第六話 三雄と赤い女傑

『やはり私と君は、運命の赤い糸で結ばれていたようだな……

 そうだ…… 戦う運命にあった!!』


 いつの間にか破損個所が修復しているガンニョムが、全高20mもの巨体でファイティングポーズをとっている。

 その巨体は、そこにいるだけで、他者を圧倒する威を放っていた。


「ガンニョム殺すべし……!」


 人はここまで殺意を凝縮できるものなのか。

 静かに研ぎ澄まされた濃密な殺意を纏ったNINJAは、直径1mの巨大な手裏剣を構えて開戦の瞬間に備えていた。


「ヘイヘーイ、大きな案山子と黒い蟲が随分調子に乗ってるじゃないですかー!!

 ………… ぐんまちゃんへの攻撃、ちゃんと、見てましたよー」


 ヤバい。

 ヤバいヤバいヤバい!

 ヤバいの三段活用なんてしてる場合じゃないくらいやべぇぇぇぇぇ!!

 高峰嬢は、俺を後ろに庇いながら、キレていた。


 10人の初期特典組の中でも、トップクラスの戦闘能力を秘めた三者の対峙。

 間違いなく最強にして最凶は高峰嬢だろうが、戦闘になったら最初に死ぬのは、余波を食らう俺だろう。


「高峰嬢、俺は大丈夫だから。

 そんなに怒らなくても良いから。

 だから頼むよ、今後の外交が死にかねない」


「ぐんまちゃん…… 大丈夫ですよ。

 全部、私が斬っちゃいますから!」


 大丈夫じゃないよぉぉぉ。

 何かのスイッチが入ってしまったのか、高峰嬢は殺ル気満々だ!

 畜生、こいつじゃ話にならない。

 

「おーい、白影、味方同士で戦うのはやめよう!

 俺達はこんなところで戦力を消耗している余裕はないはずだ!!」


 ちょうど高峰嬢を挟んで反対の位置にいるNINJAに呼びかける。

 彼女は俺の言葉にしっかり反応して、こちらに視線を向けてくれた。


「トモメ殿………… 安心なされよ、こやつらを全て葬り、貴殿をお守り致そう!」


 ちがぁぁぁう!

 発想が高峰嬢と一緒だよ!!

 こいつらは駄目だ。

 しょうがない、一番駄目そうだが、奴を説得するしかないか。


「ガンニョム! 現状で人間同士争っても、敵が喜ぶだけだ!!

 今の俺達を祖国が見てるんだぞ、これ以上の戦闘は人類への裏切り以外の何物でもないぞ!!」


 俺の言葉が聞こえたガンニョムは、意外なことに構えを少し緩めた。


『た、確かに、君の言う通りだ……

 すまなかった、少し興奮していたみたいだ。

 …… くっ、なんという失態だ!万死に値する!!』


 おっ、意外と話が通じるな。

 思いの外、あっさりと戦闘態勢を解いたガンニョム。

 セリフはアレだが、案外中身は常識人なのかもしれない。


「お前達、何をやっているんだ!!」


 思わず身がすくんでしまう怒鳴り声と共に、索敵マップに多くの緑点が現れる。

 どうやら人類同盟の本体がようやくお出ましのようだ。

 声がした方に目を向けると、以前の高度魔法世界第1層で俺達に声をかけ、機械帝国第1層ではロシアのアレクセイと舌戦を繰り広げた赤髪の女傑が草をかき分けながら近寄ってきていた。


「様子を見て来いと言ったはずだが、どうして日本と対峙しているんだ!?」


 女傑は額に青筋を浮かべながらガンニョムに詰め寄る。

 白影は樹上にいるので、物理的に詰め寄れなかったのだろう。

 女傑が現れた背後からは、戦闘服や防具屋で購入したであろう異世界の防具を身に着けた一団が続々と現れていた。

 2体の従者ロボが警戒して、俺の両隣に立つ。


「えっ、あぁ、いや、そのぉ…… 何を言っている!生きる為に戦え、そう言ったのは君のはずだ!」


 女傑の怒号にガンニョムは盛大にキョドった後、開き直ってキャラを突き通した。


「言ってない!

 いや、言ったけど! この状況で何を考えているんだ、お前!?」


 女傑の突っ込みにガンニョムがビクリと震えた。

 芸の細かい奴だ。


「それとアルベルティーヌ!

 お前がついていながら、何をやってるんだ!?」


 ガンニョムは話にならないと判断したのか、女傑の矛先はNINJA白影、本名アルベルティーヌに向いた。


「拙者が対峙したのは日本に非ず、そこにいるガンニョムと女怪にござる」


「余計にたちが悪いわ!!

 妄想癖で口調が可笑しい以外は、真面目な娘だと思っていたのに!」


 女傑は地団太を踏んで、自分の判断ミスを猛烈に後悔していた。

 周囲と俺達を絶えず警戒している他のメンバーとの対比が、凄まじい違和感を覚える。

 人類同盟のメンバーの中には、俺達を憎々しげに睨みつけている輩もいるので、彼女が統制しなければ、何らかのイザコザが起きかねない。


「ねえねえ、ぐんまちゃん」


「なんだい、高峰嬢?」


「もう殺って良いですか?」


「勘弁してください」


 こそこそと話しかけてきたかと思えば、とんでもない暴挙をやらかそうとしていた高峰嬢。

 問答無用の制止に、拗ねたように頬を膨らませている。

 今なら、全員斬れるのに…… そう呟いた彼女は、間違いなく危険人物以外の何者でもなかった。

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