夜尿少女の助手席おむつ交換

はおらーん

夜尿少女の助手席おむつ交換


いつもは目覚まし時計より早く、下半身の気持ち悪さで目を覚ますことの方が多いが、今日は枕もとの時計の音の方が一足早かった。猫の形をしたデジタル時計は、まだ5時ちょうどを示していた。1階ではお母さんが家事をする音が聞こえる。


「あ、そっか。今日墓参り行くんだっけ」


遙香は上半身だけ起こして、んー!と背中を伸ばす。今日は早い時間に出たからか、いつもの冷たさではなく、じんわりと温かい感じがした。


「結構出てるなぁ…」


遙香は一度頭を枕に預け、掛布団を全身から剥がし壁側に寄せる。ネイビー色のジャージは、誰が見てもわかるくらい大きく膨らんでいた。遙香がジャージに手をかけてゆっくりとズボンを下ろすと、不織布と布がこすれる音が部屋に響く。遙香の一晩中のおしっこを吸収した、大きな紙おむつが姿を現した。ジャージを一旦膝まで下ろすと、おむつのテープに手をかけ、ビリっビリっと4枚とも素早く外していった。前当ての部分を指でつまんで足の方へふわっと放り投げると、遙香の鼻にもツンとして尿臭が届く。はるかのおねしょは、一緒に当てていたパッドのギャザーを乗り越えて、おむつの方まで染み出していた。


「ハルカー!ちゃんと起きてるー?」


「起きてるよー!」


汚れたおむつの上にお尻を置いたままハルカは一階に向かって叫ぶ。今年高校に入ってからは多少減ってきたとは言え、それでも週の半分以上はおむつを汚している。中学生の時は毎晩のことで、油断すると昼寝やウトウトした時にも失敗することがあった。小学生の時に重度の夜尿症と診断されながらも、根気強く通院を続けた結果が今の遙香だった。寝転んだままジャージのズボンを足元まで下ろし、足首を器用に動かしてベッドの傍に落とす。おむつの汚れた部分がシーツにつかないように気を付けながら、お尻から大きなおむつを引き抜いた。


……今週は3勝4敗か。なかなか勝ち越せないなぁ


壁に貼った夜尿症の記録シートを見ながら、心の中で思う。通院を始めた高学年の頃は、いつまでおねしょが治らないんだろうと自己嫌悪に陥ったものだが、15年以上も続くとそれが習慣になり、段々と恥ずかしさは減っていく。それでも、絶対に友達や同級生には知られたくないと、宿泊学習などでも意地でも隠し通した。


Tシャツ一枚だけになった遙香は、タンスの上に置いてあるカゴから、ウェットティッシュを一枚引っ張り出して、鼠径部に当てながら湿った部分を拭きとる。ティッシュのパッケージには、メリーズという文字と、かわいらしいうさぎが見える。肌の弱い遙香には、アルコール成分の多いウェットティッシュより、赤ちゃん向けのお尻拭き方が合うようだった。


「こっちでいいか」


遙香は自分に言い聞かせるようにして、タンスの横のパッケージから一枚抜き取る。安心パンツと書かれてはいるが、いわゆるパンツタイプの紙おむつだ。おねしょ頻度が減ってきたとはいえ、やはり昼間のうたた寝などは今も心配だ。ほとんど汚すことはなかったが、いつも念のため履いて過ごすことにしている。テープタイプと違って、こっちはパンツを履くのと変わりはない。一度膝まで上げてギャザーを整えると、一気に腰まで引き上げる。ベッドの横に脱ぎ捨てたジャージを再び履いて、遙香は一階に降りていった。



既に起きていたお父さんは、食卓に座ってコーヒーをすすっている。


「ハルちゃん、たぶん渋滞するから一応テープのにしときなさい」


遙香はチラッとお父さんの方を見てリアクションを伺う。病気だから仕方のないことだが、高校生にもなっておむつが必要なことを父親の前で話すのは少々恥ずかしい。


「去年大丈夫だったじゃん」


「でも中1の時は漏れてシート汚したでしょ。一応一応、ね」


「えー、やだな…」


「シートのクリーニング結構するんだから、頼むよ」


横からお父さんが口を挟むが、おねしょとおむつのことをお父さんに何か言われるのが一番不快だ。


「お父さんは黙ってて。もう、わかったから」


ピシャッと言われたお父さんは、年ごろに娘に何も言えず再び手元の新聞に目を落とす。


「替えてきたらハヤトも起こしてきてねー」というお母さんの声を背中に受けて、遙香は再び自分の部屋に戻ってきた。


「テープするならスカートだなぁ」


さっき引っ張り出した安心パンツの横には、テープタイプのおむつのパッケージも置いてある。パンツタイプとは違ってパックも大きく存在感がある。遙香はジャージを脱いで、さっき履いたばかりのおむつを脱ぎ、丁寧にたたんで安心パンツのパッケージの上に置いた。


