自殺しようとしていたクラスメイトを助けた結果、依存されてしまったのだがとうすればいい?

狼狼3

依存された者の嘆き

昔に比べて死ぬことは本当に少なくなった。


中東やアフリカの地域を見ると強くは言えないが、俺が住んでいる日本や欧米諸国などの先進国では技術が進歩したことや、世界協調が進んだこともあり戦争が起きにくくなった。


前者はこれからもどんどん進んでいくだろうし、後者は未来とは良くも悪くも遊戯に近いものでこれから先国家間の状況がどうなるかは不明だが昔より死ぬことが少なくなったのは確かだろう。


だが、自ら死を選ぶ存在もいる。


平安時代以降に現れた武将もその内の一つだろうし、他には日本社会で問題となっている自殺者もそうだろう。

自殺者の多くは現実の辛さから死という世界へ逃げる為とされているが、人によってそれぞれだろうし、生憎俺は恐怖で実行することが出来なかったので知りようがない。



だから俺は、屋上に設置されている大きなフェンスに縄を掛けて、その縄に首を掛けようとしている少女の気持ちが分からなかった。



「……お前は今から、死ぬのか。」

「そ、そうよ。い、今から私は死ぬのよ。」



俺が尋ねると、小刻みに体を震わせながらそう強がったように答える小倉菫おぐら すみれ


莫大なエネルギーの塊である太陽の光を反射する繊細で滑らかな黒い絹のような髪と、常人より整った顔に小柄な愛らしい姿。

そこら辺の男百人に美少女かと聞いたら百人が美少女と答えるだろう目の前の少女は、スミレという名前の通り、例外なく他人を魅力するようなお嬢様のような純潔さを兼ね備えている。


小倉は俺と同じクラスのクラスメイトだが、その容姿のせいか小倉は多くの男からモテた。好きにならなかった男といえば、俺のような他人に対しての興味が薄い奴や画面の向こう側に彼女がいる奴くらいだろう。


一方で小倉は多くの男からモテていることを嫉妬されて、多くの女子から嫌われていた。女の嫉妬というのは怖いもので、別に親が殺されたという訳でもないのに直ぐに虐めを開始する。


最初は軽い悪口や面倒な仕事の押し付けだったりしたがどんどんエスカレートしていき、カツアゲやストレス解消のサンドバック、私物を盗んだり壊したりするのは今では当然のこととなっている。



女子というのはずる賢いというのか連携がいいのか、先生や男子には分からないようにこっそりとばれないように陰湿にねちねちと仕掛けてくる。

恐らく気付いたのは、俺くらいだろう。

彼女のことだから助けを求めれば男が助けに入ってくれる筈だが、脅されているのか言えない理由があるのだろう。


だから、こうして自殺するまでに至ってしまったのだ。



「…どうしてお前は自殺なんてするんだ?」

「貴方は気付いてたんじゃないの、私が虐められていたことに。最初の内はあんな奴等に負けないようにと耐えていた私だったけれど、エスカレートする内にメンタルが死んでしまったのよ。………私のことを気に掛けてくれるのなら、助けてくれればよかったじゃない。」


興味本位で聞いてみたところ、彼女は俺が虐めに気付いていたことを知っていたのか、軽く睨み付けてきた。だがしかし、俺を睨み付ける目に力は無い。


恐らく虐めで散々心が痛みつけられてしまって、誰も信用出来なくなって自己肯定感が皆無になったのだろう。



助けようと思えば助けられた筈だが、俺は面倒事が嫌いだ。

絶対に助けようとしたら面倒なことになるに決まっているし、生憎俺は5歳の頃面倒事に首を突っ込んでしまって母さんと父さんと妹を殺してしまってからはもう絶対に自分に関すること以外は首を突っ込むことは止めた。


気付いて貰える相手が悪かったとしか言いようがない。



「俺以外の奴に気付いて貰えば何とかなったかもしれないが、相手が悪かったな。恨むなら自分の悪運を恨んでくれ。虐めの初期の方から俺は気付いていたが、止める気はなかった。」

