第23話 信康の処分

それに、家康には長松丸も生まれていた。彼らにとって、敵国駿河で生まれ育った信康より三男長松丸のほうが身近であった。忠次は必死になって三河衆を説得し、変心させることに成功した。その間、家康は浜松にいてこの事件の真偽を調べていた。彼は不覚にもこの事件が起こるまで全く感知できず、全容を把握できていなかった。彼は、当時平岩親吉を切腹させれば事件は終わるだろうと考えていた。

しかし事件の全貌が分かり、事態が深刻だとわかった時にはもう遅く自分の力では収拾することができなくなっていた。すでに、三河衆の結束は固まっていた。しかも、彼らの後ろには信長がついていた。家康が一ヶ月後に岡崎にきた時にはもはや信康を助けることが難しくなっていた。

それでも家康は、三河武士の一人一人に会って話をした。家康は八月十二日まで岡崎城で三河衆とじっくり話し合い、最後に酒井忠次と話し合いの場をもち本音を忠次に話した。

「わしはなんとしても信康を助けたい。力を貸してくれないか」

「大殿のお気持ちは痛いほどわかります。私も若君をなんとしてもお助けしたいのです。しかし信長めは将来の禍根を残さぬよう信康殿に切腹させるよう私に命じました。信長の命令に背くことは徳川家の方向や存続に関わる大切な決断となります。私は大殿の決断に従います」

実は、忠次は嘘をついていた。信長は、徳川の跡取りが信康でなければよいのであって殺せとまではいっていなかった。しかし、もはや信康を生かしておいては自分の将来に禍根を残すことになる。忠次は、三河衆を味方にして信康の処分をせまった。

家康は、三河衆に背かれては何もできないことはわかっていた。

それでも家康は、決断できないでいた。その間、家康は信康の身柄を次々と移動させていた。

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