9 決戦! 通天回廊(2)

 階層を上がる毎に強くなるモンスター。


 ワームなどの群れで迫るモンスターには、猪八戒モードで火炎主体の範囲魔法を使ってレイカを援護し、大柄の怪物には力技のミノタウロスで戦った。


 ただ、僕もレイカもアッタカー攻撃系なので、回復のヒーラーや、防御力、攻撃力を上げるエンハンサーの魔法系もほしいところだ。

 いつも、ポーンションや毒消など、消費アイテムで回復するしかなく、戦闘中での回復の効率が悪くて、数も限りがある。


 やはり二人というのは辛い。


 戦闘に参加しなくてもいいから、アイテムなどの荷物持ちで、ミホロがいてくれるだけでも随分違うのに。


 八十階層に到達すると、さすがのレイカも息が切れてきた。


「ゴーレムに、キメラに、バンパイアのタッグなんて……あんまりだよね」

 レイカが初めて弱音を吐いた。


 三体の異属性の怪物を、なんとか倒した後レイカと僕はその場にへたりこむ。確かにラスボス三体が同時に襲ってきたのと同じだ。

 しかも、それぞれ属性が違うので、一方に効く魔法も他には効かず、硬い奴、俊敏な奴が連携して襲ってくる。例えば、硬いゴーレムには、ため技で撃ち込まないとダメージを与えられない。その隙に俊敏なキメラが襲いかかってくるといった具合だ。


 止む無く、HPが風呂の栓を抜いたように減っていくが、僕が体をはって相手の攻撃を食い止め、レイカが倒すといった、消耗戦が続く。

 まだ先は長いし、ここでの消耗戦はつらい。

 確かに、あんまりだ。


 壁を背にぐったりしているレイカは、HP回復のポーションを二つ開け、僕に一本を渡しながら

「ポーンションも少なくなってきた。たどり着けるのかなー。これが最後のチャンスかもしれないのに……」


 ふと力なく漏らした。

「最後のチャンス」って……どういうこと!


 僕が呆然としていることに、気づいたレイカは

「ああ、気にしないで。このダンジョンに挑む水晶を買うのに金二百枚必要なの。それを集めるのに数十年かかるんだ」

 取り繕うように言うレイカだが、その気になれば数十年かけても再戦できるはずで、最後のチャンスではないはずだ。レイカは、話題を逸らすかのように


「でも、すごいよ。八十階層まで来たのは初めて。これまでの最高到達点は五十三階層だから飛躍的、大進歩だよ。モフモフのおかげだよ」

 嬉しいお褒めの言葉。


 僕は何も答えられないから、目で微笑む。僕が喜んでいるのがわかるようで、レイカも微笑みながらそばに来ると、あぐらをかいて座っているミノタウロスの、ごつい足を枕に寝転んだ。

 これはモフモフ状態以外で、初めてのスキンシップ!


 今の僕なら、軽くお姫様抱っこしてあげられるぞ、しかも無防備な(剣は持っているが)今のレイカなら………触るくらい………一瞬いかがわしいことも頭によぎったが、手を出そうとした瞬間に、僕の首はその辺に転がっているだろうな。


 でも、モフモフの時と違って、体が人間の分、欲求も人間の時に近いのだろうか……と言っても、頭は牛、以前に雌牛のモンスターにそそられ、思わず雌牛のお尻を抱えてしまい、レイカに微笑ましく見つめられた時は、ほんとに、ほんとに……情けなかった。


 さらにレイカはつぶやくように

「モフモフは、人間の言葉がわかるのだよね。モフモフは賢そうだし、お話がしたいな」

 言葉はわかるが、実は字がさっぱり読めない。召喚獣の時は、脳味噌も小さくなっているためか、会話も感覚で聞いているのかもしれない。だから、話すとしてもジェスチャーくらいしかなく、細かな意思を伝えることができないのだ。


 でも、最近レイカは僕に話しかけてくる事が多い、多分飼い犬に話しかけているようなものだろう。

 学校のことも話すので、好きな人がいないか注意深く聞いているが、幸いにもその話はない。ちなみに僕(リアルの和也)のことは、以前お風呂で気持ち悪いと言われて以後、かけらも出てこない。

 さらに、家庭の話も全く出てこない。


 そんなレイカはアーチ窓をぼんやりと眺め


「日暮まで、あまり時間がない」


 ………ええっ!!

 このダンジョン、時間制限まであるのか。


 そんなの絶対の、絶対の、ぜったーーーいに無理だ! 

 もう、ゲームとは言えない、なんなんだここは!

 こんな無理ゲー、クソゲー、腹立たしくなってくる。運営に文句言ってやる!……と言ってもフリーアプリだし、運営への連絡先も全くわからないのだ。


 しかし、それに挑むレイカも尋常ではない。

 相手がチートならレイカもチートだ。だから、ゲームとしては成り立っているとも言えるのか……でも、あまりに無茶な設定だ。


 それに、いくらレイカがチートでも、二人しかいないのだ。 

 攻略するなら、エベレストに挑む登山隊のように途中でいくつもキャンプを張り、食料や装備、できれば人員も補充して、時間をかけて休養もとり、役割を決めて山頂にアタックするような、組織だって攻める必要があるだろう。


 そういった、仲間を集めることができなかったのだろうか。他にも召喚獣がいたみたいだし、幽閉状態とはいえ、二百年の間何か手を打てなかったのか。


 二人だけなんて、こんな無謀なやり方では到底攻略できない。

 でも、賢いレイカのことだし、そこのところは考えているだろう……と、思いたいが


「この調子でモフモフを鍛えたら、なんとか攻略できるわ。それよりモフモフ、ちょっと、臭い!」


 やっぱ、こいつ何も考えてない。

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