孤独な戦い
正直、焦りで余裕がなくなっていた。
あれから数日が経過し、俺が知る限り彼女は未だ飲まず食わずでいる。
普通の人ならとっくに限界を迎えているはずで、まだ生きているのが不思議なくらいだった。
では、彼女が霞さえあれば生きていける仙人様のような存在であるかというと、どうやらそうでもないらしい。
時間の経過につれて、着実に憔悴しているのが分かる。
その証拠に足を抱えるようにしていた腕も、力なくだらんと地面に落ちてしまっていた。
そんな彼女に対して、俺がやれることは限りなく少ない。
出来ることなら今すぐ彼女の元に向かいたいものだが、例のバリアが未だに機能している為どうすることもできなかった。
正直な所、これはもう仕方がない事ではないかと考えた時もあった。
彼女には自分からこうなることを望んでいる節があったし、もしかすると俺がやっている行為はただの迷惑行為に他ならないのかもしれないからだ。
しかしそれでも、どうしても諦めきれずにいる自分がいた。
そこから数日は、とにかくがむしゃらだった。
気づけば自分自身の食事や、睡眠のことなどすっかり忘れ行動し続けていた。
人間何かに必死に取り組むと、時が経つのも忘れるというのは本当なんだと身に染みる。
その間にやったことといえば、外を走り回りバリアが解けた時にすぐに対応できるよう、食料、水の準備を万端にした。
そしてバリアを打ち破る為に、森で手に入れたあらゆる道具を駆使し、燃やしたり、水をかけたりと考えつく限りの事を試してみた。
そうした結果、やはりというべきか一向に打ち破れる気配はなかった。
「他に…やれることはないのか…」
万策尽きた俺は、教会の中で立ち尽くしていた。
こんなにも目の前に救いたい相手がいるというのに、彼女との距離が果てしなく遠い気がする。
自分がいかに非力で役立たずなのか実感する。
俺はこんな女の子一人助けることができず、こんな異世界でどうしようっていうのか。
そして、堰が切れたように感情が溢れ出していた。
「頼むから、頼むから、頼むから!!お願いだから!ほんと頼むってぇぇ!!」
無音の教会に、声だけが虚しく反響する。
無駄とわかっていても、バリアに向かって何度も拳を振り上げていた。
ふと自分の拳を見てみると、血で真っ赤に染まっていることに気づく。
そんな自分に苦笑してしまう。
「はは…くそ…諦めるしかないのか…嫌だな…」
それが皮切りになったのか、膝がガクガクと震え出し立っていられなくなった。
程なくして、バリアに寄りかかるように意識を無くしていった俺だった。
〜
「いたっ」
ゴンという音と共に、意識が覚醒する。
どうやら身体を支えていたバリアが消え、頭を打ったらしい。
すぐに辺りを見回すと、すっかり夜を迎えていたようだった。
俺がここにいたのは確か日中であったはずだ。
外も明るかった記憶がある。
つまり時間がかなり経過してしまったということか。
クソっ、何をしてんだ俺は…。
急いで彼女の方に視線を向ける。
幸いにも今夜も月明かりが照らしてくれている為、視界は確保出来ていた。
そこには座った姿勢も維持できなくなってしまった、彼女が横たわっていた。
それを見た瞬間、身体が勝手に反応する。
準備していた水と食料めがけて駆けていく。
それを抱え、一目散に彼女の元へ向かった。
またバリアに阻まれる可能性もあったが、予想通り消失している。
彼女がそれを維持する事ももはや出来なくなっているということだろう。
彼女にかけよった俺は、まず呼吸を確認する。
耳を彼女の口元に近づけると、小さく呼吸音を感じられた。
また脈も僅かながら確認できる。
少し安心したが、そんな悠長な事は言っていられない。
すぐに次の行動に移る。
汲んできた水を用意し、葉っぱを浸し、数滴ずつ口に含ませる。
カラカラに乾いていた口元が、徐々に潤っていくのがわかった。
よし。時間がかかっても少しづつ、少しづついこう。
絶対に死なせるものかと、何度目になるかわからない誓いをたてる俺だった。
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