君に首ったけ【1:1:0】20分程度

嵩祢茅英(かさねちえ)

君に首ったけ【1:1:0】20分程度

男1人、女1人

20分程度


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「君に首ったけ」

作者:嵩祢茅英(@chie_kasane)

男:

女:

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男「はぁーつっかれたぁー…

荷物は…必要なものから開けて…あとは…明日でいっか…

もう疲れた…横になりたい………

って…毛布どこに入れたっけ…?

このダンボールの中のどれか…?

いやいや、もう無理…一回休憩しよ…」


女「(小声で)…今日の夜はきっと冷える。風邪をひいちゃうよ」


男モノローグ

「そんな…声を聞いた気がした」


(間)


男「んっ……さむっ!

もう夜か…

は…は、はっくしょん!

…うう~、これは毛布じゃなくて羽毛布団が必要だな…」


女「だから言ったのに(クスクスと笑う)」


男「へっ?!」


女「あ。」


男「…誰か…いるんですか?!まさか泥棒?!」


女「………」


男「どこにいるっ?!警察呼ぶぞ!!」


女「…あー、ごめん。違う。

あなたの部屋には、いないよ」


男「……どういうことだ?」


女「えっとね…?つまり、ここの壁って、薄いのよ」


男「…えっ、じゃあお隣さんってこと?」


女「まぁ、そうなる…かなぁ」


男「えっ、あ、うるさくしてすみませんっ!

…っていうか…こんなに聞こえるものなんすね…

内見の時、気付かなかったなぁ…」


女「あー…ここの階は、あなたと私しかいないから」


男「あ、そんなんすか?」


女「そう。だから、あなたが内見にきた時、私、多分寝てたんだと思う

それで、静かだったんだと思う」


男「あー………あ、もしうるさかったら言ってください」


女「ふふっ、分かった」


男「ここに住んで長いんですか?」


女「あー…まぁ長いっちゃ長いかなぁ」


男「へぇー。あ、俺、県外から引っ越して来たんで、全然周り分かんなくて

オススメの店とかあったら教えてくださいよ」


女「あー…ごめん。私、部屋から出た事ないの

だから、全然詳しくなくて」


男「あ…そうなんすか…えっと、一人で住んでるんですか?」


女「うん。あ、ニートとかじゃなくてね。

体が…その、悪くて。ずっと部屋にいるの」


男「そうなんすね…ご家族は?」


女「いない。私、一人」


男「あー…なんか、すいません」


女「いいの!もうずっとだから。気を遣わせちゃって、ごめんね?」


男「いえ!…あー、じゃあ今日はもう寝ます」


女「分かった。ちゃんと布団被らないとダメだよ?」


男「ははっ。探してみます」


女「うん。おやすみなさい」


男「おやすみなさい」


男モノローグ

「どんだけ薄い壁なのか

隣人の声は、まるで同じ部屋で話しているかのように聞こえた」


(間)


男「あぁー、つっかれたぁ…」


女「おかえりなさい!遅かったね」


男「あ、ただいまです!

聞いてくださいよ、定時十分前に仕事頼まれちゃって…

もっと早く言えよって感じですよね」


女「そうだったの、大変だったね。お疲れ様!」


男「あ、今からメシ作るんで少しうるさいかもです」


女「これから作るの?えらいねぇ」


男「外食だと金かかっちゃうんで…」


女「たまにはいいと思うけどね?」


男「いや、一回やったら悪い癖がつきそうで」


女「そっか。えらいえらい」


男「偉くないっすよ」


女「でも男の人が料理できるのって、モテると思うな~」


男「モテますかねぇ~?