「……貴方も中々の屑ね。まぁ、どっちでもいいわ。私は、今から死ぬのだから。」

「じゃあな。俺のことは恨まないでくれよ。」

「えぇ。しっかりと貴方含め私を虐めたあいつらをしっかり恨んで死んでいくわ。」



そうこっちを満面笑みを浮かべながら台に乗ってロープに首を掛ける小倉。この調子だと、俺もあいつらに巻き込まれてこいつの死後一生恨まれ続けるのだろう。


ロープを全て首に入れ終わり、少女の白くてシミ一つない綺麗な肌をロープの縄が締め付ける。

その状態から台を下に足で蹴飛ばす等して退かせば、後は重力の関係で勝手に首がしまって窒息死する筈だが、彼女は後一歩といったところで動きを止めた。



「……どうした?」


動きを止めた彼女を訝しむように質問すると、彼女はさっきまで隠していたのか、膨らませた風船を割ったかのように、大声を出して心の中にある物を吐き出した。


「……怖いのよ。怖いの。私は死ぬのが怖いのよ。本当は死にたくない。でも、これをするくらいしか私はあいつらに仕返しをすることが出来なくて……」

「………」



どう声を掛ければいいのだろうか。

生憎俺は5歳の頃から他人とは距離を取って生きてきたので、男含めて女子の友達などおらず、こうしたときどうすればいいのか分からない。


もういっそのこと、死ぬのが怖くて死ねないと言っているのだから俺が台を無理矢理蹴飛ばして、死なせてあげればいいのだろうか。

でも、俺としては俺が干渉することによって他者を殺すというのはしたくない。



どうすればいいのか分からなかった俺は、とりあえず引き延ばすことを提案してみた。面倒なことは、後の俺に任せるという奴である。



「……まだ怖くて死ねないというのなら、今日はまだ別に死ななくてもいいんじゃないか。」

「……え?」

「死ぬのなんて今日じゃなくてもいいし、別に明日でも明々後日でも出来るだろ。死ぬのは人生において一回だし、ちゃんと覚悟が決まってからするのはどうだ?」



我ながら適当なことを言ってみたものだが、どうやら納得したらしい。

真っ白な腕を曲げ可愛らしい小柄な首を傾げて考えた後、ロープから首を外してお嬢様のように優美で気品を感じさせるような振る舞いでスカートの裾を抑えながら下りた。



「……貴方の言う通り、今日死ぬのは止めておきます。ところで、貴方の名前は?」

「貴方って呼んでたのは俺の名前が分からなかったからか。俺の名前は佐田哲斗だ。目立ちたくないから教室では、絶対に俺の名前を呼ぶなよ。」

「……善処しますわ。」

「……絶対に呼ぶやつだろそれ。」



俺は名前を小倉に教えたことを後悔した後、一緒に屋上を後にした。












その日からだ。


小倉は俺の言ったこと真に受けたように、ログインボーナスの如く毎日屋上に訪れては台に乗り、首にロープを掛けては恐怖を感じて自殺するのを諦めるというのを繰り返した。

その度に、俺は小倉が屋上に行くのに付いていったのだが、別に小倉が好きとかそういうのではない。ただ、人が自ら死ぬ瞬間この目で確かめてみたかったからである。




「今日は女子トイレの中で二十発くらいお腹を殴られて、三十回くらい蹴られた後に、排泄の後の洗ってない手を無理矢理口に数人に突っ込まれたわ。あいつらが居なくなった後、直ぐにうがいで口の中から外に出したけど、気持ち悪かったわ。」

「……本当に腐ってるな。」

「そうね。本当、あんな奴等地獄に落ちればいいのに。」



毎日のように小倉と屋上に来ているせいか、 俺と小倉は屋上で話すようになった。別に青春を感じさせるような甘い会話ではない。むしろ話の内容は、小倉が毎日受けている虐めに関してで内容としては最悪だ。


俺が話題を持っているわけがないし、そんなコミュニケーション能力を持っている訳がないからこのような会話に自然となってしまうと思うのだが、最近の彼女は何処かおかしいように感じる。


口では彼女を虐める女子達を悪く言っているのに、初日に感じた嫌悪感や悪意というのはあまり感じられない。それに、最近の彼女は屋上に来たもののロープは掛けないおろか、台にすら乗らないことが多くなっていてまるで俺と話をする為だけに来ているような感じなのである。

