第六話:ドワーフの集落


「貴様がエルフの使いか。ワシはグランドだ」


 ヒゲだるまに案内されて来た俺を出迎えたのは、やっぱりヒゲだるまだった。

 頭が禿げ上がっていて、ヒゲと筋肉も合わせて威圧感が凄い。

 ていうか男臭い。そして汗臭い。さらにはくそ暑い。

 なんなんだここ。メチャクチャ暑いんだが。


「すまんな、ワシの家は物置になっているから客人を呼べんのだ。工房で我慢してくれ」


 あーはいはい。ドワーフって金属を鍛えるのが上手いんだっけか。

 上質な魔剣とかは大体ダンジョン産かドワーフ産だもんな。

 てことはここで剣を鍛えたりしてる訳か。ちょっと興味があるな。


「なんだ、気になるのか?」

「あぁ。ドワーフの鍛鉄技術は他の種族とは比べ物にならない程にレベルが高いって聞くからな」

「それは間違いない。鍛冶に関してはワシらが世界一だ」


 自分で言うのも凄いけど、まぁ事実だしな。

 だが、いま俺が一番気になってるのはそこじゃない。

 確かに鍛冶に関しても興味はあるけど、それは後回しだ。


「鍛冶技術が高いのは分かった。だが食料に関してはどうしてるんだ?」


 ここに来るまでの間に工房っぽい建物はたくさん見掛けたけど、畑とかなかったんだよな。

 岩山に集落があるから外で農業なんて無理だろうし、動物を飼うのだって難しいだろう。

 もしかしたら岩でも食ってるんだろうか。


「食料なんかは昔から人間の街で買ってきている。これが中々大変でな」

「それはそうだろうな」


 一番近い街でも、ここからだと往復で丸一日はかかるだろうし。

 量も揃えるとなるとかなりの重労働だろう。


「しかしワシらは鍛冶と酒造り以外は何もできん。他は買って揃えるしかない」

「そうか。しかしなんで人間の街なんだ?」

「……なにが言いたい?」


 え、こわ。いきなり睨みつけるのやめてくれよ。

 ただでさえ人相悪いんだからさ、あんた。


「俺はエルフの里を見てきたが、彼らは狩猟と農業を両方行っているようだった。それに植物で作った道具もたくさんあったな」


 下手したら俺らの街よりも潤ってるんじゃないかね、あれは。

 人口が少ないからってのもあるだろうが、寿命が長いから専門家が技能を引き継ぐ必要がないってのが一番大きいんだろうな。

 成長を待たなくて良い分、人間よりもロスが少ない。つまり生産性が高いって事だ。

 ついでに言えばエルフってのは魔法にも長けているらしいし、作業の効率も良いんだろう。


「それがどうした。ワシらと何の関係がある?」

「簡単な話だ。エルフと交易したらいい」

「……なんだと?」

「あちらはあちらで困っていることもありそうだしな」


 例えば鉄。周りを木々に覆われたエルフの里では大規模な製鉄は行えない。

 狩りを行うにも鉄は必要だ。野生の動物相手が木の枝で倒せる訳が無い。

 ましてや森には魔獣がいる。そんなモノを相手にするなら金属製品は必須だろう。


「人間の街で仕入れるものが減れば労力削減にもなるし、ドワーフ製の武具の価値も上がるだろ」

「ふぅむ……しかし相手はあのエルフだぞ。そう上手くいくものか」

「それだよ」


 俺がドワーフの集落に来て一番疑問に思ったことだ。

 これがそもそもおかしいんだって。


「別の奴も言っていたが、エルフという種族に関して認識が間違っている気がするんだが」

「どういう事だ?」

「あいつらは別種族の俺に大して丁寧な対応をしてくれた。とても高慢な種族だとは思えない」


 もちろん俺がネフィーの恩人と言うのもあるだろうが、それを差し引いてもドワーフの認識はおかしい。

 あり得るとすれば、だ。


「なぁ、お前は直接エルフと話したのか?」

「ぬぅ……いや、ワシも先代から聞いただけで直接話したことは無いな。エルフの使者とも話をせずに追い返していた」

「それ、昔の長が個人的にエルフを嫌っていただけだとしたら、どうだ?」

「……ありえない話じゃあ無いな。言いたくはないが俺達ドワーフは頑固者の集まりだ。思い込みが激しい種族でもあるしな」


 まぁ見た目から頑固そうだもんな。

 でもこういう奴に限って仲良くなれば情に厚いんだけど。


「どうだ? よそ者の話だからって信じないのは勿体ないと思わないか?」 

「貴様のいう事は一理ある。良いだろう、一度エルフと話をしてみるか」


 言いながら、壁にかかっていたスイッチを拳でゴツンと殴り付ける。

 途端にデカい鐘の音が鳴り、すぐさま奥から女の子が走って来た。


「親方ー。どうしたっすか?」


 おぉ。なんて言うか、緑のツナギを着た褐色ロリっ子だな。

 さすがにネフィーほどじゃないけど胸はしっかりある。並盛だな。

 ていうかツナギの下のシャツがブカブカだから、屈んだりしたらうっかり中が見えそうだ。

 こっちに来て屈んでくれないかなー。


「ミレイ、客人に着いて行ってエルフと話をして来い。この集落じゃお前が一番向いているだろう」

「エルフ? なんであたしなんすか?」

「倉庫番をしているお前が交易に最適だからだ、お前の好きにやれ」

「なるほど、了解っすー。で、こちらが客人っすか?」


 テクテクと歩いて来て……あ、止まりやがった。

 くそ、あと一歩で上から見えそうなのに!

 ……はっ!? いかん、見てるのバレたらやばい!


「ジェイドだ。よろしく頼む」

「ミレイっす。エルフの里までよろしく頼むっす」


 言いながら握手をした時、かなり有益な事実が発覚した。


 この子、シャツの下に何も着ていない。

 今ギリギリのところまで見えた!


 と言うことはつまり。うっかり見えちゃった場合、下着なんかではなく。

 男のロマンが丸見えになるってことだ。

 日に焼けるような褐色の女の子の聖地はどうなっているんだろうか。

 いやぁ夢が広がるな。


「んで、すぐに出発っすか?」


 あ、やべ。熱中しすぎた。


「あぁ。大丈夫か?」

「話をしに行くだけなら問題ないっす」


 と言うことで。今度は無防備な褐色ロリを引き連れてエルフの里に戻ることになった。


 道中、何とか見る機会がないものだろうか。

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