……ちょっとしか履いてないし、明日履く分にすればいっか。


お母さんが聞いたら「汚いでしょ!」と怒るかもしれないが、もったいない性分の遙香は、少しスキマの空いたパッケージに、畳んだおむつを突っ込んだ。テープのおむつとパッドを手に持ち、ベッドの方へ歩く。ベッドの端のところに開いた状態でおむつとパッドをセッティングした。テープのおむつを使い始めたころは、ベッドに横になって当てていたが、段々と慣れてくると座って当てる方がラクだと気付いた。


ベッドのヘリに置いたおむつの上に、どさっとお尻を落とす。遙香は座った状態のまま前当ての部分を腰まで持ってきて、体の後ろからテープを回してくる。一度おむつを当ててから、立ち上がって姿見の前まで移動した。寝ているときは大丈夫だが、立った状態でテープのおむつを使う場合、重くなるとずり落ちる可能性もある。遙香は、姿見の前で何度かテープを貼りなおした。


「うん、こんなもんかな」


そう独り言を言ったが、パッドを入れたテープおむつはスレンダーな遙香のシルエットを崩すには十分だ。そんな下腹部を隠すためには、ファッションを工夫するしかない。遙香は、クローゼットから丈の長いグレーのパーカーと、白いフレアスカートを取り出して着替え始めた。おむつを隠すには、上と下が大事になる。分厚いおむつを当てている以上、ズボンは履けない。かと言ってめくれて見えるようなスカートを履くわけにもいかず、ロングのフレアスカート以外の選択肢はない。あとは腰回りも大事だ。屈んだときに腰回りからおむつが見えるなんてことがあれば、言い訳のしようもない。特に今回のようにテープのおむつは、股上が普通の下着とは比べ物にならない。シャツの裾をスカートの中に押し込むだけでは足りず、お尻の上半分くらいまで隠せる長尺のパーカーを選んでいた。着替えた後も、遙香は念のため姿見の前で一周して、おむつが見えることはないかどうか確認した。


「うん、問題ないね」


遙香はそのままハヤトの部屋に行く。来年小学生になる弟が、起きる気配もなく寝息を立てている。遙香はガバッと掛布団をめくって、そのまま放り投げた。なんでこいつはおねしょしないんだ、と掛布団を失った弟を見ながらふと考える。結局無理やりたたき起こして、リビングまで連れて行った。




荷物を車のトランクに入れると、「ボクぜったい後ろ!」とハヤトが後部座席に乗り込む。長時間の移動の時は、車内で昼寝することが多い。まだ幼いハヤトは、脚を伸ばしてお母さんの膝を枕にして寝るために、いつも後部座席に座るようにしていた。遙香は助手席に乗り込み、手元の荷物だけ膝に置く。車は、普段なら3時間ほどの距離のおばあちゃんの家に向かって走り始めた。




当初の予想通り、トンネルを抜けたところで遙香たちは大渋滞につかまった。早朝に出れば大丈夫だろうと思っていたが、大多数の人も同じように考えたようである。運転席のお父さんは、仕方なさそうにギアをニュートラルに入れて、脚をアクセルから離した。


「お父さん、ハルカ寝ちゃった?」


「そうだね、寝てるみたい」


お父さんが助手席の方を見ると、遙香は窓に体重を預け、寝息を立てていた。朝5時に起きて田舎に向かっているが、すでに時間は昼前になっている。弟もお母さんの膝を枕にして、気持ちよさそうに寝息を立てていた。


「起きたら替えないダメやろうねぇ。お父さんサービスエリアまで時間かかりそう?」


「しばらく動かんと思うよ。ハルカには悪いけど、我慢できんかったら車の中かな」


「そうね、じゃあハヤトが気づかんうちにしてあげんと」



お母さんは、運転席と助手席の間から体を差し込んで手を伸ばし、そっと遙香のフレアスカートをめくった。真っ白なおむつに、ブルーのテープが4つくっついている。おむつの上からそっと手を当てると、じんわりと湿っているのが伝わってきた。


