07_再訪

 タイムベルに行って確かめるしかない。また、あそこに向かうのか......。


 昨夜のタイムベルの出来事を思い出し、両手の拳を強く握る。やっと、タイムベルの異様な空間から、抜け出すことができたのに、また、自らの意思で行くことになるとは。


 親には心配をかけたくない。一人で、こっそりタイムベルに向かおう。


 二階の窓から、家の回りの外壁の上に飛び移って、親にばれないように、ひそかに家を出た。蛇女ムグリに白蛇を返すために、白蛇の入った瓶を腕で挟み込んでの移動だ。


 瓶を誤って落とし、白蛇が逃げないように細心の注意を払おう。身体の異変が、白蛇によるものなら、なおさらだ。僕みたいな被害者をこれ以上出す訳にはいかない。


 超人的な身体能力を生かして、壁上の細い足場を走り、道なき道を進んだ。思い付く限りの最短ルートで、タイムベルのある山にたどり着くと、鬱蒼とした暗闇に溶けていく。


 タイムベルの門まで行くと、施錠が地面に落ちたままだった。昨日、アルバートが石で破壊し取り外した施錠だ。


 門を開け、さっそく小道を進み、タイムベルの前まで来た。タイムベルは、以前と変わらず、なんとも言えない怪しげで異様な雰囲気を放っていた。


 来るのは二度目とはいえ、心臓が激しく鼓動し、変に身体に力が入った。彼らともう出会わないと思っていたし、もう出会いたくはなかった。半獣という人外の存在と出会うことは、命を危険にさらすことだ。とても、勇気がいる行為だった。


 教会の扉の取っ手を掴み、ゆっくりと開けた。教会の中を見渡しても、誰もいない。半獣たちは、やはり、教会の地下にいるのだろう。

 

 僕は少し安堵して、教会の中に入った時だった。後ろから、何者かが急に僕の肩に、片手を置いた。


「何のようだ。小僧。お前は、確か、昨日、ここに来ていたな」


 突然、後ろから、話しかけられて、僕は、声の主からすかさず距離を取った。肩を触られるまで、全く気配を感じなかった。半獣に近づいて、あらゆる感覚が研ぎ澄まされた状態で、自分の後ろをとられるとは思いもよらなかった。


 声がした方を見ると、一人の人間が立っていた。見た目は、普通の人間だが、ただの人間にはどうしても思えなかった。


「今の動き、小僧、どういわけだか知らないが、半獣になっているな」


「僕は、あなたに会った覚えがない。昨日、あなたと僕は会いましたか?」


「そうか。人間の姿は、初めてだったか。この姿なら、見覚えがあるだろう」


 話しかけてきた男は、細身だったが、みるみるうちに体が巨大化していき、半獣へと姿を変貌していった。


 僕は、半獣の姿をした彼を見て、言った。


「象男なのか。全く気づかなかった」 


 男は、見覚えのある象男に姿を変えていた。細身の男の正体が、巨大な象男だとは、想像もつかなかった。

 

「それよりも、お前は、なぜここに来た?何度も、この場所に来られても困る」 


「僕が蛇女に聞きたいことがあって来ました。蛇女の蛇が、僕の部屋にいたんです」


 僕は、象男に、瓶に入った白蛇を見せると、彼は驚きの表情を見せる。


「ムグリの蛇が人間についていくなど珍しいことがあるものだ。そういえば、ムグリが、蛇が一匹いないと嘆いていたな」


「そのムグリさんに会って、話したいことがあるんです」


「よかろう。ならば、ムグリと話すがいい。止めはしない」


 象男は、僕の訪問を頑なに拒むのかと思ったが、意外とすんなり、タイムベルに入ることを許可してくれた。象男は、僕の半獣になっている姿を見て、ことの重大さを感じ取ったのかもしれない。


 象男は、タイムベルの教会の入口に立ったまま、監査を続けていた。僕は、一人、教会の地下に通じる階段をゆっくり下った。


 この先に蛇女ムグリがいる。彼女と話し、何か分かれば、いいのだがーー。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る