俺と君達のダンジョン戦争

トマルン

プロローグ

 白、白、白、知覚できる全てが白で覆い尽くされ、意識はもやがかかったようにぼんやりとする。

 ここはどこだ、といった疑問すら浮かぶことは無い。

 ただ、当たり前の様にそこにいる。

 まともに思考できているのかすらあやふやだ。

 まるで夢を見ているかのよう。


【君はこれから、幾多の困難に直面する】


 機械的な声が頭に浮かぶ。

 何の感情も読み取れない。性別すらはっきりとしない。そんな声だ。

 しかし、あやふやな意識の中で、その声だけがはっきりと刻まれた。


【肩にかかるは、祖国の命運、民の命、地球人類の未来】


 なんだかとんでもない物を何の脈絡もなく背負わされた気がする。

 今の自分では、何も判断ができないが、後々後悔しないだろうか。


【君が挑むのは、複雑怪奇な迷宮、廃墟、大神殿に機械帝国】


 迷宮、廃墟、大神殿、きかいていこく? ――― 最後だけがいまいち分からなかったが、これらの言葉で思い浮かんだのは、時々友人と遊んでいたTRPG。

 その中でも探索を主としたもの。


【君は何をもって挑もうとする】


 探索ならば、それに向いた技能が欲しい。

 深く考えることのできない頭で、ただそれだけが浮かんだ。


【了承した】

【安堵せよ、君は一人ではない】


 どうやら仲間がいるらしい。

 それもそうか、一人でやるTRPGはむなしいものだ。


【地球人類は常に君を見守り、祖国が君の背を支えよう】


 一人じゃないって、そういう意味なのか?

 というか、祖国以外は見守るだけかよ。

 きたない、流石他国、きたない。


【健闘せよ、君の奮戦に期待する】


 その言葉を最後に、意識は沈んでいく。

 深く、深く、どこまでも。







『スキルが支給されました』


『【索敵】スキルを入手しました』

『【目星】スキルを入手しました』

『【聞き耳】スキルを入手しました』

『【捜索】スキルを入手しました』

『【精神分析】スキルを入手しました』

『【鑑定】スキルを入手しました』


『スキルの熟練度が加算されました』


『【索敵+9】』

『【目星+1】』

『【捜索+1』

『【精神分析+2】』






西暦2045年 日本国



 それは突然の出来事だった。


 排他的経済水域と公海との境界線上に出現した虹色に薄く発光する障壁。

 海外サーバーとの断絶。

 海外との通信途絶。

 人工衛星とのリンク切断。

 あらゆる場所の空中に映し出される真っ黒の映像。


 混乱に陥る人々を前に政府は緊急会見を行う。


『これから発表する内容は全てが嘘偽りない正真正銘の事実です。

 繰り返します。

 これから発表する内容は全てが嘘偽りない正真正銘の事実です。


 我が国は先程、我々が住む世界とは異なった世界、いわゆる異世界から宣戦布告をされました。

 それに伴い我が国は物理的、電子的、あらゆるモノを他国と断絶されました。


 我が国は只今より国家非常事態宣言を発令致します。

 国民の皆様には混乱を起こさず通常の生活に戻って頂いて、今回の危機においてご理解とご協力のほど、よろしくお願い致します』


 判明した海外との断絶。

 輸出入の消滅。

 原料、食料、エネルギー、あらゆる物が欠乏する未来。

 亡国の危機。


 平和な国で豊かな生活を送っていた国民が突如叩きつけられた絶望。


 世界第2位のGDPにして西太平洋の地域覇権国家、日本。

 この国は瞬く間に諦観と絶望と混沌へと陥ってしまった。


 東洋随一の繁栄を誇った大国が緩やかに終わりへと向かう最中、空中に映し出されていた真っ暗の映像に変化がみられる。

 そこに映っていたのは————————




 俺と君達のダンジョン戦争

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