「ハルカ、ハルちゃん」


弟が起きないよう、耳元で小声でささやく。お母さんは遙香の長髪を耳にかけながら、頬っぺたをポンポンと叩いた。一瞬ピクッとして、遙香は目を覚ます。


「ハルカ、もう出ちゃってるから。ハヤトが寝てるうちに、ね?」


「え、あ、うん…」


去年は車の中でおねしょすることはなく、サービスエリアで出すことができた。家でのおねしょはともかく、こうして久々に家族の前でおむつを外すのは恥ずかしい。遙香はお母さんが差し出したカバンを受け取る。中からチャックのついたポーチを受け取ってお母さんへとカバンを返す。


「コレ、先に」


「うん」


お母さんは小さなタオルを遙香に手渡す。車のシートが汚れないよう、先にお尻の下に敷いておく必要がある。ポーチの中には普段使っているおしりふき、交換用のパンツタイプのおむつ、汚れたおむつを入れるビニールが入っていた。運転席のお父さんは、何も言わずに運転席の窓を少し開けて、煙草に火を点けた。お母さんも周りの車から見えないよう、少しだけ窓を開けた。そんな気遣いが余計に遙香の羞恥心を掻き立てる。


「さっと着替えちゃって」


「うん」


遙香は、フレアスカートの中に手を伸ばす。多少めくれ上がっても、元がロングスカートなので膝くらいまでは隠れている。車のラジオはそのまま鳴っていたが、それでもテープをビリっと外す音は誤魔化せない。4回ビリっと音を鳴らすと、遙香は助手席で前かがみになる。そのままおむつを外すとスカートに内側に汚れた部分が触れてしまう。前当ての部分を内側に巻き込みながら、徐々に丸めていく。そうするとスカートを派手にめくることもなく、おねしょで汚れた吸収体がスカートに触れることもない。


「ん…、ん…」


おむつを徐々に前の方に引っ張りだすために遙香がお尻をちょこんと浮かすたびに声が漏れる。それと同時に、おしっこのツンとしたにおいも車内に広がったが、お父さんのタバコに紛れたおかげでそれほど気にならなかった。朝もあれだけの量のおねしょをしていたにも関わらず、それと変わらないくらいの量が出ているなと、遙香は感覚的にわかる。


「ビニールに入れたらこっちにちょうだいね」


「うん、わかった」


ようやくおむつを最後まで巻き取ることができた。スカートの中から外に出すことなく、テープで留めて丸めた。遙香の小さな手では片手で持つのが難しいくらい大きく膨らんでいた。そのまま運転席のお父さんに見えないようにスカートの中で袋に入れようと思ったが、片手で持ちきれずにボトンと足元へ落ちてしまった。


「ハルカ、大丈夫か?」


「ちょっと、こっち見ないで!お父さんはタバコ吸ってて!」


思いのほか強い口調にお父さんは窓の方に向きなおって煙を吐き出した。家族とは言え、異性の父親に自分の恥ずかしい部分を見せるのはイヤなのだろう。思春期真っただ中とは言え、普段はお父さんに対しても穏やかな遙香だったが、今だけは違う。お父さんが窓の方に顔を向けているのを確認して、サッとおむつの塊を拾い上げて、急いで袋の中に入れた。


「お母さんコレ」


きつく縛った黒いビニール袋をお母さんに渡す。


「お父さんはそのままだよ!」


遙香はもう一度お父さんにくぎを刺す。


「ハルちゃん、あんまり大きい声出すとハヤトが起きるよ」


部屋におむつのパッケージを置いている以上、弟に夜尿症のことを隠すことはできない。お母さんからも、「お姉ちゃんは病気で仕方なくおむつ履いてるんだよ。バカにしちゃだめだし、他の人に言ってもダメだからね」と何度も説明している。素直なハヤトは、お母さんの言葉をしっかり守っている。家で何かを言われることはないが、それでもおむつを履いているところ、交換するところを見られたことはないし、今ここで見られるわけにもいかない。


「お父さんもお母さんも静かにね」


とってつけたような遙香の言葉に、お父さんはフッと小さく笑って、そのまま窓の方を向き続けた。


パンツタイプのおむつは、履くだけなので簡単だ。少しでもお父さんの目に触れないよう、ポーチから取り出すと素早くサッとスカートの中に隠した、手探りでウエストの部分を開き、履いているサンダルを脱いで片足ずつ通していった。膝のところまであげると、さっきテープのおむつを外した時とは反対に、リズムよくポンポンとお尻を浮かせては、腰のところまで紙おむつを引き上げた。


「うん、もう大丈夫」


ようやくお父さんはハンドルの方向くことができた。


「パンツだから、あとはサービスエリアまで寝ないようにしなさいよ」


「はいはーい」



遙香はかすかに残った尿臭を嫌って、助手席の窓を全開にした。


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