……流石に俺の考えすぎなのだろうか。



「……ねぇねぇ。ちょっといい?」

「ん? どうした?」

「哲斗は私が自殺したら、喜んでくれる?」

「……答えは何とも言えないだな。人が自ら死ぬところが見たいということもあるが、最近になって小倉が死んで欲しくないと思う俺もいる。」

「どうして?」

「お前に愛着が湧いたからだよ。お前は少し口調があれだが、十分可愛いし俺の話相手になってくれるし、性格も悪くないからあんな奴等の虐めのせいで死んで欲しくないと思ったんだよ。」

「……ありがとう。」


俺が素直に言葉を伝えると彼女はほんのり頬を紅くして、軽くそっぽを向く。

照れ隠しだろうが、こう見るととても虐められて自殺をしようとした少女には思えない。年相応の可愛いらしい少女だ。




彼女が照れて話掛けて来なくなったので会話が途切れ、お互いの間に沈黙が続く。

沈黙が続くと大抵の奴とは気まずくなってしまうが、彼女との沈黙はそこまで居づらいと思わなかった。彼女の雰囲気が落ち着いているからだろうか。




ゆっくりと悠々に青を漂う雲を眺めていると、視界の外から不意を狙うように大きく獰猛な翼を広げた鷹が入ってくる。

両翼を合わせたら1メートル超えるであろう翼に、天空の覇者とでもいうような鋭器のように鋭い目。


鷹は動物園以外では片手に数える程しか見たことがなく、かなり久し振りに見た。


自由に曲線を描いて大空を駆ける鷹を見ると、やはり動物園何かで小さな檻に閉じ込められているよりも、自由に自然の中を生きている方が美しく感じる。人類史から見ればほんの最近までは自然と共に生活をしていたので、そう感じるのは人類の性なのだろうか。






自由に大空を駆けるという方でいけば、俺もこいつとのこうした関係は終わらせてしまった方がいいのだろうか疑問に思う。



今でも俺は、あそこで引き延ばしてしまったからこいつは自殺をすることが出来なくてしまったのだと自分の選択に後悔を感じてしまうことがある。


別に自殺を肯定する訳ではないが、俺があそこで無理矢理にでも台を蹴飛ばしておけば、こいつは現実から死後という世界に飛び立つことが出来ただろう。現実が改善していれば別に文句は言わないし俺の選択が正しかったと言えるのだろうが、未だに改善していない。動物で例えるなら、こいつは外へ出ることを諦めて檻の中で生活することを容認した自由を捨てた鳥だ。そして、そうした方がいいと勝手に自分の価値観から押し付けるように教えた飼育係がこの俺だ。こいつの様子だと、自殺はするように見えないしな。





その事実にこいつは気付いていない。

拒絶でもしてくれた方が楽なのだが、そういう素振りは全く見られないししてこないように思える。


心底こいつは甘い奴だと思う。

社会ではずる賢くて性格の悪い奴が得をするというが、本当にその通りだ。性格がいい奴程損をするのだから、こうした社会の仕組みは根本がそもそも問題になっているのだろう。



「あれ~? もしかして、彼氏君と二人でデート? ごめんなさいね彼氏君。ちょっと小倉あんこに用があるから、あんこちゃん借りていっていい?」



屋上にやってきた虐めっ子の内の一人の、名前は忘れたがギャルみたいな女。

両耳に付いている金色のキラキラと装飾品の多く付いたピアスに、限界まで捲られたスカート、そして濃いメイクが施された顔。

スカートの裾を規定よりも短くして太ももを見せつけ、顔のいい奴や頭のいい男達にボディタッチを積極的に仕掛けたりと、比喩表現なしに行動から見た目までギャルみたいな女だ。


俺は別に彼氏じゃないし、俺にはこいつとそもそも付き合えるだけの価値がない。勝手に彼氏呼ばわりされたことに少し腹立ちを感じたが、意外にも小倉は気を悪くしたようには見えなかった。


どうするのかと小倉に目を向けると、行きたくないと目で訴えられる。

美少女の上目遣いのせいなのか、それとも俺がこいつに愛着を湧いたからか、珍しく人の為に俺は口を動かしていた。



「……実は小倉の体調が悪くてな。俺は彼氏じゃないが側にいていたんだ。こいつは体調が悪くてあまり動けないようだから、すまないが用を後にしてくれ。」

「何それー? 面白い冗談だね。小倉なんてどうせ仮病だから、心配しなくて大丈夫だよ。だから、早く小倉を貸して。」

「………」



酷い女だ。

仮病と決めつけたのもそうだが、やはり小倉をほんの少しも気に掛けてないのだろう。イケメンな男か自己保身しか考えられない屑といったところか。


満面の笑みを浮かべながらも、早く渡せと笑っていない目で伝えてくるギャル。俺が爽やかなイケメンだったら潔く手を引いてくれるのだろうが、髪がボサボサで似合わない眼鏡を付けた根倉な俺だからな。



面倒な事には突っ込まないと決めていた俺だが、気づけば口を開いていた。



「見逃してくれないか? まぁ、見逃してくれなかったらくれなかったでお前らがしている小倉に対しての虐め行為を全校生徒に広めて、お前らを強制退学してやってもいいが。小倉は本当に体調が悪いんだ。さっさとお前は帰れ。」

「なっ!? な、なんでお前がそれを知っている!? だけど、どうせ根倉のキモい冴えなそうなお前が証拠なんて持ってる訳ないだろ。バーカ。私を脅すなら、証拠を集めてから言うんだな。」

「……現在進行形で俺の発言含めてお前の発言は記録してるし、お前達がした虐め行為も一部スマホで録画してる。潔く手を引いてくれれば言わないで置いてやってもよかったが、学校側に全ての録画映像を提出してやるよ。明日からはお前らが虐めの対象になるだろうな。」

「け、消せ。その全ての記録を今すぐに。」



前者は俺がついたハッタリだが、後者は本当だ。

小倉が毎回報告してくる虐めの内容を日付ごとにノートに記録しているし、女子トイレなどの俺が入れないような場所で虐めが行わなれなければ、それ以外の場所での虐めは時々撮影している。何度も撮影しているが、抜けているのか一度もこいつらは気付くことがなかった。



助けてやらずにただ記録している俺は、自分でも精神がひねくれていると自覚していたが、まさか役に立つ時がくるとは。



いつもの男を誘うような淫らな様子とは違い、親でも殺されたような目で焦ったように迫ってくるギャルの拳を俺は避けずに顔面に受ける。

ギャルは俺に拳が当たったことに目を一瞬大きく開くと、舐めきったような声でこちらを脅してきた。



「どうだ? 痛いだろ? これ以上痛めつけられたくなかったら、さっさと録画した記録を消すんだな。」

「……」

「ふざけたやろうが。もっとぼこぼこにしてやるよ。」



再度俺の顔を殴り始める目の前のギャル。体型はそこそこ肉付きがいいので多少のパワーはあるが、技術がないのでそこまで痛みはない。

少し痛いが、これで俺が殴られた証拠となるだろう。


証拠を得るために後五発くらい殴られたら殴られ続けるのも癪なので抵抗してやろうと思ったところ、抵抗する前に小倉が止めに入った。



「止めて下さい。今まで通り私のことは虐めていいので、哲斗君のことは虐めないで下さい。」

「は? なに、お前が勝手に喋ってるんだよ。お前何かに喋る権利なんてなーー」


小倉が両手を広げて、俺とギャルの間に壁になるように立つ。細く弱々しい足や腕が震えていないのは、いつもギャルを含めた数人に虐められているからだろうか。




小倉の突発的な行動が理解出来ない。

確かに俺は小倉と話すようになったはずだが、虐められている様子を見ても助けなかったり、虐められているからといって何も感じない奴である。


そんな奴にどうして身を張って助けようとするんだ?




目の前のギャルが次の言葉を言おうとした瞬間、気付けば俺はギャルの顔の前に拳を突き出していた。



5歳の頃家族四人と一緒に近くの公園に花見をしに行った帰り、警戒心なしに道端を歩いているケースを持った婆さんが大変そうにしていたので助けようとした結果、ケース内に大量に組み込まれた爆弾が爆発して、婆さんもろとも俺以外の家族三人が体ごと吹き飛んでしまった思い出したくない事件。


事件の後に気付いた話だが、道端を歩いていたお婆さんは爆弾魔だったらしく指名手配をされていて、同時多発テロのようなテロ組織の一人だったらしい。

どうやら計画によると、駅で爆弾を爆発させて沢山の人を巻き込んで自爆しようと考えていたらしいが、婆さんは俺が爆弾に気付いたことを恐れて、そのまま俺達を巻き添えに自爆したと推測が立てられていた。



