第二十九話 女死力と足りない敬意

『ミッション 【労働法を遵守しましょう】

 今日は根拠地から出ないでください

報酬 LJ-203大型旅客機 8機

依頼主:日本国厚生労働大臣 田中正栄

コメント;君らの労働問題でまさかの大規模デモ勃発! 今日は休んでくれ!! 頼む!!!』


『ミッション 【協定破りも辞さない】

 資源チップを納品しましょう

 鉄鉱石:50枚 食糧:50枚 エネルギー:60枚 希少鉱石:25枚

 非鉄鉱石:50枚 飼料:50枚 植物資源:50枚 貴金属鉱石:20枚

 汎用資源:25枚

報酬 エアバスA-620大型旅客機 2機

依頼主:フランス共和国32代大統領フランソワ・メスメル

コメント;他国との協定よりも、国内が不味いのです』


 ダンジョン攻略を始めて、なんやかんやで18日目。

 日仏共に国内は大変そうだが、人類同盟と国際連合との協定の関係上、彼らが末期世界と機械帝国、それぞれのダンジョンを攻略するまで、俺達日本勢は動くことができないんだよね。

 フランスには今まで余った魔石を回せば、1、2週間は何とかなるだろう。


 今日に至るまで、ひたすら突っ走ってきた訳だし、自分自身そろそろ休みが欲しいな、と思っていたところだ。

 ここらで一旦一息つき、態勢を立て直すのも今後のダンジョン攻略を考えれば、必要なことか。


 俺は食堂で緑茶を啜りながら、ホッと一息ついた。

 あぁ、高峰嬢がれてくれたお茶は相変わらず美味しいなぁ。

 

「ふーん、ふーん、ふんふん♪ ふーん、ふーん、ふんふん♪」


 テーブルを挟んで俺の向かい側では、高峰嬢が鼻歌を歌いながら縫物ぬいものをしている。

 何が楽しいのか、ニコニコ微笑みながら、手慣れた手つきでほつれた迷彩服に針糸を通していく。


 あれ、それって俺の装甲服じゃない?

 一応、布地だけで300m先から撃たれた拳銃弾を防げるくらいの分厚い防刃素材で作られた、32式普通科装甲服3型ではないですか?


「ふん、ふんふん♪ ふん、ふーんふ、ふん、ふん♪ ふんふんふーふ、ふん、ふん♪」


 無駄に綺麗な音程と、明確でありながら滑らかに移り行く強弱がつけられた鼻歌。

 そんな鼻歌を歌いながら、顔色一つ変えることなく、ただの針で最新の防刃素材を易々と貫いてゆく。

 今日は完全にオフなので、袖の広いゆったりとした白いブラウスに薄柳色のロングスカートという落ち着いたお嬢様スタイルの高峰嬢。

 いつもはストレートにいている髪は、今日は髪型を変えたようで、後頭部で綺麗に編み込まれていた。


 うん、彼女の女死力は本当に高いなぁ。

 俺はお茶を飲みながら、しみじみとそう思った。

 

「そういえば、君達に聞きたいことがあった」


 俺の湯飲みのお茶が少なくなったことに何故か感づいた高峰嬢が、自然な動作でお茶を継ぎ足してくれるのを後目しりめに、隣のテーブルでジェンガをしている従者ロボに話しかける。

 彼らは一瞬、手を止めてこちらを向くも、すぐに何事もなかったかのようにジェンガを続けやがった。


「おい、あるじ兼上司を無視するなや」


 いつも俺に突っかかってくる美少女1号へ軽く肘鉄を食らわせると、美少女1号はヤレヤレと欧米人っぽく首を振りながら体をこちらに向けた。

 前々から思ってたけど、本当にお前らって俺に対する敬意が足りないと思うよ?

 まあ良い、せっかく時間ができたことだし、今までずっと疑問に思ってきたことを解消する良い機会だ。


「君らってさ、説明文に『成長する』って書いてあったはずなんだけど、全くその気配みせないよな」


 俺の言葉に、美少女1号はもちろん、ジェンガの真っ最中だった他の11体も動きが止まった。

 そもそもこいつらのステータスは閲覧できないうえ、戦闘中の様子や荷物の積載量も変化してないので、こいつらが本当に成長しているのか、俺には分からないのだ。

 ご飯を食べるようになったとか、睡眠をとるようになったとか、挙句の果てに風呂に入り始めたなどの変化は見て取れるものの、成長と言えるような進化をする様子はない。


「そもそも、機械の君らが成長するってのも、人工知能以外有り得なそうなんだけどな。

 それにしても、武器屋や特典で君らのアップグレードに関することが何もないからさ。

 そこのところどうなのかな、って思ったわけだよ」


 俺はてっきり階層攻略の特典や、武器屋の新商品で従者ロボの改造部品やアップグレードが提示されるかと思っていた。

 しかし、現実には数が増えただけで個体能力は強化されないし、武器屋では本当に武器と弾薬しか売られていない。

 俺の問いに答えようと、美少女1号がワチャワチャと手を動かしている。


 後ろでは、他の従者ロボが思い思いのポーズをとって自身の力強さをアピールしているが、答えにはなっていない。

 食事はとれるものの、声は出せない彼らの身振り手振りでは、分かる方こそ無理がある。


 筆談すれば良いのになー。

 なんとか弁明しようとする彼らの慌てぶりを眺めながら、俺は単純にそう思った。

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