第二十四話 ガンニョムオタのアイデンティティー喪失
高度魔法世界第2層攻略を始めて5日目。
流石に5日目ともなると、スタート地点から見える景色も随分と様変わりしてくる。
侵略者を圧迫するコンクリートの壁は、度重なる爆撃と爆破によって基礎すら破壊し尽くされていた。
数えるのすら
本来ならば地面の下にその身を隠している要塞本体も、地盤ごと抉り取られて各所にその身を
高度魔法世界が用意した巨大要塞は、端的に言うと5日目にして死に体だった。
今までの4日間で魔石を7000個以上集めているし、俺達の姿が見えても敵兵に動きが見られないことから、要塞機能の大部分は消失したとみて良いだろう。
威容を誇った巨大な近代要塞を、3人と10体で更地に変えた光景は、我がことながら良くやったと思うよ。
いや、本当に。
4日間の努力の結晶を眺めながらも、俺は装備の確認を
軍靴の靴紐は緩んでないし、戦闘服に
主武装の26式5.7㎜短機関銃と副兵装の27式5.7㎜拳銃は昨日の内に整備され、試射も先程済ませた。
魔石を取り出すためのサバイバルナイフ、38式単分子振動型多用途銃剣は、予備も含めて2本携帯している。
手榴弾は破砕型の他にスタン、スモークを2個ずつ持ってるし、ポーションだって耐衝撃ケースに8本収納してある。
うん、完璧だね!
「ぐんまちゃん、何か嫌な予感がします」
唐突に、高峰嬢が昨日の俺と同じようなことを言い出した。
俺を見つめるその瞳は、不安というよりも、自分の考えていることが上手く言い表せないもどかしさを映している。
「そう言って今日も一緒に探索をするつもりか、女怪?
あまり私情を挟むのは感心せんぞ、と言いたいところだが……
トモメ殿、今回ばかりは拙者も何か不快な感覚がするでござる」
高峰嬢にサラリと
日仏が誇る直感と超感覚コンビの意見が合ったという事は、おそらく何かあるのだろう。
いや、確実に何かあるはずだ。
むしろ、ここまでフラグを立てておいて、何もなかったら、そちらの方が大事件だよ!
「うぅん、そこまで言うなら、今日の所は地下への入り口にカトンジツを流し込むだけにしておこうか。
本格的な探索は、適当な他国の探索者が当て馬代わりに突入するのを見届けてからだな」
無人機は狭い要塞内部だと相性が悪いし、防爆扉を閉められていたら、それ以上先に進むことはできない。
だからと言って替えの効かない従者ロボを偵察に出すのは、あまりにもリスクが大きすぎる。
高峰嬢と白影は論外だ。
失った瞬間、戦力的にも勿論だが、政治的に非常にリスクが大きい。
だったら、日本とも俺とも関係のない他国民に突撃させるのが、一番リスクが小さいだろう。
俺達が何かするまでもなく、彼らは魔石や戦利品を求めて要塞に突入していくのだ。
普段は俺達の戦いに巻き込まれないため、遠巻きに見ざるをえなかった他国の探索者達にとって、俺達のいない要塞は、願ってもない目標に違いない。
自分達の手を汚さずに、他国に鉄砲玉をやらせる……いいね!
これこそ第三次世界大戦によって死に体の近隣諸国を蹂躙し、地域覇権国家として西太平洋に君臨している日本のあるべき姿じゃあないか!!
ふへへへ、吹けば飛ぶような中小国家は、日本の鉄砲玉がお似合いなんだよぉぉぉぉぉ!!!
「いいですね!」
「いいでござっ……良いのでござろうか?」
おつむが虫けら並みの高峰嬢はあっさり同意したが、常人並みの知能を持つ白影は、自分達がやろうとしている行為に疑問を持ちやがった。
なんだかんだ日本かぶれで妄想癖があって執念深いこと以外は真面目な娘だ。
外道になり切れないのも仕方がない。
「ううむ、高度な政治的判断は拙者には難しいでござるぅ」
と思いきや、心中の葛藤に早々と見切りをつけやがった。
この娘は意外と生きるのが上手いタイプなのかもしれないな!
「当てう…… 他国の探索者が突入するのはいつになるのか分からないし、ここはお茶でも飲みながらゆっくり――――」
俺がそこまで言いかけた時、突然、大地が揺れだした。
「キャッ、な、何なのぉ!?」
「おっ、地震ですね」
白影は驚いて俺にしがみつき、高峰嬢は地震に慣れた日本人らしくのんびりと揺れが治まるのを待っている。
体感的に震度4か5といったところか。
立っている分には問題ないが、歩くには少々難儀する感じだ。
「ト、トモメェ……」
フランス生まれの白影は地震に慣れていないのだろう。
もしかしたら初体験なのかもしれない。
恐怖に震えて涙目で俺を見上げてくる彼女を、とりあえずいつもの如くあやしておく。
「よーしよし、よーしよし」
「ちょっと、黒いのー?
ぐんまちゃんに抱き着き過ぎですよー!」
白影の状況に気づいた高峰嬢が、無理やり彼女を俺から引き剥がそうとする。
止めてやれよぉ。
こんな時くらいは許してやれよぉぉ。
そんなことをしている間に、揺れはどんどん大きくなり、流石に立っているのが難しくなってきた。
要塞の方を見れば、大地がひび割れており、明らかに何かが地中から飛び出てきそうな雰囲気だ。
「高峰嬢と従者ロボ!
すぐに信管付きのC4を切れ目に投げ込むんだ!!」
空気の読める俺は、すぐさま指示を出す。
激しい揺れの中だが、高峰嬢と従者ロボ達は持てる限りのC4を持ってスタート地点の外に行き、地割れの中心部にC4爆薬を投げ込み始める。
これで何事も無かったら、いたずらに爆薬を失ったことになるが、その時はその時だ。
ここまで派手に演出しておいて、何も出さないとか、そっちの方が大問題だろう。
しばらくすると、案の定、地割れの中心から巨大な黒い物体が、大地を割りながらその姿を晒した。
見上げるほどの巨体は黒光りする装甲で全身を包んでいる。
太い四肢は力強さに
巨体に見合った大きさのトマホークを構えるその姿、正しくガンニョムだった。
「こっちの方が強そうだなぁ」
「リック、涙目でござるぅ」
「大きな案山子ですねー」
俺達のボス戦が、始まった!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます