身代わり姫と宝石の騎士
宿理漣緒
血のブルート
この大陸には昔、魔女や魔法使いと呼ばれる古代民がいた。
高い知能を有し争いを好まない、そんな優れた者だったという。
だが、歴史の常というものだろうか。原住民である彼らは、外の大陸から来た諸王国に侵略され、命を、技術を、文化を、すべてを奪われた。
あっという間だった。優しい気質が災いしたのだろう、当時に思いをはせる度に人間の愚かさを嘆きたくなる。
優しい彼らから何もかもを奪いつくしたその諸王国も後に、婚姻を利用して肥大化する帝国に奪われる側になり併合吸収され、残るはラピス王国ただ一つ。
そんな時だっただろうか、帝国で内乱が起き、わが祖ブルートが独立したのは。
帝国を打ち負かし広大な領土の半分を獲得し、初期のころはブルート王国としてその名を轟かせた。
大きな戦力であった武門ブルート公を失い、帝国の勢いはたちまちしぼみ、ラピス王国は命拾い。
だが栄華は長くは続かず、ブルート王国は王位継承の内乱で直系ブルート公、次男ゴーネル公の二派にわかれ殺し合いを始めた。
ゴーネル派はラピスと手を組み、ブルート派はついに最後の砦である都まで追い詰められた。
ブルート派は絶望、ゴーネル派とラピスは勝利を確信したその時
奇跡が起きた。
進軍するゴーネル派とラピス軍の前に一人の少女が立ちはだかった。
彼女は3つの神器を用いてその体から神々しい虹色の光を放ち、不思議の力で向かい来る敵を打ち滅ぼした。
ブルート公の直轄の領地には、原生林が生い茂る最後の秘境【カレンドゥラ山脈】も含まれていた。人目につかないその場所でひっそりと古代民が生きていたのだ。
迫害も虐殺も行わなかった代々のブルート公に感謝し、その偉大なる魔女はブルートを守った。
彼女は偉大なる三大魔女が一人。命の魔女、ジーヌ・ダチュラ。
我が国の英雄だ。
戦後、彼女はゴーネルに捕らえられラピス国で殺されてしまうのだが…カレンドゥラ山脈に戻ったブルート公は、内乱最後の戦いで大勝を収める。
カレンドゥラの戦い。
ブルート軍死者0名。
連合国軍死者、一万五千。
地の利を生かし奇策を連発。
手つかずの自然が要塞となって連合軍の進行を阻み、厳しい山の気候も相まって、かすり傷一つつけられず成すすべなく撤退。
この時より最強の国、ブルート公国が誕生した。
カレンドゥラの歴史的勝利、そして後に始めた傭兵業からいつしか、血でできた国、血のブルートと呼ばれるようになった。
「さてと、歴史に浸るのはほどほどにして……結論を出さないとね」
私は目の前の書類に向かい合い、白鳥の羽ペンでサインを記した。
「守るためなら奪ってもいいのか?君を自由にするためなら奪ってもいいのか?」
極秘指令
ラピス王国サンティエ家 末子 キャンディッド・ロワ・サンティエ
暗殺を許可する。
ルチル・ブルート
「私は何度考えてもこの答えしか出せなかったよ……いわくつきのお姫様に、いわくつきの現王朝……私との約束、どうする?エメラダ」
彼のコードネームを口にするが、紅い月の晩にはその名ではないほうが似つかわしく思えて
「いや、エスティー。エスティー・ポードレッタ」
捨てさせたはずの、薄紅の石を抱いた名を一人口にした。
けれどそうか、私のあげた名も君はもうすぐ捨てるのか。
「私は、残酷だったのだろうか」
あの子に出会ってもう9年……悩みは尽きることがない。
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