元カノとの同棲を解消したのでルームシェア相手を募ったところ、ワケありイケメン(王子様系女子)と住むことになった件について

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第1話 部屋が広くて困ってます、一緒に住みませんか?

「――それじゃあ、さようなら」


 そう言って彼女は部屋を出ていった。


 2LDKのだだっ広い間取りには僕ひとりが取り残されている。頭の中は彼女との別れのことよりも、これからこの広くなった部屋をどうしようかとか、家賃の負担が増えてしまうなとか、そんな事を考えていた。


 ◆


 僕、五十嵐いがらし祐太郎ゆうたろうはとある学生街の2LDKに彼女と一緒に暮らしていた大学2年生。たった今その彼女との同棲を解消して一人ぼっちになったところだ。

 破局の理由は二人の間にすれ違いが増えたというありがちなもの。別れるべくして別れたようなものなので、別に心苦しさとか未練みたいなものがそんなに無かったのが救いだろうか。


 しかしながら持て余した広い部屋というのは何故か心をえぐってくる。生活の跡が垣間見えるフローリングの床とか、物が無いせいでよく響く声とか、ただでさえ寂しい一人暮らしに拍車をかけてきている。

 金銭的にも馬鹿にならない。今まで元カノと折半してきた家賃もこれからは僕が全額負担だ。仕送りを貰ってバイトまでしているけれども、流石に一介の大学生には2LDKの家賃負担というのは重い。


 そうとなると取るべき行動は二つ。一つは手頃なワンルームに引っ越すこと。もう一つはこの部屋にルームシェアで住んでもいいという住人を探すことだ。

 僕が取った手段は後者だった。引越しをするとなると物件を探したり、お役所手続きをこなしたり、生活インフラを契約し直したりと面倒事が増える。それに引越しの費用だって安くはない。ルームシェア相手を募ることのほうが断然労力が少なくて済む。


 そういう訳でインターネットのルームシェア相手募集掲示板なるものに早速書き込みを投稿した。すると釣り堀の鯉でもそんなに早くは反応しないだろうという入れ食いっぷりで、とある希望者から返事があった。

 膳は急げだ。早速その希望者と連絡をとって実際に会って見ることにした。


 自宅近所にあるファミレスのボックス席でルームシェア希望者と待ち合わせていると、そこに現れたのはスラッとした『イケメン』だった。


「初めまして、高津たかつ真琴まことです。ええと、五十嵐さん……、ですか?」

「は、はい!そうです!」

「ああ良かった……、こういう感じでネット経由で人と会うのは初めてなので緊張しちゃって。――席、座ってもいいですか?」

「どうぞどうぞ」


 真琴はまるで役者さんのような二枚目で、背は僕と同じくらいかちょっと下で170センチはあるだろうか。声は男にしては高め、ウルフカットの黒髪と切れ長の目が美しくて、どこか中性的な雰囲気のある不思議な人だ。聞くに、僕と同じ大学に通う2年生なんだとか。


「――というわけで、家賃と光熱費、水道代やネット代なんかは折半です。2LDKのうちお互いひと部屋ずつ使うという感じで、風呂、トイレ、リビング、キッチンは共用です」


 僕は二人分のドリンクバーを注文し、お互いに飲み物を手元に持ってきてから予め用意してきた確認事項を真琴へ説明した。赤の他人と同じ部屋に住むわけなので、こういった事前の確認は物凄く大事だ。


「なるほどなるほど、場所はこの近くで?」

「ええ、大学も駅も近いし結構便利ですよ。あと、男二人には蛇足かもしれないですけどオートロックとインターホンもちゃんとついてます」

「結構色々と充実していてありがたいですね。それでも家賃がこの値段で済むなんて願ったり叶ったりです」


 ホットコーヒーをすすっていた真琴の表情が少し明るくなった。ルームシェアをすることで他人と住むことにはなるけれども、物件のクオリティというのは大概の場合一人暮らしをするより上がる。察するに真琴は今まであまりいい部屋に住めていなかったのかもしれない。


「こんなこと聞くのもあれなんですけど、やっぱりルームシェアのきっかけって金欠ですか?」

「そ、そうですね。自分、演劇をやっているものであまりお金が無くて……。ちょっと街外れの遠い所に住んでいたので大学とか駅が近いのは魅力かなーって」


 若干真琴の声色が変わった気がしたけれども、まあ引越しの理由としては妥当なのであまり気にしないでおくことにした。

 それにしても真琴が演劇をやっているというのが腑に落ち過ぎて仕方がない。その美貌はもちろんだし、喋りもハキハキ、立ち振る舞いもキリっとしていて最早役者になるために産まれて来たようにしか見えないのだ。大学の演劇サークルとはいえ、それなりにファンも沢山いるに違いない。


「それじゃあ説明は以上です。――と言っても、『百聞は一見にしかず』でしょうから、これから部屋をお見せしますよ」

「本当ですか!助かります!」


 ドリンクバー二人分というお店側がいやがりそうな会計を済ませて外へ出ると、そこから歩いて数分の僕の部屋へ真琴を案内した。


 おそらく部屋を見る前に真琴の心は決まっていたのだろうけれども、改めて現場を確認してより彼の決心が固まったみたいだ。


「――決めました。ボク、ここに住みます」


 これが、僕と真琴の不思議な共同生活の始まりだった。


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