好きな色

シン

好きな色




 ツネオ:「赤色って良いよね?」



 タドリ:「そう? ボクは緑色が好きだな」




 10年前、タドリと名乗っていた僕はそう答えた事を覚えている。


 オンラインゲームでの、何気ない会話。


 ゲームでは、僕がチームリーダーで、彼がサブリーダーだった。


 ゲーム内で使うアバターが着る、チームコスチュームの色の話。


 彼とはその後も仲良くゲームした。


 が、次第に僕の仕事が忙しくなり、僕はチームを抜けてしまった。


 彼の要望通り、赤いコスチュームを採用すればと今でも思う。






 ゲームを辞めて数年後、僕は転職した。


 夢だったゲーム会社に就職を果たした。


 僕はその会社の、麺好きで有名なシナリオライターに惚れていた。


 採用試験で彼女に初めて会った時に、好きな色は? と聞かれた。


 笑ってしまった。



「赤色が好きって答えないとどうなります?」



「不採用に決まってるでしょ」






 彼女は大流行しているゲームのシナリオに、僕にしかわからないオンラインゲームでのエピソードを混ぜていた。


 今度は彼女がリードして、僕がそれに従う。


 時期によっては、納期が押して夜遅くまで残業する時がある。


 夜食はいつも彼女が緑のたぬきで、僕が赤いきつね。


 10年遠回りしてしまった。


 もう二度と緑色が好きって言えないな。




 ちなみに、アバターの名前は、僕がタミ タドリ。


 彼女が、アカイキ ツネオ。


 お互い、そういう設定で苗字を省略して名乗っていたらしい。


 で、タドリとツネオ。


 同じ発想、同じ麺好き。


 彼は男性アバター。


 僕も、ボクっ子女性アバターだった。


 化かし合いは僕の負け。


 彼女には僕が男性ってバレていたみたい。


 反対に僕は彼が女性だって思った事は一度も無かった。


 まさか、有名シナリオライターだったとは。


 僕は彼女に心酔して、趣味で小説を書いていて良かった。




 今日も彼女を思いながら、一緒に食べる。


 一緒に食べる夜食が楽しみで仕方ない。


 天ぷらそばが好きだったが、今ではうどん派だ。


 揚げ麺とは思えない、もちもちっとした触感の麺。


 本物さながらの、甘い味の良く染みたお揚げさん。


 何度繰り返して食べても飽きない、やさしい味のダシ。


 彼女の好きな味。



 もうしばらく、今の関係でもいいかもね。

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好きな色 シン @01sin

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