第四十四話 しゃしゃり出てきたミッション
一般論を言うならば、第三世界に属していると認識されている国家は人類同盟と国際連合の二大勢力に属しておらず、両派の対立構造において政治的に比較的中立、もしくは無関係な国々と言われている。
だが実際には親同盟諸国、親連合諸国、独自小勢力、永世中立国、自称永世中立国、存在価値も影響力もない虫けら国家といった雑多な国家群の集合体だ。
そして、そんな彼らが一枚岩な訳もなく、第三世界国家間でも利害や政治信条、民族宗教等の問題で対立関係が星の数ほど存在しており、常に相手の足を引っ張って自国の利益を掠め取ろうといがみ合っている。
それは人類の存亡をかけた並行世界とのダンジョン戦争の真っ只中であっても例外ではない。
むしろ次元管理機構により国境が閉鎖されたことで、大国による介入が極めて限定的になり、抑えのないまま対立が深まりつつある。
いや、国家間の対立ならまだマシだ。
国際社会に開示されてないだけで、内乱が勃発していても不思議でない国など少し考えただけで幾つも思い浮かぶ。
時を経るごとに混迷を深める国際情勢の中、日本は二大派閥のどちらにも属していない唯一の地域覇権国家として、欧州の列強フランスを傘下に治めながらも慎重な舵取りが求められている。
政治的立ち位置が第三世界諸国に近しい日本は、列強としての確固たる存在感を示しつつ諸国間の絶妙なパワーバランスを保ったまま、諸国との友好と自国の影響力を深めなければならない。
そういうことだよね?
『ミッション 【目指せ友達229ヵ国!】
第三世界諸国と共同戦線を構築して友好関係を深めましょう
対象国家:イロコイ連邦 ボツワナ共和国 キプロス共和国 トリニダード・トバゴ共和国
パナマ共和国 タンザニア連合共和国 ナミビア共和国 タークス・カイコス諸島 ケイマン諸島 他26ヵ国
報酬 LJ-203大型旅客機 6機
依頼主:日本国外務大臣 菅義政
コメント;外務省は暇だぞぃ!』
『ミッション 【アフリカの鉱山権益が心配】
アフリカの第三世界諸国に対する影響力を増大させましょう
報酬 超大型自動車運搬船 東名丸級 3隻
依頼主:日本海外権益保護連合会会長 保田善太郎
コメント;商社って何すれば良いんだろうね?』
シャルロット公女がしゃしゃり出てきたタイミングで発令された二つのミッション。
官民双方から同時に出されるシチュエーションに嫌な予感もしたが、幸いにも今回は互いの利権がかち合っている訳ではなかった。
しかし、そうは言っても相変わらず我が祖国は無茶をおっしゃる。
ちなみに東名丸級超大型自動車運搬船は、通常航行を自然エネルギーのみで完結させた日本が誇る最新鋭の自動車運搬船だ。
全長320m全幅42m全高56m排水量24万tの巨体は18段の貨物デッキを持ち、3万台の乗用車を一度に運搬できる。
貨物室を満載にしてくれていたら、総額3000億円に届くんじゃないか?
「大国からの援助もなく、末期世界を一か月間戦い抜いた諸国家の勇敢なる戦士達!」
日本と第三世界諸国の間に割り込んできたルクセンブルク大公国。
シャルロット第一公女にしてナッサウ公女が、俺を
「幾多の逆境を乗り越え、ようやく勝利の希望が見え始めた最中!
勝ち馬に乗らんとばかりに、のこのことやって来ては我が物顔で強権を振るう横暴な列強!」
とんでもない悲劇だ! と言うかのように手を胸に充てて悲痛な表情を作る公女。
まるでオペラみたいね!
「なんという悲劇でしょう!!
強欲な大国が人類のために戦う中小国家を踏み躙り、自らの利益のみを貪ろうとしているのです!!」
わざとらしく瞳を潤ませた公女が、全方向に対して己の主張を盛大に訴えている。
どうでも良いけど、中小国家も人類のためじゃなくて自国のために戦ってるでしょ。
弱者はピュアで正しいみたいな風潮ってどうなんだろう?
「こんな暴挙が許されて良いのでしょうか!?」
『…………』
公女が
なんという悲劇でしょう!!
「…… 許せませんわ!!」
公女が何に対してなのかは知らないが、自らの強い怒りを表明する。
心なしか彼女のイロコイボーイ達を見る眼差が刺々しくなったように感じた。
「とにかくっ……!
妾は日本による第三世界諸国への強権的な要請を断じて認めませんわ。
よって、日本にはこの末期世界第3層からの撤退、もしくはこちらへの指揮権譲渡、物資支援が条件の共同戦線構築を要請しますわ」
無理やり流れを変えて話を終わらせたシャルロット公女。
強引な話の流れをキリッとした決め顔で強引に収めやがった。
まあ、それは良いとして…… 指揮権譲渡に物資支援だぁ?
ふざけてんのか!?
ぐんまちゃん、げきおこだよっ。
こうなれば日仏連合は国際協調路線を破棄し、独自作戦に移らせてもらう!————
—— といった感じの反応が欲しいんだろうなぁ、この公女は。
勿論そんなことはしないし、それは公女どころかこの場にいる誰もが分かっているだろう。
ならば何故ここまであからさまな挑発じみた要求を行ってきたのか。
公女一派は日仏連合と第三世界諸国との会談を何らかの目的に向かって誘導しようとしている。
俺とイロコイボーイ達から向けられる突如現れた第三勢力への警戒した視線。
それを浴びながら、公女は怜悧な美貌に不敵な笑みを浮かべた。
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