「あなたも人間だった......」

　目の前には、人間らしい温かい表情を浮かべた蛇女ムグリの姿があった。

「そうよ。私だけではないわ。ここにいる皆は、もともと、人間だったのよ。皆、それぞれの事情があって半獣になっているの」

　返す言葉が見つからなかった。彼らもまた、僕と同様に、人間から半獣になっていたとは、思いもしなかった。

　彼らは、望んで自らの意思で半獣になったのだろうか、それとも......。

　驚きの感情とともに、彼らに対する興味がわいてきた。なんと返せばよいか分からず、僕が言葉を失っていると、狼男アウルフが荒々しい声を上げる。

「俺は、ムグリとは、違って望んで半獣になったぜ。お前は、半獣になりたくなかったというが、理解できねーな。半獣になれば、圧倒的な力が簡単に手に入るんだぜ。お前も、半獣になって実感しているはずだ。人間とは比べ物にならないくらいに自分の身体能力が上がっていることによ」

　狼男アウルフは、僕に向かって、鋭い爪が生えた指を向けた。確かに、身体能力が、飛躍的に上がり、並外れた力が沸き上がってくる感覚があった。でも、それは僕が望んだものではない。少なくとも、ごく平凡の日常を失ってまで得るものではなかった。

「アウルフ、あなたは、失うものがなかったから、そんなことが言えるのよ。家族を失い、友人も失ったあなたには、半獣になっても、失うものがなかった。でも、この子は、まだ、失いたくないものがあるもの」

　蛇女ムグリが、相変わらず優しい口調で言うと、狼男アウルフは、苛立ちを露にし言った。

「このドS女が！人のトラウマにしていることを躊躇いもなく話しやがる。失いたくないものがあるってだけでどれだけ幸せなことなのかお前たちには、一生分からねーよ」

　一瞬にして、ムグリとアウルフの間で火花が散り、勝手に険悪な雰囲気が漂う。その雰囲気をうち壊すように、ライオン男ライアンが話始めた。

「ここにいる者は、様々な経緯があるとはいえ、もともと人間だった者たちだ。体は、半獣になったとはいえ、心は人間の暖かみを持っている。だから、お前が言うように、蛇を使い、有無を言わさず、お前を半獣になど絶対にせぬ」

　ライアン男ライアンは、太い両腕を組ながら、威厳のある声で言った。彼の声に、ムグリとアウルフの間で散っていた火花は、すっかり鎮火された。アウルフは、そっぽを向き、ムグリは、ゆっくりと両腕を組んだ。

　僕は、まだ、納得ができなかった。この人たちが、半獣にしたのではないのだとしたら、僕を半獣にしたのは、誰なのだ。悪い人たちでないと思いたいが、まだ疑いの気持ちが残っていた。

「それでは、なぜ、白蛇が僕の部屋にいたのですか？僕は、この白蛇に半獣にされたと思っています」

　蛇女ムグリが、ライオン男の代わりに僕の問いかけに答えた。

「私の白蛇は、あなたのことを気に入ってついていったと思うわ。あなたには、蛇と仲良くなる才能があるのよ。それに、白蛇は、半獣にする力なんて持ってないわよ」

　白蛇は、ただ単に、僕に興味があって、ついてきただけだというのか。昔から、動物に好かれる体質ではあったけれど、白蛇にストーキングされるとは思ってもみなかった。

　半獣にする力がないというが、どういうことなのか理解できなかった。右腕には、蛇に噛まれたような傷がある。それが何よりもの証拠ではないのだろうか。

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