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お腹に穴が開いたけど、じっと見てたら塞がった。夢うつつに見た幻だ。
「ほら、早く机をよこせ!」
大声で叫ぶリーダー。ぼうっとしている暇はない、明日にも機動隊が突入するというのに。
「うんと堅固なバリケードをこさえるんだ!」
リーダーは高揚している。いよいよここまで来た。
「他学部のストは解除されたが、我々は断固として闘う!国家権力になど屈しない!」
「そうだ、大学解体!」
「オマワリをぶん殴れ!」
僕たちはA号館を占拠している。ここで学費値上げ反対のストを始めて、もう一か月が経つ。大学中に吹き荒れたストも、当局の巧みな戦術で次々と解除された。学生側の要求を一部呑む形でこの闘争は終わりを迎えようとしている。けれど、僕たちは違う。徹底抗戦だ。どうせスト解除後には、当局はどんどん学生を処分して、学生の自治を根こそぎ奪ってしまうだろう。それでは革命は起こらない。未来のために、闘い続けなければならない。
「ちょっと、「公衆便所」に行ってくるぜ。」
リーダーが、にやりとした。他のメンバーもにやにやした。
「オレも行こうかなー。」
「じゃあ、ボクも。」
この空気はあまり好きじゃない。でも、悲しいかな、僕は湧き上がってくる硬いものに抗えなかった。メンバーたちの後に続く。〇〇〇教室に着く。僕たちが拠点にしている部室や教室とは比べ物にならないくらい綺麗な所だ。ここを独占しているメンバー、それが「公衆便所」だ。「公衆便所」はリーダーを見て、
「あら、もうたまっちゃったの?」
と陽気に言う。
「ぐふふ、また頼むよ。明日は機動隊が突入するらしいから、景気づけだ!」
「もう、あんまりやり過ぎないでね。」
さあ、おっぱじめた。バナナ。力強いバナナ。桃が二つ。柔らかいから、お餅かな?そしてほら穴。ほら穴は深いようだ。僕にはよく見えないけど。推進力は大したものだ。ヨーグルトを添えて。ヨーグルトが多いね。
「さあて、オレのも頼みます。」
「あっ、ボクも。」
バナナ二本追加。ヨーグルトも上乗せ。いや、水飴かも。バナナは剥かれるし、口に入る。ほら穴にも入る。おっと、目を瞑ってしまった。ああ。いやな感じ。いやな感じ。恥ずかしい?「公衆便所」か、まったく。出尽くしたヨーグルト。僕の硬いものは、いつの間にか柔らかくなっていた。結局、混ざることはできなかった。バナナやヨーグルトが散乱した〇〇〇教室を後にして、ふらふらと彷徨う。我々が作ったバリケードが所々にある。ここまで机や椅子やらを固めれば、機動隊も大変だろう。大学前の道から切り取った瓦を屋上から投げてやる。痛いだろう。火炎瓶もある。勝てるかもしれない。
「私、ああいうの、嫌い。」
後ろから声を欠けてきたのは、「ゲバルト・ローザ」だ。女性闘士で、デモで警察が来たときでも果敢に戦う、血の気が多い人だ。
「何が「公衆便所」なんだか!朝から晩までおにぎり握らせておいて、そんなことまでさせるなんて。」
まあ、「公衆便所」、すごく忙しいよね。でも、あの子の握るおにぎりはおいしいんだ。ふわっとしてる。握り方が優しくて、口当たりがいいんだよね。
「見てたのかい?恥ずかしいなあ?でも、僕たちはあの子がこまごまとしたこと全部やってくれるから闘えている。」
「ゲバルト・ローザ」は首を振った。
「やっぱり、今がおかしい。私たちは革命のために家事を押しつけちゃいけない。」
おや、なんだなんだ?ヒステリーか?さては生理の周期だな、まったく。
「女が闘士ぶるから、そんなことを言うんだ。リーダーも言ってたよ、『「ゲバルト・ローザ」は化粧もしなくて、このままじゃお嫁にいけないぞ。たまにはおにぎりでも握ればいいのに。』ってね。」
いやな感じ。僕が、いやな感じ。おかしいな。
「…家に帰れば天皇制。」
軽蔑したような眼差しを向けると、「ゲバルト・ローザ」はそう呟くと持ち場へ帰っていった。その釣り目がやけに心に残った。
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