憾と言わざるを得ない」


 どうせ会談を破綻させて日仏と第三世界諸国との協力を阻止したいとかそこらだろう?

 イロコイボーイ達の内心に関係なく彼我の戦力差を冷静に考えたら、彼らの協力が有ろうと無かろうと日仏連合が戦果を総取りして一人勝ちしかねない。

 それを防ぐためには第三世界諸国側が日仏と歩調を合わせ、共闘と言う形でお零れにあずかることが必須だ。


「なんてことですの!?

 妾達中小国とは隔絶した国力を持ちながらも、共に戦うにあたり支援を拒否するなんて!

 本当に共同してダンジョンを攻略する気があるのか疑わしいですわ」


 魔界第3層での経験により、そのことを身に染みて理解している公女は、日仏と第三世界諸国だけの会談を壊すために割り込んできた。

 彼女の介入がなければ、第三世界側は感情論でどう言い繕っても最終的には日仏との圧倒的な戦力差の前に膝を屈するしかなかっただろう。


「共同と言う言葉を借りて、特定の国家から一方的に搾取する関係は極めて歪だ

 各国の立場を平等とするためにも、負担の等分と指揮権の自立は必須条件だと言えよう」


 もっと言えば、公女の目的は末期世界の第三世界諸国間にもくさびを打ち込みたいといったところか。

 公女の特典『現状を事細かに説明された書物』の存在もあって、公女一派は第三世界諸国という括りの中でも頭一つ飛びぬけた派閥だ。

 特典持ちか中堅先進国の探索者がもう一人か二人加われば、同盟、連合、日仏の三大勢力に準ずるとは言わないまでも、パワーゲームに参加できる程度には強い。

 第三世界諸国の中でも浮いた存在であることは容易に想像できる。


「自国本位な詭弁ですわね。

 共同作戦と言う形を取ろうと、彼我の国力差からどう転んでも戦線の主導権は貴方達が握ることになる。

 大国と中小国を真に平等とするためには、大国からの支援と指揮権の統一は必要不可欠と言えましょう」


 先進国ではあるものの、どうしようもない国力不足により他国を取り込んで勢力拡大なんてできる筈もなく。

 公女一派は強大とも弱小とも言えない中途半端な身の上で、外交的に孤立してしまっているのだ。

 その状況を打破するには既に出来てしまっている多国家共同体を分断し、個別に同盟関係を結んでいくしかない。

 分断せずに同盟を申し込めば、多数勢力の数的優勢に押し切られて公女側の支出が多くなることは分かりきっているしな。


「それこそ詭弁だ。

 支援を受けることは紐付きとなることと同義。

 そこに真の平等なんて存在しない。

 そもそも貴国は今回の会談には関係なかった筈では?」


 そりゃあ、公女も群れた雑魚国家共を分断したくなるってもんよ!


「何を異なことを…… 妾達もこのダンジョンを攻略している以上、貴国との会談に参加する権利がありますわ。

 このダンジョンの攻略環境に関わる会談ならば尚更、妾達の参加を阻む理由はなくって?」


 …… えっ? たった二ヵ国だけの日仏連合はどうなのかって?

 ははは、いくら群れようと小国が列強に敵う訳ないじゃない!


「貴国が率いる派閥とは日を改めて会談する機会を設ける。

 しかし今は貴国らとは別の勢力との会談中。

 我が国はこの場からの一時退去を要請する」


 まあ、それはともかく、このまま公女のペースに乗せられたままだと祖国からのミッションを達成できなくなってしまう。

 だからと言って公女の要求を呑むなんてあり得ないし、山火事の真っ只中に高価な先端兵器を投入しての白兵戦なんざ真っ平御免だ。


「強大な国力を持つ列強が小国に対し個別の交渉を要求するなんて、あまりにも露骨な恫喝外交ですわ。

 末期世界第三層を攻略する国家の一つとして、そのような大国の横暴に屈することはできません」


 だったらどうするか?

 簡単だ。

 相手の嫌がることをすれば良い。

 つまり、イロコイボーイ達の立場を日仏寄りにして、ルクセンブルク対その他という構図を作り上げれば、公女の思惑を打破できる。


「そうは言うが、先程から貴国の主張を聞いている限り、貴国はこの会談を破綻させようとしているようにしか見えない。

 この会談が破綻すれば、我が国と各国は別々の戦術で攻略を進めざるを得なくなる。

 それはこの階層を攻略する全国家にとって、あまりにも大きな不利益を生むだろう。

 貴国は貴国の派閥以外の全国家を陥れようとしているのか?」


「なんですってっ!?」


 公女の攻撃をひたすら避けていた俺からの強烈なカウンターに、彼女は怒りと驚きで顔を染め上げた。

 しかし、この時の俺は気づかなかった。

 険しさを増した彼女の顔、その口角が僅かに吊り上がっていたことに。


 俺は十分に理解していなかったのだ。

 第三世界諸国と一括りにしていた探索者達の実態を。

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