第5話 忠 1

「おたくの息子さん、一体なにをしたんです?申し訳ないですが……私には祓えません」


 何故か寺社仏閣に電話しようとすると話し中で繋がらず。メールの返信もない。

ネットや人づてに探した霊能力者のほとんどに、電話をかけた瞬間に断られて途方にくれていた。

 快く引き受けるのもいたが、金ばかり取られてなんの効果もないか、何らかのトラブルでこちらに辿りつけないかだった。


 あまりに苦しく、職場の休憩室で若い部下に愚痴をこぼしたときのこと、思わぬ返答に戦慄した。


「祓えないなら、誰かに押し付ければいいんですよ」


彼女は、烏のように重く光る黒髪をゆらしながら、口角だけをニッとあげて覗き込んできた。


「ヒトガタでしたっけ?紙の人形を体の悪い部分にペタペタして息を吹きかけたのを神社にお焚き上げしてもらうやつ。

あれみたいに人にあげる物に“あの子の厄を持っていってください”って念をのせて、誰かに渡すんです。

呪いを渡した人に気付かれないように。

すぐに捨てられないようにちょっと良いもの物がいいと思います。簡単でしょ?」


あまりに簡単だが、そんなに簡単に人をおとしめる事ができるとしたら世の中はどうなってしまうのか。


「あ、絶対に罪悪感を持ったりとか後悔とかしちゃだめですよ。帰って来ちゃうから。ふふふ、皆大なり小なり皆誰かに呪い呪われてるんですよ。風邪といっしょです。たまたま弱ってた人が時々死ぬだけ。皆やってるんですから。いーのいーの」


美しい彼女が、あまりに楽しそうに語るので、俺はなんだか怖くなって下を向いた。


「あれ?榊さん?電気もつけないで残業ですか?」


遠くから驚いたような部下に声をかけられて顔をあげると、日が落ちて真っ暗な商談席に座っていた。


「いや、ちょと〇〇さんと話していたんだ」


「ん?なにさん?」


「あれ?〇〇さん」


自分が、誰と話していたのか思い出せない。話した内容だけが残っている。


「誰かに押し付ければいいんですよ」

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