揺籃(四)
どこまでも突き抜けるような晩夏の青空にはいつしか雲が立ち込め、太陽の光を隠した鈍色の重なりがどんどん濃くなっていく。
さぁっという音が耳に聞こえたかと思えば、途端に視界の中に細い筋が何本も降り、舗装された地面の乾いた煉瓦が見る間に朱から赤茶へと色を変える。
上空から落ちた水の粒が窓枠に当たり、勢いを失って硝子に線を引いていく。つつ、と、白く細長い指が微妙に歪んだその線を辿った。雫型を作る線の先端が金で塗られた窓の縁まで辿り着くと、指も同じ位置で静止する。
ひと呼吸ののち、硝子に垂直に当てられていた指が丸まって、窓を離れる。
「シレアの秋が近いにしては、天の機嫌が良くないようね」
外気が伝わり冷えた指先をもう片方の手で包みながら、女性は吐息する。
「新しい統治者と、即位式、ね」
宝玉を欠いた指輪が硝子に映り、鈍く反射した。
「さぁ、どういうふうに動くのかしら」
重ねられた手が指輪を隠し、硝子はますます濃くなる灰色の空を見せるだけになる。女性は窓辺の卓に頬杖をつき、傾けた頭を壁にもたせる。紅を差した唇が控えめな笑みの形を作り、翡翠色の瞳の奥が光った。
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