ゴミスキル『マルちゃん』が実は最強スキルだった。城を追放?良いですよ、余裕で生きていけますので
清見元康
第一話:追放されたスキル『マルちゃん』は異世界でも余裕で生き延びる
唐突だが俺は異世界に召喚された。
どうやら俺以外にも若い男女が三人ほどいるらしい。
そして当然のように、王から魔王の討伐を命じられ、スキル鑑定をさせられる。
「何だこのスキルは!? 『マルちゃん』だと!? ええい使えぬやつめ! お前は追放だ!」
あっという間に俺は王城を追い出さてしまった。
ふ、馬鹿な連中だ。
とは思いながらも、俺はどこか納得していた。
「この異世界に、『マルちゃん』を知るものなんているはずがない」
だからこのスキルの素晴らしさに気づけないのだ。
しばらく道を進むと、誰かが俺を追いかけてきた。
「お、おい、待て!」
俺以外に召喚された三人の若者が俺を追ってきたらしい。
最強のスキル『英雄』を授かり勇者となった男が言う。
「お前の……その、スキルは。……あの『マルちゃん』なのか?」
すると、勇者のそばにいた『再生』スキルを授かった女性も俺に問う。
「ね、ねえ。『マルちゃん』って、その……ど、どういうこと?」
そして最後に、『破壊』スキルを得た小柄な少女が言った。
「……出せるの? アレを」
俺は、
「ふっ見ていろ」
と笑って両の手を天に掲げ、叫んだ。
「『マルちゃん』!! はぁー!!!!!!」
閃光と共に、『マルちゃん 赤いきつね』が俺の手元に現れる。
すると、その場にいた三人はみな息を飲んだ。
「ま、まさか、やはり! お前の『マルちゃん』とは、『東洋水産』の『マルちゃん』! ほ、他には!?」
「はァーーーーッッ!」
再び閃光が走ると、俺の手に『マルちゃん 緑のたぬき』が現れる。
勇者が唐突に言った。
「第二次世界大戦の時だ」
「どうした突然」
俺は口を挟んだが、勇者は無視して続ける。
「当時の日本軍人の戦没者は、二百三十万人。だがその六十%! 百四十万人は、餓死者だったんだ!」
「お、おお」
勇者が俺の両腕をガシと掴み、興奮した様子でまくしたてる。
「お前だ……! 戦いにおいて最も価値のある『スキル』の持ち主は、お前だ! 『マルちゃん』! 正義で飯は食えないが、お前ならば食える! 頼む、俺達とパーティを組んでくれ!」
おいおい勘弁してくれ、と言いたかったが、俺も俺で思うところがある。
「『マルちゃん』はスキルツリーの数がとんでもなく多いんだ。……スキル上げ、手伝ってくれよな?」
「ああ! 任せろ!」
そうして俺たちは全員で王都から脱し、パーティを組んで旅にでた。
※
よし、『マルちゃん』スキルはレベルが二になった。
勇者が興奮したようすで俺を急かす。
「『マルちゃん』、どうなる!? 何が出る!?」
「はァーーーーー!!」
現れた漆黒の影に、『再生』の女性が我を忘れて飛びかかった。
「あああー!! 『黒い豚カレー』だああー!!」
どうやら、スキルレベルが上がると商品の数が増えるらしい。
勇者がおもむろに言った。
「……つ、強い! あまりにも! 『マルちゃん』!」
※
旅は順調に進んでいく。
『破壊』スキルの小柄な少女が、酒場のメニューに愚痴を言う。
「うえー。肉くっさい。味も不味い~」
「はァーーーー!!」
「わーい! 『ごつ盛りソーセージ』だー!」
『再生』スキルの女性がため息をつく。
「今日はやけに冷えるわね。かじかんで魔法が上手く使えないわ」
「はァーーーーッ!l」
「まあ! 『ふかひれ入りスープ 二~三人前』!」
勇者がさみしげにつぶやいた。
「故郷が恋しいぜ。みんな、元気にしてるかな……」
「はァーーーーーーッ!!!」
「おお! 『ふっくら一膳ごはん』!! こ、米が、米が食える!」
寒い日も、暑い日も、俺達はスキル『マルちゃん』の力で乗り切った。
