怖い夢と虎と
@J2130
第1話 いつもの夢
「こんな夢を見た」
いいですね、こうゆう書き出し。
夢の話は難しい。
夜寝ている間に見る夢のほうです。
他人の夢の話をずっと興味深く聞いているのはちょっと大変です。
だいたい夢って支離滅裂だし、結局なんだかわからないし。
夏目漱石の「夢十夜」は面白いです。SFのようで好きです。
漱石さんもこのようなお話を書いたのだな…と思いました。
尊敬する星新一さんも何かの本で同じような書き出しの「夢十夜」を書かれています。
こちらは本格的なSF作家さんですからね、面白く読ませていただきました。
さて、私の場合は「一夜」です。
その夢自体は一度の夢ではないですが、短編としては一夜、一話ということになります。長いので2章に分けます。
文豪、SFの大家のようにはいきませんがお読みいただけたら幸いです。
もの心ついてから、幼稚園くらいから見る夢があります。
みなさんどうなのでしょう、同じ夢を何度も見ますか?
覚えている夢って怖い夢のほうが多くないですか?
私は同じような夢を何度かみて、覚えているのは怖い夢です。
怖い夢、いろいろなパターンがありますね。
仮面ライダーを見ていたから、「怪人」にはよく襲われました。
仮面ライダーを呼んでも来てくれなくて。
怪獣も出ました。大きいですね、動きが遅いのに一歩が広いのですぐに追いつかれちゃう。家が壊されちゃう、そんなところでだいたい場面が変わります。
幽霊も出てきました、鬼もいました、怖い侍も出てきたな。
そんなところにしましょう、怖いですから。
最初は幼稚園のころだったと思います。
母がスーパーでいなくなり僕が探している。そこでみんなが何かに怯えて逃げ回っている夢でした。
僕も逃げようとして走るのだけれど、夢の中のあのなかなか進まない、力いっぱい足を動かしてやっと一歩だけ進めるあの状態になって。
すると場面が変わります。
そこは家から駅に向かう途中の信号のない交差点。
車が通れるくらい広いのですが、その場所に似ている所でした。
交差点をまっすぐいくと道は細くなり、右の角に煙草屋さん、左には大きい北見さんの家。その先には斎藤病院があるところでした。
交差点の左へ向かう道は、手前に垣根の家があり、平坦な道路でした。
でもこの夢の中の交差点、本物と似て非なることがありました。
左へ続く道が大変急な下り坂で、路面には滑り止めなのか、コンクリートに丸いわっかのくぼみをいくつもいくつもつけているいくぶん左にカーブした白い道になっているのです。
その坂道の右側には、これまた最近では見ない、赤と白の太いパイプをまげてつくったガードレールが連なっており、歩道と車道を分けていて、ずっと坂の下に続いていました。
その歩道は塀か木か家の影なのか、なぜか暗く見えました。
この実際の道と似ている交差点、怖い夢のあとに毎回なぜか出てきました。
そして他にも毎回出てくるものがありました。
交差点を渡り、煙草屋の横を抜けると、ある動物がいます。
虎です。
プーさんのティガーみたいだったらいいのですが、それよりかなりリアルな虎です。
しかもこの虎、リアルなのに二本足で立っています、毎回。
僕はこの虎も怖くて、でも先に行かないとこの夢終わらないし、と思いその虎のそばをおそるおそる抜けていきました。
先ほど書きましたが、少し道が細くなっています。それなのに虎は道の真ん中にいつも立っています。仕方ないので毎回虎に触れるほどの近くを通ることになります。
僕が慎重に虎の横に行くと、虎は視線を下ろし瞳だけで睨みます。
僕がまだ小さかったのでかなり上から見下ろされていました。
睨むだけで虎は何も言いません、吠えもしません。
吠えられたら怖かったでしょうね。
そして夢が終わります。
ほっとするのですが、怖い夢のあとにはいつもこの交差点と虎がセットで登場するのです。
幼稚園、小学生、中学生、高校生、浪人生、大学生、社会人、結婚後娘ができてもこの夢を見ました。
ただ頻度は年とともに如実に減っていきました。
幼稚園のころは毎月のように、小学生のころは数か月に一度、高校生以後は一年に一度か二度くらいになり大学生以降は数年に一度くらいになってきました。
虎の視線も僕の成長と同じく、最初はかなり上から見下ろされていましたが、高校生のころには彼の肩くらいになり平行とまではいきませんが、大きく見下ろされることはなくなりました。
勿論、虎はあいかわらず吠えもせず驚かせもしませんでした。
僕もだんだんと慣れてきて、あらゆるパターンの怖い夢のあと、この交差点に出ると、
「あ…、終わった」
と考えるようになりました。
あとは、とにかく虎の横をすり抜けるだけでいいのです。
交差点にいきなり立ちます。
「ああ、いつものだ」
向こうには煙草屋さんがあり、僕が歩いて交差点の真ん中くらいに行くと、虎が見えてきます。
「今日も二本足で立ってこちらを見ているよ」
今回こそなにか驚かされるかな…と用心しながら、あらゆることに気持ちを準備して虎の横を通ります。
虎は体を交差点に向けて、その瞳だけで僕を睨みます。
その場を抜けると、夢が覚めます。
何度も何度もこの交差点に立っているのですが、一度だけ
「この左の急な坂を下っていったらどこに行くのだろう…」
夢の中で考えたことがありました。
高校生のころでした。
どんな怖い夢だったか内容は忘れましたが、ふと気づくといつもの交差点でした。
交差点の真ん中で、僕は左の坂を見下ろしました。
”ここで左を見るのは初めてでした。”
いつもは正面にいる怖い虎の様子を見ながら歩いていたので。
ずっとコンクリートの白い道がいくぶん左に曲がりながら続き、先のほうでは右側からどこかの家の柳の太い幹が道の中央まで長く傾き、枝とゆうか緑の葉をたくさん揺らしていました。
「たまにはいいかな…」
僕はそう思い、軽い気持ちで坂を下っていきました。
ガードレールの右の歩道には入らず車道を少し下っていきました。
足にはコンクリートを感じ、丸いくぼみに注意しながら歩いていきました。
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