第九話 二人の時間

 窓から西日が射す夕暮れ時。

 鈴はそろそろ家へと帰らなくてはいけない時間になる。


 二人はベッドに並んで座り、六花は本を読み、鈴はスマホをいじっていた。


 六花から見れば何も考えていないように見える鈴は、実は今日一日ずっと悩んでいた。


 四人で一緒にいることが多いため、実は二人きりになれる機会というのは滅多にないことなのだ。


 こういうときでないと、話せないこともある。


「ねぇ、佐々木」


「なに?」


 六花は本から視線を動かすことなく返事する。


「真面目な話なんだけど」


 鈴はスマホを置き、六花をいつになく真剣な眼差しで見つめる。

 それに気がついた六花も本を閉じる。


「なんだよ改まって。晩ご飯何食べるかって話?」


 六花は、鈴の真面目な話なんてその程度のものだろうと高を括っていた。


「違わい! ホントのホントに、真面目な話なんだってば!」


「……なに?」


 鈴の本気を感じ取った六花は茶化すことをやめ、改めて鈴に向き直った。


「じょっ、じょじょ、じょっ……っ!」


 しかし、鈴がいざ本題に入ろうとすると、緊張して口が全く回らない。


「林、焦らないでいいよ。ちゃんと聞くからさ。ほら深呼吸。はい吸ってー」


 六花の言葉に合わせて、鈴が大きく息を吸う。


「吸ってー」


 鈴が言われるがままに息を吸う。


「はい吸ってー」


 まだまだ吸おうとして、鈴はむせた。


「げほっ、げほっ……おまえ、あたしを殺す気か!?」


「おまえって素直だよね」


 六花が悪びれずに笑う。


「ひどくね!? あたし真面目な話しようとしてたのに!?」


「悪かったって。でもリラックスできたでしょ?」


「……うん、それは、そうだけどさ」


 鈴は六花の言う通り、いつものようにバカなやり取りをしたおかげで、深呼吸をするよりもリラックスできた。そのため、それ以上は何も言い返すことができなかった。


 鈴は改めて一度深呼吸をしてから、意を決して言葉を紡いだ。




「ねぇ、佐々木……。女子が女子のこと好きになるのって……ダメ、なのかな……」

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