元カノとの同棲を解消したのでルームシェア相手を募ったところ、ワケありイケメン(王子様系女子)と住むことになった件について
第19話 都会の小学校の運動会は徒競走がコーナーの途中からスタートするってマジですか?自分、田舎生まれなので真っ直ぐなコースしか走ったことないもんで
第19話 都会の小学校の運動会は徒競走がコーナーの途中からスタートするってマジですか?自分、田舎生まれなので真っ直ぐなコースしか走ったことないもんで
「待ってくれよ真琴!」
僕が真琴を追いかけようとしたときには、既に彼女の姿は見えなくなってしまった。
やってしまった。
ただでさえ不安な気持ちを抱えていたであろう真琴に決定的な追い打ちをしてしまったのだ。
仮に千咲とのこの一件が偶然の産物だと理解してくれたとしても、僕と真琴の間に入ったヒビ割れのようなものは消えることはないだろう。
駄目元でもここは真琴を追いかけるしかない。
ここで何もしないくらいなら、せめて真琴にもう一度会って、罵声でも平手打ちでも浴びた方が一億倍マシなのだ。
とにかく早く外に出ようと急いでいる僕へ、冷静になるようにと千咲が声をかけてきた。
「待って祐太郎、真琴がどこに行ったかアテはついているの?」
「……いや、正直なところ全然」
千咲はため息をひとつつく。
仕方がないじゃないか、真琴の交友関係に関してあまり知らないんだから。
とりあえず僕は劇団の稽古場に行けばなんとかなるだろうと高を括っていた。
「……真琴なら多分、脚本担当の子の家よ」
「どうしてわかるんだよ」
「これを見ればすぐにわかるわ」
そう言って千咲が取り出したのは自身のスマートフォン。その画面には位置情報の共有アプリが映し出されている。
「ここ、真琴が最近よく通ってるのよね」
「えっ……、そんな位置情報共有アプリで真琴の現在地を把握しているとか、もしかして千咲も真琴のストーカーなのか?」
「違うわよ!今どき友達同士で位置情報共有することぐらいよくあることなの!」
「そ、そうなんだ……」
アプリで居場所まで共有されてしまうのは僕だったら嫌だなーとは思いつつ、それを真琴が使って予め千咲の現在位置を把握してくれていれば鉢合わせになることもなかったのではないかと思った。けれども、口に出すのはやめておこう。怖いから。
「とりあえずそこに向かうよ、ありがとう千咲」
「どういたしまして。……ちゃんと真琴に伝えること伝えないとダメだからね?」
「わかってる、ちゃんと伝えるよ」
すると千咲は僕に聞こえるか聞こえないかギリギリの声で何か言葉を漏らした。
「……私のことは全然わかってくれないくせに」
「ん?千咲、何か言った?」
「言ってない!いいから早く行って来なさいよ!」
千咲は何事もなかったかのように僕を急かす。そんな彼女をよそに、僕は手持ちの靴の中で一番速く走れそうなものを選んで履いた。こういうのは地面とのグリップ感が大事、コーナーで差をつけろ。
扉を開けて外へと駆け出す。まるで雪の日に飼い犬が庭へ出ていくように、俊敏に動くことができている。身体の調子がいい。
千咲に教えてもらった位置情報を頼りに真琴を追いかける。場所はそれほど遠くはない、走れば10分程度だろうか。
さすがに真琴ほどのスピードもスタミナも僕には備わっていないけれども、とにかく今出せる全力の推力で脚を進める。
目的地まであと少しというところまで来た。次の角を曲がれば真琴がいるであろうマンションが見える。
勢いよく角を曲がろうとしたところで、僕はどこかで見たことがある人影に行く手を阻まれた。
「おおっと!?……き、君は、……藤井さん?」
そこに立っていたのはかつての真琴の追っかけ、もといストーカーの藤井ユイカだった。
なぜか彼女は僕が来るのを待っていたかのようにそこに立っていたのだ。
「これはこれは祐太郎さん、こんばんは。……もしかして、真琴先輩をお探しですか?」
「そ、そうだけど、……藤井さん、真琴の居場所を知っているのかい?」
「ええ、もちろんですとも。なんて言ったって真琴先輩は私の推しの一人ですから」
独特のぶりっ子のようなドジっ子のようなゆるいトーンでユイカはそう答える。
真琴の詳しい居場所を知っているならば渡りに船だ。手当たり次第にマンションのインターホンを押すという恐ろしく気が遠くなることをしなくても済む。
「ならちょうどいい、真琴は今どこにいるんだ?教えてく――」
「今の真琴先輩に祐太郎さんを会わせるわけにはいきません」
急にユイカの声色が変わった。冷たく死の宣告をする処刑人のような、彼女らしくない淡々とした低い声だ。
「真琴先輩は私の部屋にいます。でも、今の祐太郎さんを先輩に会わせたくないんです。……多分、会っても上手くいかないでしょう」
「どうしてだよ!なんでそんな事が言えるんだよ!何も知らないくせに!」
「お二人の方がお互いのことを何も知らないように思えますけれど?」
僕は痛いところを突かれてしまい言葉が出なくなった。
ユイカの言うとおりだ。
僕は真琴にまだ伝えきれていない事がたくさんある。そして多分、真琴だって僕に伝えたい事が山ほどあるに違いない。
「……あら?カマを掛けて言ったつもりだったんですが図星でした?……ごめんなさいごめんなさい、祐太郎さんを傷つける気持ちはなかったんですよ?」
落ち込んでいた僕を見て、ユイカは急に態度を変える。
一体彼女は何を企んでいるんだ?
「いやー、私個人的にお二人に仲直りしてもらうプランを考えていたんですけど、そのためには今祐太郎さんと真琴先輩を会わせるわけにはいかなくてですね……」
「仲直りさせるプラン……?何なんだよそれ……」
「ふっふっふ、それは内緒です。とりあえず今日のところはお引き取りください。改めて3日後の午後、この紙に書いてある場所に来てください」
ユイカは何かが記された紙切れを僕へと渡す。
そこには市民ホールの場所が記されていた。
「……なんで市民ホール?」
「そんなことも察しがつかないんですか?……やっぱりお二人は言葉を交わさな過ぎです。心拍レベルで気が合うとしても、人間なんですからちゃんと会話をしないとどんどんズレていっちゃうんですから。もっとちゃんとしてください!」
「……ごもっともです」
真琴を追いかけるはずだったのに、なぜかユイカに説教をされる始末。しかもきちんと的を射ているおかげで、全くもって言い返すことができないやられっぷりである。なんとも情けない。
「まあ、そんなに落ち込まないでください。私のプランどおりに事が運べばきっと仲直りできますから」
「……百歩譲って理解することにしたよ。でも、なんで藤井さんは僕らのためにそんなことをしてくれるんだ?」
今更そんなことを聞くなと言わんばかりのため息をユイカがつくと、今日一番のにっこり顔になって彼女は言う。
「それはですねぇ、私の推しと推しが永遠に結ばれて欲しいからです」
好きとか尊いという気持ちがここまでくると、たとえエゴであっても人を救うのかもなと僕は思った。
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