第11話 カナ

「カナも早く結婚しないと、私達もう31でしょ?ほら……子供がほしければなおさら」


 同期のサクラは、29歳で結婚すると事あるごとに上から目線でアドバイスしてくるようになった。ただ30歳までに結婚すると宣言し、駆け込みでダメンズと結婚し苦労してるようなので全く説得力がない。


「そうだよね〜」


若干イラつきながらも、サクラは面倒な女なので空返事するしかない。


 タカシと婚約した事を周囲に話してから、会社の自分のデスクから文房具がなくなっては他の誰かが使っているという事が増えた。はじめはたまたま同じ商品かと思ったが、期間限定の装飾の物が使われていたのを見て思わず問い詰めた。


「ねぇ、それ無くした私のペンかな?と思うんだけど……」


「えっ!そうなのごめん。共用部のペン立てにあったの可愛くてそのまま持ってきちゃった」


 彼女は、本当に申し訳なさそうにペンをカナコに返す。作業スペースやミーティングルームには忘れられた筆記具がそのまま置いてあり、その場で他の人が使うことはよくある。ただ、カナコは自分でも少し神経質と思うほど几帳面なのでそんなに複数の文具をその場に忘れることはありえないだろう。

 誰かが意図的に移動している……誰がやったかなんて容易に予想がつくが……。


 翌日出勤してくると、デスクに殆どの文房具が戻ってきていた。


「そのカワイイ文房具。カナさんのですよね?なんなあちこちに忘れてましたよ。意外とオッチョコチョイなのね。ふっふっ」

ミミが得意げに報告してきた。遠くから不服そうにサクラがこちらを見ている。


「そうなのよ、歳かな〜」


「おいコラ、若ものが何を〜」


 もしサクラが本来やるべき業務を実質こなしてる年上のアシスタントのミミではなく、若手の女性社員が同じ事をしようものならサクラにいびられていただろう。カナは内心ヒヤヒヤしていた。


 ミミのおせっかいも虚しく、数日後にはまた私の文房具がなくなるようになった。


(……毎日持って帰るようにしよう。あの女……サクラ……死ねよっ)


 ふと、机にあった冊子が目に入る。

“営業企画のマネージャーのお仕事”

社内報のなかで、サクラがほとんど自分でやっていない仕事について笑顔で紹介している。

そのページをハサミで細切れにして当人のゴミ箱に入れた。

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