うち、父子家庭で。高校の時から夕飯は俺が作ってたから」


女「そうなんだ…

お父さんは?大丈夫なの?」


男「大丈夫っす。去年再婚したんすよ

だから、俺が家を出たんです」


女「そっか…」


男「なんか…家に居づらくて」


女「うん」


男「…すみません、つまらない話して」


女「ううん、そんな事ないよ。立派だと思う」


男「…ありがとうございます」


女「ん、いい匂い!」


男「今日は冷蔵庫にあるもので簡単にチャーハンです

最後に醤油を回しかけるのがコツ!」


女「いいなぁ、美味しそう」


男「ご飯食べてないんすか?」


女「…うーん…」


男「あ、具合悪いとか?」


女「あ、いや、ごめん。気を遣わせちゃったよね

でも、大丈夫だから。具合が悪いわけじゃないから」


男「…ならいいですけど…」


女「うん。大丈夫」


男「じゃあ失礼して…いただきます!」


女「よく噛んで食べるんだよ

(笑いながら)なーんて。私が作った訳でもないのに」


男「いや、なんか嬉しいです

…俺、一人が寂しいんですかね…」


女「そうなの?」


男「はい。だから、こうして話せる人がいて、よかったなって…」


女「うるさくなったらいつでも言ってね?」


男「ははっ。こちらこそ、うるさかったら言ってくださいね」


女「…今までこんなに話してくれる人、いなかったな」


男「ん、そうなんすか?」


女「うん。あなたも、よくこんな得体の知れない女と話してくれるよね」


男「得体の知れないって…お隣さんじゃないすか」


女「…うん」


男「あの…今更かも知れないですけど」


女「ん?」


男「名前、聞いてもいいですか?」


女「…しおり」


男「俺、まさひとです」


女「…ふふっ、なんか、恥ずかしいな」


男「いや、もう三ヶ月くらい経ちますよ?名前知らない方が不便かなって」


女「そうね…」


男「しおりさん、って、呼んでいいですか?」


女「うん。私も、まさひとさんって呼んでいい?」


男「もちろん!これからもよろしく、しおりさん」


女「よろしく、まさひとさん」


(間)


男「ただいま…

…もう、寝ちゃってるかな…」


女「…ん…あ、おかえりなさい…」


男「あ、ごめん。起こしちゃった?」


女「ううん、大丈夫。ちょっと、ウトウトしてただけ…」


男「もしかして、待っててくれた…とか?」


女「…うん」


男「…そっか…ありがと」


女「今日遅かったね。(あくびをして)帰ってこないかと思った」


男「飲みに誘われてさ、断ったんだけど。その後上司にも誘われて…」


女「(笑いながら)断れなくなっちゃったんだ?」


男「そう」


女「…飲み会、好きじゃないの?」


男「アルコール、得意じゃないんだよね…それに、飲み会に行くくらいなら…」


女「…?」


男「しおりと、話したいから…」


女「…っ!」


男「ごめん…いきなりこんな事言って…迷惑だよね!

…酔ってんのかな、俺」


女「ううん、嬉しい」


男「…本当?」


女「うん、本当。嬉しい。」


男「ねぇ、しおり…」


女「なに?」


男「俺、しおりが好きだ」


女「…声しか知らないのに?」


男「声だけじゃない。この半年、毎日話して、それで好きになったんだ!」


女「まさひと…」


男「だめ…かな?」


女「…」


男「しおりに会いたい」


女「それはダメ…だって…」


男「だって?」


女「私、ずっと部屋にいるって言ったじゃない?

…だからその…会ったら…がっかりされるもの…」


男「そんな事ない」


女「…」


男「しおりは、俺の事、どう思ってる?」


女「…」


男「迷惑だったら、振ってくれていいから。もう話するのもやめるし…」


女「そんなの…私も…好き、だよ…」


男「じゃあ…」


女「でも、会うのは無理」


男「…そっか…急にごめんね」


女「ううん…こっちこそ、ごめん」


男「でも、しおりが俺の事好きって言ってくれたの、すごく嬉しい」


女「私も。ずっと、そう思ってたから…」


男「ずっと?…嬉しい」


女「私も、嬉しい…ずっと、ずっと…一人だったから…」


男「これからは俺が一緒にいるから

さっきは焦ってごめん…でもいつか、しおりに会いたいと思ってる」


女「うん。いつか…

(あくびをして)ごめん、私もう寝るね」


男「あっ、もう遅いもんね…

あの…待っててくれて、ありがとう

おやすみなさい、しおり」


女「おやすみ、まさひと…」


(間)


男「しおり!!」


女「ん…まさひと?どうしたの?そんな大声で…」


男「管理会社の人に聞いたんだ!この階に住んでるのは…俺だけだって!!」


女「…」


男「なぁ、嘘だろ?!

