世界で初めてのネコ!

坂田修一

第1話 空を見上げる僕は誰?

海岸の砂の上でぼんやり空を見上げているネコがいました。

このネコこそ、この地上で初めてのネコでした。


それこそ世界で初めてのネコなので、自分がネコということも

ネコという名前だということも何もわかっていません。

まだ、誰もこの生き物をネコと呼んでいません。


ネコはしばらくぼーっとしていましたが、波の音にもあきたのでしょう、砂浜を

トコトコ歩き始めました。

近くの森に鳥が飛んでいるのが見えました。

ネコはなんだかわからないのですが、鳥に近づきたい気持ちになりました。

そして思わず大声で叫んでいました。


「あーあー。あのー。そばに行っていいですかー!!」

自分でもびっくりしてしまいました。

自分の声というものを初めて聞いたからです。

ニャアニャアという声でしたが、なんだかスッキリ自分の思ったことが外に

出たようでうれしくなりました。

「ああそうか。これが声というものか。言葉というものか。ふふーん。こりゃ

楽しいや」

ネコはそのまま鳥が止まっている木の下まで行きました。


木の上では鳥がもうそれは興味津々でネコを見ていました。

「こりゃたまげた。なんだこの生き物は」

その時、気持ちの良い南風が海の方から吹いてきました。

ネコと木の上の鳥にもそよそよと吹きました。

「これはなんだろう。僕のヒゲをくすぐる気持ちの良いかんじは、なんだろう」

ネコに用心しながら鳥は親切に答えてやりました。

「これは風だよ。おまえ、風も知らないのかい?」

「風?風っていうのかぁ」

「ところで、お前は誰だい?へんなかっこうしてるけど、誰だい?」

そう言われて、ネコはとてもこまりました。

へんなかっこうと言われたけれど、自分で見えるのは手と足と、ヒゲの先と、しっぽと、優しく柔らかい毛のはえたお腹のあたりです。

あとは手のひらがまるくぽっちゃりとしていて我ながら可愛いなぁと思ったくらいでした。

「じつは、わからないんです」


鳥は少し気の毒に思ったのでしょう、ネコに向かって言いました。

「まあ、あれだよ、何にしても、南風がきもちいいなんて思うくらいだ。きっとお前はいいやつだと思うよ」

そう言われ、なんだか嬉しい気持ちになったネコでしたが、さてこれからどうしたものかという気持ちもわいてきました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る