第9話 始まり
***
問題の屋敷には、意外とすんなり辿り着くことができた。
道中迷子になったり変な人に襲われたりといったイベントも発生せず、本当にただただ歩き続けた結果が、今である。
その間は、魔法で何々ができるようになっただの、次はこんな魔法を使えるようになりたいだのと、基本的にみんな魔法の話しかしていなかった。
やはり魔法が発達している異世界なだけあって、ここではより優れた魔法を扱える者が力を持つらしい。
学歴社会ならぬ、魔法力社会といったところか?
一つだけ厄介なことがあったとすれば、道中行く手を遮る木の葉や、細い枝木を掻い潜ってきたため、うっかり服を破ったり擦り傷をつくらないよう細心の注意を払う必要があった。
「ここだね」
額の汗を拭ったゼロが一息ついた。常に涼し気な表情を浮かべている印象だったが、さすがに一時間近く森の中を突っ切ったことによりやや疲れが見て取れる。
「こんなに苦労してきたんだからお宝がなかったら本当に怒るわよ」
「何で俺の方を見て言うんだ」
「だってあんたが言い出したんでしょ?」
「俺じゃなくてゼロだ」
「まあまあどっちでもいいよ。早く中に入りましょ」
ミラがシノリアをなだめるまでがテンプレになっているような気が……てかどっちでもよくはないぞ。
と、俺が反論するよりも前に、謎の古びた屋敷に近づいていく三人。
テーマパークにあるお化け屋敷の舞台にありそうな二階建ての建物。庭や門は見当たらず、そのまま真っすぐ行けばすぐに扉に行きつく。
それにしても、何だってこんな森を抜けたところに建ててあるんだ。こればかりはいくら考えても答えが出ない気がする。
実際に目にするのはもちろん初めて。最後に人の出入りがあったのは一体いつなんだろう。壁周りに生えた雑草や、乾燥した土を見るに、少なくとも何十年以上も手入れがされていないのは明らかだ。
そもそも一体誰がこんな場所の古屋敷を見つけたのやら。
中に人の気配は全くない。不法侵入は少し気が引けるけど、俺はみんなに追い付くためにやや早歩きで後を追う。前ではシノリアが扉に手をかけてちょうど引いたところだった。
――直後。
なんの躊躇いもなしに、ゼロが思いっきりシノリアを押し飛ばす――ところまでは見えた。
鼓膜を突き破るような轟音と爆風で、視界が灰色に包まれる。
屋敷が爆発した?
そんな馬鹿な。
ドサッという音とともに、足元に何かが降ってきた感覚。
屋敷の柱の破片かレンガの塊の何かだろうか。
そうだみんなは……!
「ゼロ! シノリア! ミラ!」
返事はない。
爆発から数十秒後。徐々にクリアになっていく視界。
何が起こった?
いや、原因究明よりも先に状況把握の方を優先すべきだ。
みんなの無事を確認するべく、俺は屋敷へ向けて一歩踏み出し――そこでさっき降ってきた何かを蹴ってしまう。
岩石や木材といった類のものではない。つま先から伝わる感触が、妙に柔らかい。
「は…………?」
足を止めて視線を落とした俺は、文字通り開いた口が塞がらなかった。
それは、肩より先だけとなった生々しい人間の右腕だった。
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