我々は皆、怪物である
西城文岳
序章 絡めとる魔手
第1話 ヒューマントラップ
コンクリートで出来た一室。
部屋の中心にある机に向き合って座る二人。
スーツを着た初老の男性から放たれる威圧感に押しつぶされそうなパーカーにジーンズの少年。
厳つい顔つきの根本で結ばれた白い顎髭をした老人は、自分よりも背の高いオールバックで指輪やネックレスで身を包んだ不良少年を真剣な眼差しで見つめている。
窓は夕日に染まり机に置かれた小さなライトが暗い部屋の唯一の光源だった。
「君は一体ナニを見たんだ?」
少年はただ老人の問いかけに縮こまって細々と喋り出す。
「俺は……最初誰かが溺れてるんだと思ったんです。川の藪の中に誰かが浮かんでいて……」
「それで君はどうした」
「急いで仲間と助けに行ったんですけど……その…その人はうつぶせで浮かんでいて俺はもう駄目だと思って警察に電話をしたんです」
「だが警官がそこに着いた時そこには君しか居なかった」
「そ、その間に仲間は……」
少年は声を震わせて何とか次の言葉を絞り出そうとする。
歯を食いしばりその拳を強く握られている。
「みんな既に……」
当日昼頃、九月明け
「おい?どうしたんだよ。みんな?」
警察に通報を終えた青年、
余程、仏の状態が酷かったのかと野次馬根性満載の好奇心で近づこうとした時だった。
仲間たちは足元から崩れた。
倒れたのではない、人の形が砂であったかのように崩れ去ったのだ。
「へ?」
彼の目の前の砂の山の中に服やアクセサリーが覗いている。そこに例外は無く友人達人数分。目の前にある砂山の内一番奥のものは今も川に流され小さくなっていく。
「え?あ、う?
うわああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」
彼は一体何を見たか自分でもわからなかった。わかるはずがない。
瞬く間に知り合いが消え、そこにはただ、お前の知り合いだったものが人としてではなく、乾いた砂になった恐怖、少し早く自分もそこにいたと思ったとき自分も同じ終幕を迎えていた恐怖。
尻餅をつきその場から動けず無様なチンピラを見た警察はヤクでもキメているのだろうとまともに取り合わない。
そうだろう。そうだろう。お前はただのヤク中としてここに運ばれたのだから。
「そうか……」
取調室の老人は彼の話しを聞き終えるとそう一言だけ呟いた。
「本当なんです!俺は薬なんかやってない!!みんな、みんな突然あんな姿に……!!!」
「そりゃそうだな。検査でも反応はなくお前は正気だとわかったし今その砂の成分分析の資料もあるしその内容は人間の皮膚が乾燥したモノだって書いてある。」
「……!!」
奥歯を嚙みしめていた彼は、はっと顔を上げ目の前の刑事を見る。
「だが一番気になっていることがある」
「お前が見たという仏は何処にもない」
「え……?」
「だから柳さん、お前が見たと言う土左衛門、水死体が何処にもないんだよ」
柳の顔は怒りから困惑に変わり椅子から立ち上がる。
「どういうことなんですか!確かに見たんです!」
「どうもこうもねぇ。ただこれだけは言える。お前はもうあの川に近づくな」
刑事は表情を変えることなく顔を柳から逸らし、ただ淡々と告げた。
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