第31話
「へ~、お兄さん24歳なんですか~。私もっと若い方だと思ってました」
典型的な初対面同士の会話をしながら、俺と彼女は住宅街の路地を歩いていた。
「もっとって具体的には?」
これまた典型的な意地悪な質問を返してみた。
「そうですね......高校生とか」
彼女は視線を泳がせてそう答えた。
その場合、俺とキミは同級生ってことになりますが。
だとするとこの手を繋いでいる状況は、傍からしたら恋人同士にみえているということでは?
ツッコミたくてうずうずしたが、彼女が顔を真っ赤にし慌てふためいてまた転ぶ姿が目に浮かぶのでやめてあげた。
「いくらなんでも高校生は若過ぎだよ」
「ですよね~。すいません」
空いてる方の手でこみかみをポリポリと
国道沿いのような大きくて人通りの多い道に比べて、住宅街の路地はアイスバーンになっている箇所が至る所にあった。
「キミが会いに行こうとしている友達って、どんな子なの?」
何か喋らないといけないという
「歳は私よりひとつ上で、見た目は気が強そうに見えるけどとても優しい人。小さい時に私がいじめられているといつも助けてくれた......大切な親友です」
話を聞いていると、彼女にとってお姉さん的な存在に近いという印象を受ける。
「私が中三の頃に引っ越してしまって、それ以来会えていなくて、連絡も取れていないんです」
「なんでまた急に会いに?」
込み入った事情があるかもしれないと思いながらも、俺は訊かずにはいられなかった。
「......その親友が、去年大きな車の事故にあったそうなんです。本人は奇跡的に軽傷で
すんだみたいなんですが、代わりに......」
沈んだ声のトーンで内容を察した。おそらく他の同乗者に何かあったのだろう。
「私、事故のことを知ったのがつい最近で.........今更会いに来られてもって本人は思うかもしれないけど、何か困ってることがあるだろうし、会いに行かずにいられなくて......」
不安の表情を浮かべ
自分の興味本位で彼女に辛いことを喋らせてしまった。最悪だ。
「ごめん! 変なこと訊いちゃって!」
「......いえ、気にしないでください」
「きっとその子もキミが来てくれたら嬉しいと思うよ。だって幼馴染で姉で親友なんでしょ?」
「はい......」
「だから自信持って彼女に会いに行こうよ。ね?」
我ながら気の利いたことが言えない自分に軽く絶望する。穴があったらダイブしたい。
「お兄さん......優しいんですね」
潤んだ瞳をこちらに向けるとにこっと微笑んだ。
優しいのはむしろ彼女の方だ。好奇心に駆られて人の事情にづけづけ踏み込んだ俺にそんな表情をするなんて。良い子過ぎて悪い大人にいつか騙されるのではないかと心配になる。
***
彼女の目的の場所付近に
俺は建物に書いてある番地を一軒ずつ確認し、一番大きなマンションが目的地であることを伝えた。
「ありがとうございます。一度だけじゃなくて二度も助けて頂いて」
「ホントだよ。まさかまたキミを助けることになるなんて思ってもいなかったよ」
「すいません」
てへへというような表情で目を細めて笑う。
「あ! そういえばお兄さんから借りてた千円返さなきゃ!?」
「それはいいから」
「でも――」
「その千円で二人で何か美味しいものでも食べなよ......って、千円じゃ大したもの
買えないか」
「そんなことないです!......大切に使わせて頂きます」
首を横にぶんぶんと振り、千円札を大事そうに両手で握りしめながら頭を下げた。
「じゃあ俺はこれで。親友に会えるといいね」
「はい! ありがとうございます! それでは!」
彼女は深くお辞儀をし、小走りでマンションの入り口へと入っていった。
姿が見えなくなるまで見送り、俺が自分の家の方に向かおうとした時、ロコからスマホにメッセージが。
『今剣真の家に着いたー。今日の夕飯は大好きなハンバーグだよー☆ 遊んでないで早く帰っておいでー』って、俺は子供か。
たまには我が家のJKにも何か美味しい甘いものでも買ってってやろう。
スマホをポケットにしまい、夕空を眺めながら帰路へと歩き出した。
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