第9話 除霊道具と釣り道具
「ただいまー」
「おかえりなさい。恒樹は? もう大丈夫なん?」
「ん~、家に盛り塩適当にしてあってそれが
原因やったんちゃうかなぁ? とりあえずそれの掃除の仕方教えて、もう1回俺の教えた除霊方法試して。 それでアカンかったら寺行きやな」
「そっか、にしても、幽霊に憑かれたみたいな話まさか身近であるとはね」
「ほんまやなー。 あ、明日夜釣り行ってもいい?」
「いいけど明後日仕事じゃなかった?」
「いつものことやん、もう太刀魚釣れだしてるから行ってくるわ」
「うん、気を付けてね」
「わかってるよ、氷だけ用意しといて」
「わかった」
流石に嫁にこれ以上首を突っ込むと言ったら許してくれなさそうなので帰り道に用意しておいた嘘である。
罪悪感はあるが致し方ない。
次の日。
仕事が終わり、一旦家に帰って釣り道具と除霊道具を車に積んで時間まで軽く仮眠をとってから恒樹の家に向かった。
昼間に恒樹からまた金縛りにあったことや嫌な気配が強くなっていることなどラインがきていた。
車で恒樹の家の近くのタイムパーキングに車を止めた。
時計を見ると午前2時。
恒樹に
「近所のパーキングついたで起きてる?」
とラインを送った、5~6分して既読になり。
「起きてます」
と返事がきた。
車を降りて荷物を持ち恒樹の家へ向かう。
マンションの入り口でオートロックの呼び出し口で部屋の番号を押すとランプがついた
「お待たせ」
少し明るい感じで声をかけた
「うっす」
という暗い返事と共にドアのロックが開いた。
うん、緊張している。
ここへ来て手に汗がにじんで、背中が寒い。
昔から緊張するとなぜか寒くなる。
恒樹の部屋の前まで行くと扉を開けて寄りかかりながら恒樹が待っていた。
また少し顔色が悪い。
「ゴーストバスターズ到着やで! もう大丈夫や」
少し茶化してみた。
「バスターズって一人じゃないすか」
酷い顔をしてるくせにしっかり突っ込んでくる。
「真面目か! んじゃ、さっさと始めよか」
部屋に入って道具を広げていった。
しめ縄に2リットルのペットボトル(中身は塩水)が二本。
幅2メートル弱のビニールシート、あら塩、蝋燭、縫い針、釣糸、握りこぶしくらいに丸めた粘土を4つ。
粘土と釣糸、縫い針でフーチを作り天井から地面ギリギリくらいに吊るす。
釣り糸は使わないでずっとしまってあった6号のナイロンラインだ。
それをベランダの窓際、キッチン、玄関からキッチンに向かう廊下、リビングの角に設置した。
それから大量のお香、ホワイトセージ、サンダルウッド、フランキンセンス。
効きそうなお香をいろいろ持ってきた。
そのお香を部屋のあちこちで焚く。
リビングにビニールシートを敷いてしめ縄で囲いを作り、ペットボトルの塩水でしめ縄を湿らせる。
「これに着替えて」
コーナンで買った肌シャツとズボンを渡した。
塩水に浸けてから乾かした物である。
自分もそれに着替える。
「なんか本格的っすね、でもゴーストバスターズなわりにアナログっすね。 なんかピカピカ光る銃はないんですか?」
「あるかそんなもん! いや、でもだいぶデジタルっちゃデジタルやで。スマホでググって調べた除霊方法やからな」
にやっと笑って見せる。
恒樹がけたけたと笑った、ツボに入ったらしい。
「これなんすか?」
フーチを指差す。
「フーチって言って幽霊が近づいたら揺れるらしい、地獄先生ぬーべー知らん?」
「マジで!! これぬーべー情報っすか!信じてんすか?」
「信じるもなにも試すん初めてやからな、やってみなわからんやろ?」
「いける気してきましたね」
笑いながら答える。
「ほんじゃ恒樹はこれしといて」
耳栓にiPodとヘッドフォン、アイマスクである。
「たまに肩叩くからそんとき以外絶対はずさんといてな」
「了解っす」
キッチンに背を向ける形で座り、笑いながらアイマスクをしようとしたところで
「ちょいまち、怒りの感情作りしといて、お前に憑いてる幽霊にさっさとどっか行けみたいな感じで。 幽霊かわいそうとか、幽霊怖いみたいに思ってたら離れにくくなるみたいやから」
「了解っす」
「よっしゃ、お前が音楽聞いてる間にけりつけとくわ」
「お願いします」
そう言うと耳栓、アイマスク、ヘッドフォンを着けた。
電気をすべて消して蝋燭の灯りだけにする。
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