その頃の俺はもう何が何だか分からずとにかく狂ってしまった。

善の気持ちで人助けをしようとした結果、家族が全員爆弾に巻き込まれて、俺だけ何故か生き残ってしまったのだから。俺も正直一緒に死にたかったが、体のあちこちの骨を複雑骨折するといった形で瀕死の状態で取り残されてしまった。



自殺しようと考えたが、それでも俺は怖くてそれが出来なかった。自分が原因で家族を殺してしまったのに、死が怖くて実行出来ない俺は惨めな存在だろう。実行しようとした時点で、小倉は俺からすれば尊敬出来る。

そして俺は母さんや父さんの親戚や友人から好き放題暴力を受けた挙げ句「どうしてお前が生き残ったんだ」というように、5歳に対してはあまりにも酷すぎる罵倒を何回もされた。


お前何かに喋る権利なんてない。

確か、俺がその時に言われた言葉の内の一つだ。


面倒ごとに首は突っ込まないと決めていた俺が、どうして小倉の虐めに対して首を突っ込んだのか分かった気がした。



「女に暴力を振るうなんて最低な男…逆にあんたのことを私が追放してやる。」

「追放出来るものならしてみろ。まぁ俺の場合はお前の顔面に当たる直前で拳を止めたが、お前は何度も俺の顔を殴ったがな。」



そう俺は目の前のギャルに吐き捨てると、小倉を抱えて屋上から出る。後ろからギャルが追ってくるが、小倉を抱えた俺の方が少し速い。

彼奴とこれ以上話をするのが嫌だった為、所謂お姫様抱っこという奴をしてしまったが、小倉に許可を取らずにやってしまったが大丈夫だろうか。


俺の腕の中で横たわる可憐な少女を見ると、俺の胸に恥ずかしいのか顔を隠すように押し付けていた。










あれから数日。

あの後虐めに関する動画や記録を纏めて学校と教育委員会に提出し、ネットの各々の掲示板などに虐めに関しての動画や記録などの貼り付けを行うと、テレビ局が嗅ぎ付け大問題となり、虐めに関してのニュースが各家庭にテレビを通して届けられた。

小倉を虐めた奴等は全員が全員退学。一気に学年から十数人の女子が名簿から消え去った。そして学校の校長や俺のクラスの担任が、気付けなかったことや助けられなかった責任で辞任をしたり、電話などで毎日数百人の人が学校に虐めの件で訪ねてくるなど、学校側は大忙しとなった。



そして、当の本人達は学校のことなど対岸の火事といった様子で、のびのびと過ごしていた。



「ねぇねぇ。哲斗君は虐めが無くなった今でも、私の話を聞いてくれる?」

「……どうしてだ?」

「う~ん。哲斗君しか信用が出来ないからかしら。哲斗君は最初に私の話を聞いてくれたりその後助けてくれたけど、他の男達や虐めに参加してない女子はテレビで報道されてから心配してきただけで正直頼りないし信用出来ないからかしら。両親も、テレビで報道されて気付いてから沢山心配してきたけど、そもそも私が虐められる原因は両親が私を美人に産んだからだし、結局助けてくれたのは哲斗君だけだからかしらね。……もしかしたら私は、哲斗君に依存しちゃってるのかもしれないわね。哲斗君以外と話をするのなんて考えられないわ。あの時お姫様抱っこをされて以来、哲斗君以外考えられないの。」


黒色の絵の具のチューブを薄めたりせずそのままの色で描いたような漆黒な目で見つめてくる小倉。

恐らく、小倉の言う通り俺は小倉を依存させてしまったのだろう。

こいつが虐められているというのに楽しそうに俺と話をしていたのは、虐められることで俺との間に話題が出来たからではないだろうか。



俺がここでこいつのことを拒絶すれば、恐怖から実行出来なかった自殺を小倉は簡単にやってのける気がする。俺以外何もかも否定するような光の無い目を見ると、そう確信することが出来るのだ。






もしかしたら、屋上で一番初めに話を持ち掛けた瞬間から俺はもう詰んでいたのかもしれない。

こいつに愛着を一度持ってしまった俺は、拒絶なんて出来ないだろう。


やはり面倒ごとには関わるべきでないと改めて確信した時には、もう既に遅かった。

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