第七話 人類同盟からの誘い

「すまない、随分と迷惑をかけてしまったようだ」


 一通りガンニョム達から事情を聴き終えると、女傑は申し訳なさそうに謝罪してきた。

 ふむ、最初に謝罪が出てくるあたり、まだ人類同盟は政治色に染まり切ってはいないようだ。

 政治や外交を考えてしまうと、例え自分が間違いなく悪くても、よほど追い詰められない限り謝罪なんて出てこない。


 だと言うのに彼女は、思わず委縮してしまいそうなキッツイ目を申し訳なさげに伏せて謝罪した。

 小柄な高峰嬢やNINJAと違い、俺と同じくらいの背丈がある女傑。

 顔の造形は整ってはいるものの、美人というほどでもない。

 しかし、彼女の仕草からは、高峰嬢やNINJAにはない心の清らかさを感じた。


「いや、元はと言えば、こちらの戦闘音が呼び寄せたようなもの。

 こうして何事もなかったのだから、気にしないで欲しい」


 高峰嬢がここにいるということは、魔物集団との戦闘は終結したはずだ。

 現在は、ここにいない6体の従者ロボが魔石の回収でもしているのだろう。

 ならば、もう足止めの必要はない。

 なんだかんだ、彼女らと話すのも初めてだし、今後を考えて友好的な関係を築いてしまおう。


「そう言って貰えると助かる。

 申し遅れたが、私はエデルトルート・ヴァルブルク、ドイツの探索者だ。

 あの巨大ロボット、ガンニョムというらしいが、あれのパイロットであるフレデリック・エルツベルガーの相方でもある」


 ほう…… つまりは、人類同盟の主導権は今の所ドイツが握っているということか。

 まあ確かに、ガンニョムは白影に翻弄されはしていたが、ダメージ原因は専ら自滅だった。

 本来ならば、見た目的にも戦力的にも人類の決戦兵力足り得るだろう。

 そして、それを保有しているドイツが主導権を握るのも納得だ。


「俺の名前は上野群馬、彼女は高峰華、日本の探索者だ。

 見たところ、エデルトルート達は随分と国際色豊かな大所帯だな」


 エデルトルート達については、ロシアのアレクセイとの対立を観測していたので十分知っているが、それをここで教えるのは要らない警戒を与えてしまう。

 彼女だけならばそこまで問題はないのだが、後ろに控えた日本を嫌う国家の探索者達は、そうもいかない。


「ああ、私達は単独でのダンジョン攻略よりも人類同盟として、各国間で協力してダンジョン制覇を目指しているんだ。

 特典持ちもガンニョムとカトンジツの他に、戦略原潜、強化装甲、水筒、葉巻を保有している」


 そう言って懐から図太い葉巻を取り出して見せるエデルトルート。

 俺の記憶が正しければ、特典選択の時、戦略原潜や強化装甲が残っている中、葉巻が既に取られていた。

 そこまでしてタバコが欲しかったのか……


「ほう、それは凄い戦力だな。

 それなら勢力、戦力ともに現状では最大だろう」


「ありがとう、私達もそう自負している。

 まあ、実績だけは、既に階層を3つ制覇している日本一国に負けるがね」


 エデルトルートはナイフのように鋭い瞳を、僅かに細めて頬を吊り上げる。

 こちらから何かを引き出そうとしている表情だ。


「いやいや、たまたま運が良かっただけだよ。

 俺達の実力なんて、君達人類同盟はもちろん、ロシアが中心となっている勢力にも負けているだろう」


 俺の誤魔化しに、エデルトルートは可笑しそうに笑った。


「クックック…… 日本人の謙遜も、ここまで来るとただの嫌味だな。

 だが、確かに。

 ロシアが中心となっている勢力、国際連合はともかく、私達人類同盟の戦力は日本を完全に上回っている」


 気づけば、彼女の背後にはガンニョムを始め、全身を重火器で武装した強化装甲兵、100人を超える米軍兵士、5名の美少女を引き連れた水筒を持った男が勢揃いしていた。

 そして国際色豊かな各国の探索者達が、様々な感情を含んだ視線を向けてくる。


「そこで君達日本に相談なんだが、君達も我らと戦列を共にしないかね?

 もちろん、君達の実績も考慮して、相応の立場を用意している」


 来たよ、勧誘。

 どうせ目当ては俺達の戦力なんだろ?

 分かってるよ、そんなこと。

 第三次大戦の頃も、同盟は日本をしつこく誘っていたからな。


 まあ、人類同盟に加わること自体には、そこまで抵抗はないんだ。

 だけど、今回も先鋒として特典持ちが2名だけ派遣されていたことからも察せるが、人類同盟に加わることは、特典持ち以外の弾除けとなることと同義だろう。

 順調に増えている従者ロボのお陰で、現状では人手が十分足りている。

 日本政府の全面的支援による莫大な資金力によって物資も潤沢だ。

 人類同盟に加わるメリットとデメリットを鑑みて、今、人類同盟に加わることは悪手と言って良い。


 人類同盟側は、こちらを威圧しているつもりでも、各国の国民に生中継されている現状、ここでは先に攻撃した方が人類への裏切り者となってしまう。

 いくら戦力を並べようと、撃てなければ意味がないのだ。

 

「すまないが、国際連合からもしつこく勧誘されているんだ。

 聞いたところ、君達人類同盟と国際連合って対立してるんだろう?

 今の状況で君達の仲間になったら、こんな状況なのに人類同士の争いに手を貸すことになりかねないよ。

 悪いけど、加入については、国際連合との関係が修復出来てからで良いかな?」


 加入したくないからといって、関係を悪化させることも不味いんだ。

 だから、適当にロシアへ罪を被せて、結論を先延ばしにすることにした。

 臭いものには蓋をするのが、日本人の十八番なんだよ!

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