薬屋さんの記録

夏木

1人目 出すものが違う

 私の勤める薬局は、個人医院のすぐ前。個人医院だからなのか、近くに住んでいる高齢者や、ずっと昔から通っている高齢者が多い。なので、薬局にくる患者さんもその医院にかかっている高齢者ばかりになる。稀に子供がくるけど、九割は高齢者と言っても過言ではない。


 これはそんな薬局での出来事だ。





 腰が曲がったおじいさんが来局してきた。

 入口の真ん前にある受付に立ち、肩からかけた黒いバッグを漁る。


 調剤薬局で働いている私達がこのおじいさんに求めるのは、処方箋。それとお薬手帳。場合によっては保険証や公費関係で使う手帳。この三点セットを求めている。

 特になくてはならないのは、処方箋。これがなければ私達、調剤薬局スタッフは一度首をかしげる。


「はいはい、これね。あとこれか」


 おじいさんが白い紙と、小さなカードを受付に出す。その後は薬の準備が整うまで待つだけだと、待合室のソファーに座ろうとする。だが。


「あの、これは受け取れないんで。これじゃない紙持ってないです?」


 スタッフの一人がおじいさんを止めた。おじいさんは振り返り、「え?」と言うような顔を返す。


「これ、病院さんの領収書。あと、こっちは病院さんの診察券。うちは診察しないんで要らないです。これじゃなくて、処方箋って書かれているものと、保険証お願いします」

「ああああ。そっかそっか。じゃあ、こっちだ」


 くたびれた財布を漁って、皺皺になった処方箋を出す。同時に財布の中にしまっていた保険証も出した。

 病院は薬局の目の前。道路を挟むこともなく、たった数メートルしか離れていないというのに、処方箋は驚くぐらいに皺だらけになることがある。


 何事もなかったかのように処方箋を受け取って、さらにスタッフは他の物も求める。


「はい、お預かりしますねー。お薬手帳はあります?」

「ああ、忘れちゃった。家を出る前にテーブルに出しておいたんだけどね、置いてきちゃったよ」

「わかりました、ではシールお渡しするので貼っておいてくださいね」

「あいよ」


 こんなやり取りを終えてやっと、薬の準備を始める。

 月に一回病院を受診して、薬局に来ているというのになぜ毎回このやり取りをしているんだろうか……。


 毎日毎日、いろんな人がこれをやっている。

 そして口を酸っぱくして、毎回同じことを言っている。


 病院の診察券は要りません!

 うちは薬局です。

 診察しませんっ!





 知らぬ人も多いちなみに、のプラスアルファ情報を一つ。


 三か月以内に同じ薬局を利用した場合、お薬手帳を出した方がお会計が安いです。数十円ほど。

 たとえ血圧の薬だけしか飲んでいなくて同じ内容しか書いてないシール帳になっていたとしても、持って行った方がお得です。

 ちりつもです。年間で数百円になるかもです。


 今ならスマートフォンで使える電子手帳もあったりします。いつも使う薬局に確認してください。


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