第三十五話 怒りのフジヤマボルケーノ

 国際連合拠点爆破事件、一応の連帯を見せていた人類間の信頼関係を大きく揺るがしたこの事件。

 その結末は事件が与えた影響と比較して、余りにも呆気なく終わった。

 俺達日本勢と同様に独自の調査を進めていた人類同盟による、犯人の発見及び捕縛。

 事件の発生から1日しか経っていないにも拘らず、鮮やか過ぎる手際だった。


 人類同盟が突き止めた犯人は、シーラという名前のスウェーデン王国の探索者。

 うん、やけに聞き覚えのある名前だ。

 彼女は功績をあげることができず、ダンジョンも二大派閥と日本勢の独壇場であることに焦り、浅慮にも妨害工作を行ったらしい。

 犯行途中の彼女に気づいた中華民国の男性と、スウェーデンの男性が彼女を止めようとはしたものの、二人とも彼女の凶刃の前に倒れた。


 へー、知らない所で死者が一人増えてるよ。

 しかも、俺の知り合いっぽい気がするよ。

 シーラは中華民国人の死体はどこかに埋めて、スウェーデン人の死体は国際連合の拠点諸共爆破したそうだ。

 おいおい、俺の鑑定結果と明らかに違うんだけど!


 碌な調査機器のない現状では、シーラの凶行は露見しないはずだった。

 しかし、事前に中華民国人男性は、同国の女性探索者に連絡を取っていたのだ。

 それ以降連絡を絶った中華民国人男性、国際連合の拠点爆破、これらをつなぎ合わせた中華民国女性が主導して、シーラが犯人であることを突き止めた。

 人類同盟から説明された事の顛末てんまつは、こういうことだった。


 犯人を捕縛した人類同盟と、被害を受けた国際連合との合同裁判は、明日行われる予定だ。

 こんな状況下で貴重な戦力を二人も殺害し、膨大な物資を爆破したシーラに下る罰は、重いものとなるだろう。

 現在、人類同盟の中心的役割を担うドイツ根拠地に監禁されている彼女の未来は、決して明るいものではない。


 なんにせよ、これにて一件落着。

 大きく揺らいだ人類間の信頼関係は、二大派閥の合同裁判という形で固め直すことになる。

 人類同盟に大きな借りができたことによって、国際連合は同盟に妥協せざるを得なくなり、結果的に二大派閥の連携につながるだろう。

 雨降って地固まる、とは正にこのことだな。

 いやぁ、良かった良かった!


 ………… 良くねぇよ!!!?

 スウェーデン組は確かに目立った成果を上げていないものの、先進国らしく最新鋭の装備と充実した補給によって、堅実に魔石は収集できていたと聞いている。

 ダンジョンへの探索だって、国際連合がいようと誰がいようと、出入りは自由だ。

 多少はモンスターが取られることもあるのだろうが、全く魔石を収集できないほどじゃあない。


 それに焼死体がスウェーデン人ということも可笑しすぎる。

 俺の鑑定結果は間違いなく中華民国人だった。

 そして何より、爆破地点から発見された韓国製の装置!

 スウェーデンの探索者が、わざわざ韓国製品なんて使う訳ないだろう!?

 探索者に支給するような物資は、基本的に自国生産品か、最先端かつ信頼性のある外国製品だ。

 性能も信頼性も低い韓国製品なんて、自国の探索者に送り付ける先進国は存在しない。


 まず間違いなく、スウェーデンは冤罪えんざいだろう。

 人類同盟からの説明、今まで得た証拠、そして今の状況を考える限り、真犯人は中華民国の女探索者がやべぇくらい怪しい。

 同国内での主導権争いのために、起爆装置に細工してパートナーを謀殺し、ついでに全ての罪をスウェーデンにおっ被せていたとしても、俺は驚かないね!!


 もちろん、この事は国際連合のアレクセイにきちんと伝えた。

 彼も直前まで俺と一緒に探偵ごっこをしていたこともあってか、すんなり俺の言い分に理解を示してくれた。

 しかし、ここで俺達が持っている情報を出して、人類同盟に反論しても、既に犯人ということになっているシーラが同盟の手の内にある以上、状況を覆すことは難しい。

 むしろ、さらに現状が混迷化し、事件の解決を先延ばしにしようとする連合と、事件の早期解決を望む同盟という、連合にとって非常に都合の悪い絵面になりかねない。


 結果として、国際連合の首班たるアレクセイは、人類同盟の主張を受け入れて、合同裁判を開くことになったのだ。

 借りを作った連合は裁判中の取引、および裁判後の派閥間交渉において、同盟への譲歩を余儀なくされる。

 今回の件で同盟は、連合の力と勢いを削りつつ、自身にとって有利な状況を作り上げることになるだろう。

 彼らの描く裁判後の絵面には、現在暇を持て余している強大な戦力である俺達日本勢も勿論含まれることになる。

 人類同盟による政治的な勝利と言えるだろう。


 以前、共にダンジョン探索を行ったスウェーデン人のアルフが殺され、シーラも悲惨な結末になろうとしている。

 そのことに関しては、ちょっと悲しいけど、でも人生ってそういうものだよね。

 しかし、俺達が誰かの思惑通りに転がされ、良いように使われるのは我慢ならねぇ!!

 激おこどころじゃねぇ、激おこぷんすかフジヤマボルケーノだよ!!!


 こうなりゃあ、とことん引っ掻き回すしかねぇなぁ。


「…… 白影」


「なんでござるか?」


「ちょっとお願いしたいことがあるんだけど」


「……?

 拙者にできることなら、なんでもするでござる」

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