とある王城で、笑顔をなくしてしまったお姫様に笑顔を取り戻してくれと言われた時は、『魚介と野菜のアヒージョ』と『さばのレモン焼き』が猛威を奮った。
とある戦場では、『北海道産チーズ入りハンバーグ』のおかげで勝利を収めることができた。
こうやって俺たちは旅を進めていき、魔界へと足を踏み入れる。
そしてついに、魔王の前へとたどり着いたのだ。
※
魔王は強かった。
だが、毎日の冒険の中でも規則正しい生活を続け、しっかりと栄養を取り続けた俺たちは、ギリギリのところで魔王に打ち勝った。
魔王はぐらりと傾き、片膝をつく。
「おのれ、人間ども。貴様たちは、我々魔族の全てを奪おうというのか。人間の王からは聞かされていまい? 我々の戦いの理由を――」
すると、勇者は言った。
「食料問題。つまり、作物が育つ豊かな土地が欲しい――だろう?」
「くくく、知っていて尚、人間の味方をするか。ならば殺せィ! 人間どもの目論見通り、魔族たちはやがて飢えて死ぬだろう! 我らは怨念となって、貴様ら人類を永劫呪い続けるだろう!」
勇者は、ふっと笑って俺を見た。
俺は頷くと、魔王は笑った。
「知っているぞ、貴様のスキルを。だが、愚か! たかが一人の人間風情が、全ての魔族の腹を満たせるか!? 土地はどうなる。作物が育たなくては、未来は無い! お前はあと何年生きるつもりだ? お前の死後はどうなる? 百年後は、二百年後は!? 貴様のそれは、所詮まやかしよ!」
「ふっ……まやかしかどうか、今見せてやる。――みんな、俺に力を貸せ!」
すると、仲間たち全員の元気に健康に育った魔力が俺に注がれていく。
「に、人間風情が、何をするつもりだ!?」
「黙ってみていろ魔王! うおおおー!!! これがスキル『マルちゃん』の究極奥義だぁあああー!」
バチン、バチンと魔力が弾け飛ぶ。
そして俺は、魔王城の外に向けてスキル『マルちゃん』最後の技を発動させた。
「はァーーーーーーーーーーーーッッ!!!!!」
閃光と共に地響きが巻き起こると、轟音が一帯になりひびく。
「な、なんだ、何が起こった!? なんなのだこれは……!」
「はぁ、はぁ……。ふ、行くぞ魔王。ついてこい」
俺たちは魔王を連れ、城の外に出る。
そこにあったのは、魔王城よりも巨大で、魔王所よりも美しい、白く輝く巨大な建造物だった。
「これぞ! スキル『マルちゃん』最終奥義! 『東洋水産本社ビル』だ!」
「ほ、本社ビル???」
唐突に、勇者が語りだす。
「蕎麦の起源は、縄文時代にまで遡る――」
「どうした突然」
魔王が困惑するが、勇者は無視をして続けた。
「だが『蕎麦の実』自体は、一万年前から既に存在していたのだ」
「な、なんだ? なんなのだ?」
おもむろに、勇者は魔王に白くて緑の丼を差し出した。
「食え。これは『この世界の蕎麦の実』で作った、『マルちゃん 緑のたぬき』だ」
そしてお湯を注ぎ三分待ち、魔王は『緑のたぬき』を口に運んだ。
「こ、これが……、『緑のたぬき』! そ、それをこの世界で作っただと!? ど、どうやって!」
問われた勇者が、ふっと笑って俺を見る。
俺は、魔王に言った。
「既に、『東洋水産魔界工場』は、俺のスキル『マルちゃん』で作ってある。蕎麦の実がこの魔界でも育つのは確認済みだ」
「なん……だと……」
「産業を作るぞ、魔王! 今日からここは、『東洋水産魔界本社ビル』だ!」
こうして、俺達の次の戦いが始まった。
やがて、お湯だけで作れる『魔界のマルちゃん 赤いきつねと緑のたぬき』が市場に溢れ、魔界は豊かになったのだ。
だがそんな中で、『赤いきつね派』と『緑のたぬき派』で新たな火種が生まれつつあるのは、また別のお話――。
ゴミスキル『マルちゃん』が実は最強スキルだった。城を追放?良いですよ、余裕で生きていけますので 清見元康 @GariD
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