第二十六話 敵前線基地

 7月1日、日仏連合は参戦から僅か1日で渡河作戦を成功させ、北部市街地の過半を支配下に置いた。

 超戦力を前面に出した日仏連合は、多大な戦果と裏腹に損害は極めて軽微であり、更なる進撃を計画する。

 一方、高度魔法世界側は日仏連合に相対する戦線へ配置していた4個歩兵大隊、市街に分散配置していた1個装甲大隊1個砲兵大隊、上空に展開していた1個戦闘機飛行隊を喪失。

 極めて短期間での膨大な戦力の喪失に、当該区画を担当する師団司令部は戦線の維持を断念。

 師団残存戦力の半数を集結させ、北部市街地に築いた前線基地での籠城戦を図った。






『ミッション 【敵の文化を研究しよう】

 高度魔法世界の美術品を本国に送りましょう

報酬 エアブスA-620大型旅客機 2機

依頼主:フランス共和国芸術創造大臣 クリスチアーヌ・ボーマルシェ

コメント;昨日は久しぶりにニュースでデモの話題が出ませんでした』


 フランスはようやく混乱していた国内が安定したんだな。

 日本に比べるとずいぶん遅い印象を受けるが、それもこれも初動対応の違いだろう。

 しかし、美術品か。

 日本は魔道機器などの技術情報の収集に熱心なのだが、フランスは敵の文化面に関心が強い。

 これもお国柄ってやつだ。


 美術品と言っても、市街地は3週間近く続く激戦ですっかり荒れ果てており、めぼしいものは既に失われてしまったと思われる。

 絵画などは絶望的だし、彫刻類や陶器類は砲爆撃の振動でそのほとんどが損傷してしまっているだろう。

 そもそも廃墟となったこの工業都市に、元々そんなものが存在したのだろうか。

 まあ、それでもミッションで指示された以上、やらないという選択肢はない。


 俺は眼前にそびえ立つ近代要塞を見据える。

 恐らく敵の前線司令部の一つだと思われるこの要塞。

 ここの高官居室などにだったら美術品の一つや二つ置いているはずだ。


「べトンで固めた星型城郭。

 各所に配置された対空対地兼用の高射砲塔。

 防壁内には隠蔽式の野戦砲群に無数の堡塁ほうるい

 地下に構築された要塞本体は、どの程度の規模なのかも不明。


 正に難攻不落ってやつだね」


 俺の隣で双眼鏡を覗き込んでいる『水筒に飲み物を入れてくれる美少女(幼馴染)』。

 彼女は言葉とは裏腹に、その口元を好戦的に歪める。


「セオリー通りなら砲爆撃で地上施設を徹底的に叩いた後に地中貫通爆弾バンカーバスター

 でも、そうもいかないんだよね?」


 幼馴染が言った手法は、戦術的には最適なものなのだが、如何せん俺達には色々な事情がある。

 魔石を資源チップに変換して本国に送らなければならないので、少なくとも戦闘後に魔道機器に内蔵されている魔石の回収が困難になるような手法はとれない。

 それに加えて、俺達は敵の美術品収集もする必要があった。

 これでは敵基地に強い振動を与えるような砲爆撃も嫌厭してしまう。


「ああ、それができたら人類同盟は、俺達がこの階層へ来る前に市街地を瓦礫の山へ変えてるさ。

 あの要塞には少数戦力で浸透するしかない」


 要は、いつものやつだ。

 決戦兵器で正面からお邪魔し、敵の混乱に紛れてNINJAが全く忍ばないスニークミッションを行う。

 俺と従者ロボは後方で魔石採取。

 もはや様式美とも言える俺達日仏連合の鉄板戦術。

 まあ、今回はそれにひと工夫を加えているのだが。


「ああ、そっかぁ…………」


 幼馴染は昨日の戦闘風景を思い出しているのか、どこを見てるとも分からない遠い目をしている。

 彼女達『水筒』シリーズはあらゆる銃器のスペシャリスト。

 無人兵器の管制や整備運用、車両や航空機の操縦も一線級。

 1人で俺100人分の戦闘力を誇る歴戦の兵士だ。

 そんな彼女達でも、決戦兵器とNINJAの戦闘は刺激が強かったのだろう。

 彼女の脇に抱えられた長大な大口径対物ライフルがやけに頼りない。


ドゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンッッ!!


 凄まじい地響き。

 何の前触れもなく要塞陣地の一角が抉り飛ばされる。


「始まったか……」


 高嶺嬢によるダイナミック家庭訪問の合図と共に、けたたましいサイレン音が鳴り響く。

 今頃、敵兵達はヘイヘイの洗礼を存分に味わっていることだろう。

 心ゆくまでヘイヘイされて欲しいものだ。


「トモメ君、あたし達も移動し始めよっか?」


 幼馴染が頃合いを見計らい、作戦を次の段階へ移行するための準備行動を提案してきた。

 白影を万が一にも発見されないよう、今回の陽動は二段構えとなっている。

 最初に高嶺嬢で敵の主力を根こそぎ引きつけ、次に俺と従者ロボ、幼馴染、委員長が基地内に残留する兵力を誘引する。


「…… もうちょっと高嶺嬢に引きつけて貰ってから行かないか?」


 ヘタレた訳ではないが、少し怖くなってきた。


「駄目だよっ!

 委員長はもう先行してるんだし、あたし達も早く配置につかなきゃ!!」


 俺のヘタレ根性は幼馴染に即却下され、引き摺られるように戦場へと向かわされる。

 だんだんと大きくなる戦場音楽が、俺に現実逃避の余裕を奪い去っていった。

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