第7話 妹達の入学式


 ここに来てもう三年か。

 実家を出て、王都の魔法学園に来て、魔法と戦闘を学ぶ日々。


 この世界は魔物や魔王といったお伽話みたいな存在がいて、他の種族に害を与えている。

 そんな脅威から、妹達を守るために強くなった。


「シスハーレさん! こちらにいらっしゃいましたか!」


 声をする方をみると、ナヨナヨな男子がこちらに近づいてくる。

 彼の名はマイン。俺が入学した頃からの付き合いで、男爵家の子だ。


 ちなみにシスハーレとはうちの実家の家名だ。故に俺が呼ばれたわけだ。


「どうしたんだマイン。そんなに慌てて」


「探しましたよ! もう入学式が始まっちゃいますよ!?」


 そう今日は小学級の子達の入学式だ。

 魔法学園には8歳になったら入学することができ、将来魔術師を目指す平民や貴族の子が入学する。

 小学級、中学級、高学級とエレベーター式になっており、それぞれ3年間で計9年、魔法について学ぶことができる。


 俺は現在12歳目前で、中学級に通っている。


「あぁ、わかっているよ」


「今日は妹さん達が入学してくるんですよね! 3ヶ月前からソワソワしてるじゃないですか」


 そうなのだ。今日はなんと、愛しの妹達が入学してくる。

 その旨は両親からの手紙で知った。


 ちなみに妹達に会うのは3年ぶり。

 一段と可愛くなっているんだろうなぁぁぁぁぁ


「早く向かわないと、妹さん達の晴れ姿を見逃してしまいますよ!」


 それは絶対にいかん!! 早く教えてくれよ!


———————————————————————



「それでは次に、小学級首席の宣誓を行います。首席、キュウカ・シスハーレ」


「はい」


 俺は現在、入学式が行われている武道館の2階席にいる。

 入学式を行う生徒以外は基本自由参加で、2階席から入学式の様子を見ることができた。

 それ以外の生徒は休日となっている。


 それにしても首席は九女のキュウカか。まぁ座学も魔法も平均的に伸ばせるのはあの子だろう。

 他の子達はそれぞれ何かのスペシャリストで1点に尖っているからな。


「若い草の目も伸び、花も咲き始める今日——」


 キュウカが壇上に上がり、挨拶を行う。

 3年も見ない間に、美人になったな。まだ8歳の子が放つ空気感ではない。


 俺は目を逸らすことなく、キュウカの一言一句も聞き漏らすまいと耳を傾ける。

 こうして、俺の妹達が魔法学園に入学してきた。




 入学式が終わった後、俺は武道館の出口に立っている。

 出口からは、入学式を終えた新入生達が出て来ていた。

 このあとは各々のクラスに行き、今後の生活についての説明を受けることだろう。


『あの人誰かな……』

『制服の色を見て! 中学級の先輩よ!』

『素敵……誰かを待っているのかしら』


 そんな言葉が聞こえてくるが、今は関係ない。

 それよりも大事なことがある。


 すると、武道館のエントランスの方でざわついている声が聞こえた。

 なんだ? と顔を向けて見れば、モーゼの人混みが割れていく。

 誰かがこちらに向かって来ているのだろう。


『おいあれ……首席の』

『めちゃめちゃ可愛い……って同じ顔が……9人!?』

『これからこんな可愛い子達と一緒に魔法を学ぶのか!?』


 やがてモーゼは俺の方に向かって割けて来る。

 そしてエントランスをざわつかせていた正体が、俺の前に姿を現した。


「兄上……お会いしたかったです……!!」


 そういって抱きついて来たのは俺の妹で長女のイクスだ。

 8歳になって胸も少し出て来ている。少し……ではないな。

 俺の知ってる抱き心地ではない。全部柔らかい。


「あぁーー!! イクスずるい! 私も!」


 そういって飛びついて来るのはサンキ。

 それを皮切りに妹達がみな近くまで来てくれた。


「ふん、兄様のことだから一人で寂しがっていたんでしょ。しょうがないから、だ、抱きついてあげるわ」

 そういってイクスとサンキの入れ替わりで抱きついてくる次女ジーコ。

 抱きついた時に匂いを嗅いで、「兄様……」と呟く姿は、ギャップで殺す気なのだろうか。


「お兄様! 私達も寂しかったですわ!」

「そうですわ! でもこれからは一緒ですわ!」

 次は六女のロッカと七女のチセ。

 二人は相変わらず瓜二つだが、ちゃんとそれぞれの特徴を残したまま成長したようだ。


「シロ、ほら兄さんに会いたがってたでしょ!」

「う、うん……にぃ……さま……」

 五女のウドが四女のシロを連れて来る。

 ウドの世話好きは相変わらずだな。シロは大人びて見える。


「ルド、今日は一緒に寝れる?」

 そういうのはハーピ。

 みんなは女子寮に住むことになるからそれは出来ないぞ。

 あと妹達の中で一番胸が成長している。


「お兄ちゃん、会いに来ちゃいました」

 最後にキュウカ。首席の宣誓のときも感じたが、対面してみるとより一層感じる。

 本当に美人になったな。可愛いのは可愛いが、纏う空気が落ち着きすぎている。聖母レベル。


「みんな、俺も会いたかったよ。大きくなったな」


 そう言うと、それぞれが最高の笑顔を見せてくれる。

 あぁ、3年間、孤独に頑張って来てよかった。


 これから9年間、妹達を絶対に守りぬいて、健やかに育ってもらわねば。



 何せ、今も周りをざわつかせているくらい、こんなにも可愛いのだから。


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