第十五話 乙女座の彼と牡牛座の私

『アアァァァァァァ』


 巨大なゴブリンの両手に持つ双剣。

 続く連撃は嵐のように間隙無く私を攻め立てる。

 息つく間もなく繰り出される速攻は、一振り一振りが剣士としての全身全霊が込められた必殺の一撃。


 目の前の双剣使いが間違いなく一流のその先、剣術の到達点に踏み入れていることは歴然としていた。

 世が世なら、剣聖と呼ばれているだろう稀代の剣士。

 

 でも、私はそれ以上を知っている。


「ヘイヘーイ、その程度ですかー?

 随分と弱いんですねー!」


 嵐のように襲い来る必殺の連撃、剣士としての一つの到達点。

 それでも、私はそれを上回る。

 嵐には、流れに逆らわず、受け流すように相手の懐まですり抜ければ良い。

 

 袈裟懸けさがけに斬り捨てようとした私の剣戟を、双剣使いは片腕を犠牲に躱す。

 片腕を失いながらも、刀を振り抜いた隙を突こうと双剣使いが、壮絶な三連斬りを魅せる。

 剣聖が自身の死の間際に見出した絶技。

 まるで三振りの剣が同時に存在しているかのような三連斬り。

 三方向から襲い来る回避不能の必殺剣。


 しかし、私にとっては既知の剣。

 相手を閉じ込めるかの如く振るわれる三連斬り、そんな絶技を、息をするかのように扱う化物を、私は知っている。


 一の太刀は刀で受け流す。

 二の太刀は体を逸らして躱す。

 三の太刀は歩法で逃れる。


 そして、全てを籠めた絶技を放ち、無防備な剣士に刀を振り下ろす。


『ガアァァァァァァァ』


 驚いたことに、ゴブリンの剣士は私の一刀を逃れた。

 無様に地べたを転がり、残ったもう片方の腕すら失いながらも、かの剣士は未だ息を保っていた。


「ヘイヘーイ、意外と粘りますねー」


 でも、もう御終い。

 私から距離を取ろうとする前に、ゴブリンの首が宙を舞う。

 手強い相手でしたねー。


 最も強かったゴブリンの双剣使いが殺されたことで、魔物達の戦意は完全に潰えたのだろう。

 生き残った数少ない魔物達が、私に背を見せ逃げていく。

 散り散りに逃げられると、斬ることしかできない私では打つ手がない。

 でも、大丈夫。

 きっと彼が逃がさないから。


 彼に付き従うロボットの掃射、逃げようとしていた魔物達が次々と倒れていく。

 流石ぐんまちゃん、仕事が速い。

 彼と出会ってまだ二週間も経ってないけど、お互いの息はビックリするほどピッタリ合う。


 まだ今の環境に慣れてないけど、彼と一緒だったら、大丈夫。

 きっと、これからも私達二人だったら、どんな相手にだって勝てる、どんな困難だって解決できる、どんなに辛く苦しくても乗り越えられる。

 何の根拠もないけれど、不思議と私はそう信じることができた。


―― 覚悟せよ ――




 ……………… だからこそ…… 私は………… こんな言葉なんて…… 聞きたくなかった。


「高峰嬢、仲間が増えた」


 全てが終わって彼の下に戻った私。

 そんな私を待っていたのは、彼と、よくわかんない黒いの。

 よく、わからない。


「………… 中距離戦闘が得意…… よろしくお願いするでござる」


 黒いのが私を睨んでいる。

 つまり、私の敵?


―― 敵だ ――


 直感が、眼前の存在を敵だと教えてくれる。


―― 斬れ ――


 斬れ、と直感が私に囁く。


―― 斬れ 斬れ 斬れ ――

―― 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ ――

―― 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ 斬れ ――


 視界を朱が侵す。

 もう、敵を斬ることしか考えられない。


「はい、はい、はい、そこまで! そこまで!! お願い!!!」


 ぐんまちゃんが、私と黒いのの間で慌てながら制止をかけている。

 ぐんまちゃんが困ってる。


「………… 私は、近距離戦闘が得意…… よろしく、お願い、します」


 彼の困ってる顔は、見たくないなー。

 ぐんまちゃんの顔を見て、仕方なく、本当に仕方なく、私は柄を握る手の力を緩めた。


―― 後悔する きっと 後悔する ――


 残念、もうしてますよー。

 なんとなく、直感が呆れたように溜息を吐いた気がした。







「クク…… クハハハ、ハハハハハハハ!

 やってくれる、やってくれるじゃないか、ヤパァナァァァァ日本人!!」


 エデルトルートは嗤っていた。

 いつの間にか引き抜かれていたアルベルティーヌに。

 引き抜いていったトモメに。

 間抜けな自分に。


「はぁ………… 引き抜かれてしまったものは仕方がない。

 今更どうこうしようと、もはや後の祭りだ。

 それでもまだ、私達人類同盟の戦力優位が揺らがないことを良しとしよう」


 そう言って自分を慰める。

 だが、やはり味方の引き抜きは辛い。

 それが希少な特典持ち、しかも間違いなくトップクラスの実力者とあっては、色々な面で辛すぎる。


「はあぁぁ、なんでこんな目に遭うんだろうな……」


 泣きそうな気分になる。

 多少、大きめな身長とキッツイ顔つきで、勝手に一目置かれている自分。

 しかし、そんな自分も20歳の乙女なのだ。

 人類の命運がかかっている現状、頑張って人類同盟を率いているものの、それも一杯一杯なのに、なんでこんな目に遭わなきゃならないのだろう。


「彼女は予想以上に彼を愛していたようだな。

 ならば運命に宣誓しよう。

 私、ガンニョムは、ガンニョムを駆って彼奴らを倒すことをっ!!」


 フレデリックが、また良く分からないことを言っている。

 何度聞いても、こいつの言葉は良く分からない。


「よもやこんな事になろうとは……

 乙女座の私には、センチメンタリズムな運命を感じずにはいられない……!!」


 もしかしてこいつはあおっているのだろうか?

 私を煽って楽しんでいるのだろうか?


「お前ってやつは……

 …… お前ってやつはぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


「うひょぃっ!!?」


 おうし座の私には、こいつを殴るのを止められずにはいられない……!!


「姉御が乱心したぞー!?」

「止めろー!!」

「全部日本が悪いニダー!!!」


「ヘイヘーイ、もうヤケクソですよー! やっちまえー!!」


「ドイツ人と高嶺殿は野蛮でござる。

 トモメ殿、巻き込まれぬようこちらへ……」


「…… なんか、ごめん」




魔界 第二層 魔の森林鉱山 キャナーダ

日本 フランス共和国 その他    攻略完了

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