◆ 54. 恋愛下手
ああ、彼女が欲しい。
仲のいいカップルなんかを見てしまうと、つい目を背け嘆いてしまう。
初めて好きになった子は、コンビニでバイトをしていた。
レジに立つ姿を目に焼き付ける毎日を経て、ある日ついに告白しようと決意した。
いつものようにサンドイッチを持って彼女の前に行き、さあここで決めろというタイミングで頭が真っ白になる。
断られるだけなら覚悟もあったけれど、通報ボタンを押されたのは予想外だった。
よっぽど挙動不審だったらしい。
交番でこんこんと説教を受けながら、なぜこんなことになったのか考える。
他人と話すのは苦手、それが異性だと超苦手。
お巡りさんも途中から少し優しくなり、相手の気持ちをよく鑑みて行動しなさい、なんて言葉を最後に帰らせてくれた。
彼女が欲しい。
高校では、そう思いながら行動には移せなかった。
予備校で環境が変わり、一念発起して告白しようとしたらこの有様だ。
これは根本から間違っていたと、モテるための教本を片っ端から読んでみる。
それまで毛嫌いしていたナンパ術などが、謙虚に受け止めれば大変参考になった。
なるほど、いきなり告白するのは愚の骨頂だったみたいだ。
ボクは自分を変える、そう決意してからは積極的に女の子たちへアプローチしていった。
付き合いたいって思える相手はそうそういないにしても、巡り合わせを待ってたらいつまでも彼女なんてできやしない。
予備校では数学講師の悪口をネタに話しかけてみる。
他人を悪く言うのは躊躇ったけど、相手によっては効果抜群だとか。
このときは上手くいかなかったけどね。
うっかり二本買っちゃったんだ、と缶ジュースを渡す作戦も試した。
これは相手の好みを調べてからやるべきだったと反省する。
いろんな子がいるもんだ。紅茶が嫌いだなんて想定してないよ。
今までは駅でたまたま知り合いがいても、ずっと無視して音楽を聞いていた。
それではいけない。女の子が近くにいたなら、声をかけるチャンスだろう。
通勤時は人が多すぎて、挨拶を交わすくらいが精一杯だ。
もっとくっついて行けばさらに会話が進展するのかもしれないけど、それはまだハードルが高い。
でもさ、女の子に「おはよう」って言える自分を、以前と比べれば大変身だと褒めたいよ。
やればできるもんだと、我ながら自信がついた。
とは言っても告白失敗がトラウマになりそうで、一歩踏み出すのが怖い。
予備校で一年、ついぞ彼女はできなかった。
三月、合格報告も終わり、予備校を出たところで前を行く人物に気づく。
彼女こそが本命。コンビニでは失敗したけど、修行の成果を見せるチャンスだ。
しばらく会えなくなるかもしれないその子へ、最後の挨拶をするために駆け寄った。
「やあ、
「なっ……待伏せたの!?」
「え?」
「もうやめて! 高校出たら会わないと思ったのに、なんで予備校にいるのよ!」
「待って、今は挨拶をしたかっただけで――」
「教師を辞めてまで追いかけるとか異常よ! 次やったらもう一回警察を呼ぶから!」
相田さんが走り去っていく背中を、ボクは呆然と見送る。
頑張ってアプローチしたのにな。
本当に好きな子なんて、彼女しかいないのに。
次は大学の職員試験を頑張ろう、ボクはそう決意を新たにした。
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