第三十三話 国際連合との交渉

『壊れた装置:何の装置か分からない。Made in Korea』


 国際連合拠点爆破事件の現場である機械帝国第2層で発見した壊れた謎の装置。

 俺の持つ鑑定スキルによると、この装置の製造国はMade in Korea、つまりは大韓民国であることが分かった。

 大韓民国、通称韓国は国際連合と対峙している人類同盟に所属する国家。

 国際連盟に属する朝鮮民主主義人民共和国、通称北朝鮮とは第三次大戦で総人口の3割を失う血みどろの激戦を繰り広げた。


 そんな韓国の装置が、国際連合の物資集積地に紛れ込むことは考えにくい。

 韓国を装った他国の犯行の線も存在する。

 だが、本国からの補給に制限のある現状、素直に韓国が何らかの形で犯行に係わっていると見た方が自然だろう。


 本来ならば、この情報が手に入った段階で事件解明は7割方終了したようなものだが、残念ながらそうはいかない。

 なにせ、この情報は俺のスキルで得たものだ。

 鑑定結果は俺に対してしか表示されない以上、韓国製なんて情報は根拠があやふや過ぎて証拠として使用できない。


 まあ、それでも使いようはあるんだけどね。




「———— 話は分かった。

 だが、情報源を明かせないなら、その情報に価値はないぞ」


 テーブルの向かいに座る国際連合の主要メンバー。

 その中心に座する国際連合盟主ロシア連邦の探索者、アレクセイ・アンドーレエヴィチ・ヤメロスキーは、俺達が持ってきた装置を手に取りながら顔をしかめた。

 今いる場所はロシアの根拠地。

 ここは国際連合の本拠地としても使用されているようで、俺達が案内されたこの部屋には、大きな円形のテーブルが設置されている。


 あの後、俺は近くにいたウクライナの探索者を高峰嬢と白影、従者ロボで囲みながら、アレクセイとの面会希望を伝えたのだ。

 幸運にもウクライナの探索者は話の分かる男だったようで、俺の希望を全面的に受け入れてくれた。

 そうして整えられた国際連合主要メンバーとの会談。

 俺は小細工抜きで冒頭に証拠となる装置を提供した結果が、アレクセイの反応である。


「そうだろうな。

 相手側もそう反論するし、常識から言って拠点跡から発見されたその装置が、韓国製だとは証明できないだろう。

 だが、参考程度にはなるだろう?」


 そうだ、別に俺達日本勢の目的は事件を解明することじゃあない。

 事件を利用して日本の地位を高め、他国の地位を低下させることができれば、それで良い。

 もちろん、ベストなのは日本主導による事件解明だろう。

 だけど、調査機器や設備、人員、なにより時間の限定されたこんな環境下では、まともな調査なんてできやしない。

 だったら、被害を受け犯人捜しを血眼になって行うであろう国際連合を程良く助けつつ、人類同盟への敵愾心を煽るしかないね!


「参考、か。

 俺としてはトモメ達日本勢が、国際連合と人類同盟の関係を悪化させようと画策しているようにも見えるんだけど?」


 アレクセイがねちっこい目をこちらに向ける。

 情報源を明かせと暗に言っているご様子。

 彼の言うことも最もだ。

 逆の立場なら俺でも同じように考える。

 しかし、俺の目的は事件解明なんかではない。

 他国に恩を売りつつ嫌がらせができれば良いのだ。


「君達国際連合がどう思おうとも構わない。

 情報源を明かせないのは、俺達日本側の勝手な都合だ。

 だが、それでも日本は、このような人類存亡の中、利敵行為を働く国家に対する正義感と、被害を受けた国際連合に対する善意に基づいて、君達に情報を提供しよう」


 真摯しんしに伝えた俺の言葉に、猜疑心さいぎしんに満ちていた相手側の顔色が露骨に変わる。

 ふふ、チョロイな。

 所詮は一般人の若造と小娘共。

 ちょっと誠実に振舞えば、コロッと転がるぜ!


「…… トモメ達が提供してくれた装置を証拠として、犯人を糾弾することはできない。

 それでも、貴国の支援には、感謝しよう」


 アレクセイは流石に場の雰囲気には流されていないものの、『日本は味方』という流れには逆らえないようだ。


「構わない。

 俺達は一般的な倫理に基づいて行動しているだけだ。

 ただ、今分かっていることは、その装置が韓国製であるということだけ。

 ヒントにはなるものの、決定打にはならない」


 韓国製かどうかは断定されていないが、韓国の地位低下を狙って、韓国製だということが前提で話を進める。

 悪いな韓国、俺、キムチ嫌いなんだわ!


「だからこそ、事件解明のために更なる調査が必要だ。

 俺達日本は、拠点跡で発見された焼死体の開示を求める」


 俺の要求に、アレクセイの眉がピクリと動く。

 他のメンバーも顔色が少し悪くなっていた。

 元々一般人だった連中に、人間の焼死体は刺激が強すぎたのか?

 俺のスキルで焼死体を鑑定すれば、その人物の情報がだいたい手に入る。

 もしかしたら殺害された状況についても、分かるかもしれない。

 焼死体の開示は、更なる他国への嫌がらせのためにも、なんとしても認めさせたい。


「何のために?」


「死体の身元調査だ」


 アレクセイは俺の言葉に黙り込んで深く考えている。

 国際連合としても死体の身元調査くらいは既に行っているだろう。

 もしかしたら、それによって何らかの情報がつかめたのか?


「爆破事件後、国際連合が急遽調査した結果、全ての探索者の内、行方の分からない人間は57名存在している。

 その内、3日以内に行方をくらました人間は14名。

 14名の中から死体の身元を絞り込むことは、現有の設備、機器、人員ではできなかった」


 俺を見つめるアレクセイの目が、日本はどうするつもりだ、と尋ねている。

 まさか俺のスキルを開示する訳にもいかないので、含みを持たせて笑うことしかできない。


「俺達日本は、身元を絞り込む方法を保有している。

 もう一度言おう、日本は焼死体の開示を求める」

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