第5話
名古屋に着いてからの二人の行動は迅速なものだった。駅を出て、レンタカー屋へと走る。車を借りる。桃虎は運転席に座り、海斗は助手席に座る。車はあっという間にスピードを上げ、名古屋市からその郊外、そして首都圏に向けて走り続ける。
海斗の予想通り、名古屋走りだがそこは何も言うまい。今は速さこそ正義だ。高速道路に入り、車は時速一〇〇キロを超えていた。それでも注意を受けないのは、警察官がモモゾノに気を取られているからだ。それだけは有難いと二人は思った。
あっという間に愛知県、静岡県を抜け神奈川県に入ると周囲の様子が一変した。
「規制中です!現在神奈川県及び首都圏は危険区域に指定されています。立ち入りは禁止されています」
という警備員の声が聞こえた。桃虎は車を停め、海斗に目配せした。
海斗は頷き、車から降りると
「こういう者だ。モモゾノを破壊しにやって来た。通しては貰えないだろうか」
機関の身分証明証を提示し、警備員に訴えかける海斗。警備員はすぐさま「この車は通せ!」と指示し、無事二人は神奈川県内へ突入した。
「いやぁ助かったよ、おおきんな」
三重弁を交えながら礼をする桃虎に
「気にするな。それより気を引き締めろ、東京はもうすぐそこだぞ」
と、海斗は険しい表情で前方を見つめる。
「わかっとるって」
桃虎はそれきり、口を開くことはなかった。
神奈川県は、かろうじて被害にあっていなかった。海斗は内心ほっとしたが、それも時間の問題だろう。急いでモモゾノを始末しなければ__そう、改めて決意した。
神奈川県を抜けると、更に規制は強くなっていた。しかし、「機関の車ですね、どうぞ」と二人はあっさり通された。神奈川県に居た警備員がきっと配慮してくれたのだろう。
東京都に入った二人は、都庁を目指す。東京はパニック状態で、郊外である埼玉や千葉に逃げようとする人々の姿が補足できた。上り道が空いているのをいいことに、桃虎はスピードを緩めず都庁へと向かった。そびえ立つ都庁の上空には、黒い影が存在していた。二人は表情険しく都庁前に車を停めた。
「あれか……」
見上げながら話す海斗に
「海斗、都庁にはエレベーターがあったはずや。それで登ろう」
と、桃虎は現実的な意見を述べた。そうだな、と海斗は頷き二人は都庁の中へ入ろうとした__のだが。
「殲滅、殲滅……」
警備員の様子がどうもおかしい。よく見ると、機械で身体が構成されている。
「モモゾノか……!」
海斗は憎々しげに機械を見つめる。元は三重県民であった機械に、少しの罪悪感を覚えながら
「安らかに眠ってくれ」
と小型の銃で頭を弾き飛ばした。
「ナイス海斗」
桃虎は数で勝負するタイプなので、一発で相手の頭を打ち抜くことは出来ない。素直に海斗の優秀さを讃えている。
「有難う。さぁ、行くぞ」
海斗は胸元に銃をしまい、自動ドアを蹴破った。ガラスの破片が周囲に散るが、桃虎はそれに文句を言わずついていく。名古屋走りに対して文句を言わなかった海斗への、感謝のような情である。
都庁には、誰もいなかった。二人のみが、この空間に立っていた。あの機械は、二人を入れないためだけに操られていたのだった。
エレベーターに乗ろうと二人はそっちに向かった。しかし、エレベーターはモモゾノによって破壊されていた。階段で上へと上るしかない。体力自慢の二人だが、流石に都庁の規模だと疲労を隠せない。一段一段、噛みしめるように上っていく。無言の二人の間には、熱気だけがこもっていた。体温が上昇し、息が上がる。頂上にたどり着く頃には、へとへとになっていた。
頂上に浮かぶは、モモゾノ。何の感情も宿さない瞳で、こちらを見据えている。
「……見つけたぞ」
「うん、わかってる。コイツを破壊するのが、私たちの仕事……」
息も絶え絶えに、二人は口を開く。モモゾノは何も語らない。ただ、殺戮兵器として動くだけである。
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