第三十九話 勝利の裏で

 薄暗い室内に6人の男女が向かい合って座っていた。



『ミッション 【高度魔法世界 第3層の解放】 成功

 報酬 道具屋 武器屋 防具屋 の 新商品 が 解放 されました』


『高度魔法世界 において 第3層の解放 が達成されたので 第4層 が解放されます

 7日間 高度魔法世界 に侵攻することはできません


 レコード は 1137時間50分13秒 です

 【総合評価 A 】を獲得しました 特典 が 追加 されます』


高度魔法世界 第三層 要塞都市☆リン=グラード

日本 フランス ドイツ ギリシャ リベリア……詳細 攻略完了


『高度魔法世界 は 第四層 が解放されました

 高度魔法世界 は 武装 が解除されます

 高度魔法世界 は 国軍 の投入が許可されます』



「—— 遂に攻略されたか」


【これで人類同盟と日仏連合、三大勢力のうち2つの勢力がフリーハンドとなりましたね】


[残された第3層ダンジョンは機械帝国と末期世界ですか]


(どちらの勢力も単体で階層攻略が可能な戦力です。

 どう動かれたところでダンジョン攻略が混乱するのは避けられません)


〈両陣営とも相応に消耗したはず。

 しばらくは戦力の回復と再編に注力するのでは?〉


{いや、同盟はともかく日仏連合は少数精鋭だ。

 彼らなら明日には次のダンジョンへ侵攻していたとしてもおかしくない}


[個人戦力に大きく依存している分、一定期間の休息が必要なのではないですか?

 彼らの現状だと無理をしてまで急ぐ理由がないでしょう]


(仮に休息する必要がなかったとしても、日仏による戦功独占を同盟が許すとは考えられません。

 やはり両陣営とも戦場を移すのにある程度時間がかかるはずです)


【そう決めつけるのは早計ではないですか?

 万が一の混乱を避けるためにも、彼らの即時参戦に備えなければ】


{もちろん早急な対策は必要だ。

 だが、両陣営の今後の動きをある程度掴まなければ対策のしようがないだろう}


【順当に考えて、同盟は我々連合との競合は理が少ないと判断するでしょうね】


〈逆に有象無象の第三世界諸国なら大勢力の同盟にとっては競争相手にならないはず〉


[同盟の政治的優越は多数派原理によって揺らぐことはありません。

 日仏連合の動きには同盟の意向が大なり小なり反映されます]


(階層ボスを日仏連合が討伐したことで、彼らは同盟の面子を潰してしまいました。

 コウズケ氏がまともな外交感覚の持ち主なら、どこかで同盟に譲歩せざるを得ないことは理解しているはずです)


{つまり次の目標は同盟が末期世界、日仏がこちらか}


【日仏連合とは毎回共闘していますが、その都度階層ボスを彼らに討伐されていますね……】


{ああ、そのせいで我々だけが三大勢力で唯一、階層ボス討伐経験がない}


[そろそろ実績を作らなければ、我々は軽視されかねません]


〈確かにその可能性は高いかと。

 しかし、だからと言って高低差の激しいこのダンジョンでは、機甲戦力を主力とする我々よりも少数の個人戦力を運用する日仏が機動力では遥かに優位〉


{くっ…… 政治的、外交的オプションも使う必要があるな}



「………… いや、このダンジョンに来るのは同盟だろう」


〈…… ほぅ〉


【大勢力同士で競合すると分かっていながらですか?】


{日仏連合に同盟の譲歩を引き出すような手札があると?}


「違う。

 同盟は自ら望んでこのダンジョンに参戦する」


 …………。


「…… 末期世界よりも我々の機械帝国は攻略進度が遥かに進んでいる。

 仮に同盟が末期世界へ参戦したとしても、奴らが攻略し終える前に我々と日仏連合がここを攻略し終えるだろう」


[しかし、同盟はそうなったところで我々と競合するよりも多くの魔石を得ることができるでしょう]


「同盟を主導する国々はまだ資源に余裕がある」


【同盟の目的は魔石ではないということですか?】


{奴らは既に第3層ダンジョンを1つ攻略済み。

 ここで我々と競合すれば、奴らは攻略面で我々に対する優位性を維持できる。

 日仏連合は高い実力を持っているが所詮は2ヵ国連合、戦力だけでなく政治外交面で奴らと真に対抗できるのは我々のみ。

 我々への妨害が目的ということか……}


「それもあるが、最大の目的は日仏連合と第三世界との軋轢あつれきだ」


〈………… そうか、確かに…… だとすると、コウズケ氏では……〉


(末期世界で日仏連合と第三世界諸国が対峙するというのですか?

 力の差が有り過ぎて勝負にならないのでは)


「その通りだ。

 日仏連合は第三世界を突き放し、末期世界の魔石を狩り尽くして攻略特典の過半を独占するだろう」


{そして第三世界諸国との関係に亀裂が入る、か}


「全ての国々とは言わないが、それなりの戦力を持つ国々との関係は悪化するだろう。

 そしてそれらの国々の受け入れ口として同盟が門戸を開く」


〈同盟の戦略目標は人類最大勢力の維持。

 それらの国々が同盟へ合流すれば、人類国家の過半数が同盟参加国となる〉


【コウズケ氏なら同盟の目的も読んでいるのではないでしょうか?】


{彼の外交センスなら攻略を進めながらでも諸外国との協調は可能なはずだ}


「トモメなら同盟の狙いも分かっているだろうし、他国との協調も可能だ。

 だが、あいつはやらない」


〈彼は戦術、政治、外交、管理など多くの能力に優れるが、戦略家ではない。

 同盟の女傑は他の面で彼に大きく劣るが、戦略家としては彼の遥か先を行く〉


「それにあいつは自国の利益を最優先する自国第一主義者だ。

 他国と関係を持つ場合は、フランスのように何らかの形で自国優位な関係にしようとする」


(そのせいでコウズケ氏はどこまで行っても少数勢力の覇権国であり、反対にエデルトルート女史は最大勢力の主導国となる。

 そこが彼の限界と言うことですか……)


「ああ、だからと言って逆境に立たされないことこそ、トモメの真に恐ろしいところだが……」


[大戦略を戦略で、戦略を戦術で、戦術を戦闘で覆す怖さを日仏連合は持っていますからね]


〈しかし戦略レベルのからめ手には弱い〉


{…… だとしても、このまま同盟の思惑通りに進ませる訳にもいかないだろう}


[同盟にいつまでも優位に立たれたままでは面白くないですね]


【つまり我々の今後の動きとしては……】


「ああ、我々は————」



 全ての探索者が自国に利益を得るべく行動する。

 そしてあらゆる国家の企みはゆっくりと、しかし確実に進む。

 どのような存在にもそれは止められない。

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