勇者が魔王を倒す世界で、生物の始祖たちが殺し合いを始めるらしい。
@guruguru99
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デール山脈のとある洞窟に彼らはいた。
季節は冬、誰も寄り付かないような極寒の山脈に彼らが訪れたのは他でもない、新たな魔王の復活の為であった。3年前に前の魔王は勇者と相打ちになって滅んだ。そして昨年、新たに勇者が生まれた。彼はまだ幼く、彼ら、邪教徒にとっては今が魔王が世界の全てを破壊する絶好のチャンスだったのだ。彼らは必死に探した。未だ他の魔王が封印されている祠を、そしてたったの1年で見事見つけ出して見せたのだった。奇跡と言える。しかしまだ幸運は続く。
「それでは始めるぞ。」
洞窟の最奥に位置する祠で司祭ザーザの声が響く。その声を聞いた邪教徒達は次々と、寒さで傷付いた両手を祠へと掲げた。そしてザーザの唱えた呪文に共鳴するように魔力を放出していった。そしてザーザは気付く新たな魔王の反応に。
「っ!?な、なんという魔力!先代の10倍、いや20倍はある!!」
これまでに計3体の魔王を復活したことのあるザーザだがこれ程に凄まじい魔力を感じたのは始めてであった。その絶大な力を感じ取った他の邪教徒達も次々の感嘆の声を上げた。その場にいる多くの者が確信した。今回はイケる。今回の魔王であれば、自分達がこれまでに何度も恨んで来たこの世界を破壊してくれると。今とは違う新たな世界が見られると。魔王の魔力はどんどんと大きくなっていく。かつて無い程に絶大な魔力に当てられた邪教徒達は少しずつ肉体が変化していった。しっぽや募らが生える者、肌の色が変色する者。その変化は人それぞれであったが全てにおいて、今まさに復活を遂げようとしているこの禍々しき生物の持つ力の程を証明していた。
「……っ来るぞ!」
ザーザのその言葉と共に祠は山脈の一部諸々吹き飛んだ。
今こうして史上最強の魔王が数万年の時を越えて復活を遂げた。だがその強すぎる力が、やっと薄らぎつつあった奴らの数千億年の眠りを解いた。そして奴らの一部は即座に自力で封印を
解いた。
サクメン王国マルチア領のウィンチ伯爵家ではずっと寝たきりの赤子がいた。
その赤子は産まれた時から特殊であった。一度も泣いた事が無い、つまり産声を持たずに産まれたのだ。そしてその身体は自ら動く事はなかった。ただただ静かな赤子だった。静か過ぎた。そんな状態のまま生後6ヶ月がたった。首を固定したまま無理矢理乳を飲ませ、何とか一命は取り止めてはいたが、彼の両親は心から彼の行く末を心配していた。彼の父は、7人の妻を持ち、すでに8人の子宝を持っていたが、全ての妻子を平等に愛していた。彼もまたその愛の例外ではなかった。彼の母にとっては始めての子供であった。始めての宝であった。しかしそんな二人の心配も虚しく、彼が動く気配は一向に無かった。
だが、とある暴風雨の夜。奇跡が起こった。ウィンチ伯爵家の次女とその家のメイドが夜な夜な聞き慣れない泣き声に目を醒まし、声の出所を確認したところ、彼が手足をバタつかせながら泣いていたのだ。彼は驚愕する女性陣を瞳に写すとすぐに泣き止み、満天の笑みで笑って見せた。
デール山脈爆発の直後、つまり新魔王復活の直後。同じくサクメン王国マルチア領で一つの出来事が起こった。
その夜マルチア領は毎年恒例の暴風雨に見舞われていた。ウィンチ伯爵家の奇跡と同時刻、とある貧しい男爵家に一人の赤子が誕生した。たがそれは悲劇であった。赤子の名はノーシュ。彼は多くの者が見守る中で産まれた。父が、使用人達が見守る中で産まれた。母の悲鳴と共に、彼女の腹を内側から引き裂いて。
彼は産まれると共に人を1人殺めた。
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