第11話 めっちゃ見えた
音で振り返ると背筋が凍った。
キッチンの戸棚が全部開いている。
扉も引き出しも全部だ。
キッチンに吊るしたフーチが激しく揺れている。
他のフーチは揺れていない。
間違いない。
フーチはしっかり幽霊の場所をとらえている。
立ち上がって戸棚に向かってあら塩を撒いた。
窓の周りにも撒く。
あら塩を撒いた辺りにファブリーズもした。
他の部屋に入れないように扉の前に盛り塩をした。
これで入れないようになってるといいが。
リビングに戻り戸棚を閉めてキッチンのフーチを眺めていると眼の左端に黒い靄が見えた。
振り向かずに黒い靄を眼の端に見続ける。
恒樹の見ていたおっさんがこれなのかな?
集中して靄の方に体の向きを変え
「破ぁっ」
と怒鳴る。
余り集中に時間を掛けなかったけど効いただろうか?
廊下のフーチが揺れている。
あら塩を撒こうと思ったがやめた。
幽霊にはここを通って玄関から出ていってもらわないと行けない。
お香が消えていた。
換気をしてお香に火を点け時計を見た、3時30分。
また恒樹の背後に向かって座り、集中する。
「破ぁっ」
変化なし。
もう一度眼を閉じて集中する。
ガタンガタンッ
廊下の方から音がした。
「破ぁっ」
立ち上がって廊下を見に行くと私から見てフーチの後ろに男が立っている。
フーチはぐるんぐるんと揺れて
ボトンッ
と、地面ギリギリに吊るしていたのに妙にでかい音を出して落ちた。
全身の毛が逆立つのが分かる。
薄ぼんやりとした影のようなものが居て向こう側が透けて見える。
心臓が早鐘のようにドクンドクンと鳴っている。
靄が、黒い靄がこちらを恨めしそうに睨んでいる。
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