「赤いきつね」が結んだ縁

志木 柚月

第1話 東京 新橋

 「私は天ざるで」

 木枯らし1号が吹くという予報が出ている肌寒い日のお昼時、ランチメンバー4人で訪れた老舗のお蕎麦屋さんで朋代ともよは店員にそう告げた。ここは外ランチの時に頻繁に訪れるお蕎麦屋さん、普段は迷わずメニューを注文する朋代も今日ばかりは他の3人がそれぞれ温かい蕎麦を注文し終わるまで、何を頼もうか思案していた。それほどまでに冷えた身体は温かい食べ物を求めていた。が、結局はいつもどおり冷たい蕎麦を頼むことにした。

 「かしこまりました」

 注文を復唱した店員が踵を返したのを見届けると最年少のミチルちゃんが口を開いた。

「朋代さん、この季節に「ざる」ですか?」

「室内は暑かったからね……」

 朋代はテーブルの下で手を擦りながら、笑顔で返す。

「またまた~。そんなこと言っちゃって。朋代は冬でも温かい蕎麦は食べないでしょ。今だって寒そうにしてるじゃん」

 すかさず同い年の映見子えみこが口を挟む。

「だね」

 いたずらがバレた子どものように朋代は軽く舌を出した。

「どうしてですか?」

 ミチルちゃんは素直な疑問を口にし、「ねぇ」と同意を求めるように隣に座ったユカちんの顔を覗き込んだ。対応に困ったユカちんは、助けを求めるように先輩である映見子の顔を見た。

「そっか……ミチルちゃんは今年の春からの配属だから知らないんだね」

 映見子が話し始める。

「朋代はね……」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る