だってここに引っ越してからずっと…ずっと話してきたじゃないか!!」


女「まさひと…」


男「この声は…しおりは!俺の妄想って事なのか?!

それともしおりは幽霊なのか?!なぁ!!!」


女「まさひと…あの…」


男「…いや…そんなはずない…

いる…しおりはいる!!そうだろ?!」


女「…」


男「…っ」


女「?!まさひと、何してるの?!」


男「声はこっちから聞こえてきてる…

このっ、天井の板を!外せば!!」


女「ダメ!やめて!まさひとっ!!」


男「ぐっ!!っあぁ!!…はぁっ、はぁっ…!!ぐぅっ!!」


女「…っ!まぶしっ…」


男「っ!しおりっ!」


女「まさ…ひと…」


男「…え?」


女「…」


男「しおり…?」


女「まさひと…ごめん…」


男「首が…喋ってる…?」


女「…」


男「…」


女「…あの…あのね、まさひ…」


男「(遮って)キレイだ…」


女「…え?」


男「しおり、やっぱり思った通り、君はキレイだ…!」


女「ちょっ、まさひとっ!」


男「今下ろしてあげるから…」


女「まさひとっ!やめて、まさひとっ!!」


男「っと…ほら、ここが、俺の部屋だよ」


女「まさひと…なんで…」


男「なんで?だって言ったじゃないか、俺はしおりが好きだって

それに、やっぱりしおりはちゃんと実在してた!」


女「私…」


男「でも…どうしてしおりは首だけなの?」


女「…私は…大昔に作られた実験体なの…

私の父は、呪物とか呪具とか、とにかく怪しいものを集めていた

そして『不老不死』の実験に…私を使ったの…」


男「不老、不死…?」


女「首の切断面にお札が貼られているでしょう?

それが、私を生かしているの…」


男「じゃあ、このお札を取ったら…」


女「多分、死ぬ」


男「…」


女「私ね、ずっと一人だった…

家族も、私より後に生まれた人たちも、

何人も何人も、見送ってきた」


男「…」


女「だから…もう終わりにしたいの」


男「死にたいってこと?」


女「うん…」


男「そんな!だってやっと会えたのに!!!」


女「お願い…」


男「嫌だ!だってしおりも!俺の事好きって言ってたじゃないか!!

あれは!あの言葉は!!嘘だったの?!」


女「嘘じゃない!まさひとと話しているうちに…あなたを好きになってた…」


男「なら!」


女「でも私、こんななのよ?」


男「関係ない」


女「首だけの女でも?」


男「しおりだから。俺が愛したのは、しおりだから」


女「まさひと…」


男「お札が剥がれないように補強しなきゃ…

それと…そうだ、髪を洗ってあげる。顔も洗って…

しおり、こんなにキレイなんだ、絶対もっとキレイになる…」


女「まさひと…」


男「好きだよ、しおり。愛しているんだ」


女「…嬉しいけど…こんなのおかしいわ…」


男「おかしくなんかない!!!

しおりは…俺の理想通りの女性だよ…!!

母親みたいに、俺を置いて出て行ったりしない!

父親みたいに、酔って俺を殴ったりしない!!

新しい母親みたいに、俺を邪魔者のように扱ったりしない!!!」


女「まさ、ひと…?」


男「もう、ずっと離さない。

ずっと側にいる…

しおり…大好きだよ、愛してる…

そうだ、二人だけで結婚式を挙げよう!

キレイに飾りつけてあげる…そして誓いのキスをして…」


女「まさひとっ!」


男「これからはずっと一緒だよ…

死が二人を分つまで…俺がしおりを守ってあげる…愛してあげる…


だから…だから………


どこにもいかないでね?しおり…」

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君に首ったけ【1:1:0】20分程度 嵩祢茅英(かさねちえ) @chielilly

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