四冊目 池袋ウエストゲートパーク その六
♪
「こっちの道具は?」
一旦陣地に戻ってきた私たち三人。ホワイトタートルネックとおかっぱとカボチャ。へんてこな三人。中は見た目ほどボロっちくはなかった。何も無い空き家で膝を突き合わす。居間を通り過ぎた先にある客間。二階ではなく一階に旗を置いてるらしかった。掛け軸を掛ける場所に赤い旗が傾けて立て掛けてあった。旗には⑧と数字が振られている。
今になって不思議なんだけど、どこからああいうの持ってきてたんだろう。
こういう田舎にはおじいちゃんおばあちゃんのためのゲートボール場が、山や河川敷や公園等にたくさんあるけど。まさかねえ。
「なし」
「え?」
「道具なんかいらないよ。あいつらバカだから。わかってないんだ」
「そうそー。身軽な方がいいよー」
不安だった。相手は完全武装している。身軽と言うが私は重い。カボチャでふらふらだ。外す気はなかったけれど。外した瞬間にこの子たちに奪われてしまうんじゃないかという、子供特有の変な思い込みをしていた。
「この家って入っちゃっていいの?」
子供だ。話に脈略がない。不安になっていたことを立て続けに訊いてみることにした。
「誰も住んでいないから」
理由になってない。
「でも、鍵は」
「そこの窓あるでしょ? ぐっと下から持ち上げて鍵の部分外からとんとん叩くとね? 鍵外せるんだ。向こうの家も一緒だよ。庭の縁側の。このへん空き家ばっかなんだけど、こことあっちはいけたの」
彼女の示したのは庭に出るための窓だった。クレセント錠。つまり空き家全部でそんなことをしたということか。恐ろしい子供たちだった。
「でも、捕まっちゃうよ?」
「いい? 子供はね。ほーりつで守られてるから絶対に捕まらないんだよ?」
尚も心配する私に、白タートルがくるくると顔の横で指を回し得意げに言う。
「ほう、なに?」
「ほーりつ。調べてみたら分かる。わたしもお姉ちゃんから聞いたんだ」
「ふうん」
後でお母さんに訊こ。
その後、ルールとこちらと向こうの間取りと先の戦争ごっこにおいての旗と牢屋の場所、恐らくそこは変更されているということ、などを確認した。そして、
ぴゅ~、パンッ!
ロケット花火の音が鳴った。
「合図だ。行こう」
ゲーム開始。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます