『赤緑狸狐ぽんこん』

常闇の霊夜

喧噪の中、今日も日が暮れる


「っだからお前年越しは赤いきつねでいっぷくやろがい!」


「これだから狐はんは……うちら緑のたぬきがえぇに決まっとります」


「あぁ?!糞狸は黙ってろボケが!」


「おぉこわ。そないな事やからもてんのやで?」


「かーッこれだからなぁ!第一モテるモテないは別の話じゃろ!糞狸だって恋人の一人や二人も出来てへんじゃろがい!」


「これから出来る予定どす。そもそもどないして赤いきつねにこだわるんや?」


「あぁ?ほな教えたるわボケ!その無駄にデカい耳かっぽじってよく聞かんさい!」


「えぇ、耳に穴があくまでほじったりますわ」


「もう開いとるやん!まぁえぇわ……確かに日本の年越しゆーたら蕎麦やな。それはどの時代でも変わらん。その中には蕎麦は演技がえぇっちゅうて食われとったんや」


「そやね。せやからうちが言うとります緑のたぬきがえぇんとちゃいます?」


「けどな?今はうどんっちゅう選択肢が増えたんや!そもそも蕎麦が縁起がえぇって呼ばれてるんは細くて長いから、そこから転じて細く長く生きようっていう理由で食べられ始めたんや」


「あのなぁ狐はん。それやと結局うちの言っとる緑のたぬきでえぇ気がしとりますが……」


「まぁ確かに縁起物っちゅうのは認めたる。せやけどそれを言うならうどんだってな!一本うどんっちゅうながーいうどんがあんねん!それ食うたらもう細い蕎麦なんてもう食えんくなるで!更に言えばこっちは太く長くやで?蕎麦より縁起がえぇような気がするで!」


「気がするだけではアカンのでは?」


「まぁそれもあるわな。せやけど結局のところ縁起物とか言う物は結局なんかそれっぽい事言っていい感じにあれやこれや言っとけば信じる物やで?コレ豆な」


「はぁ……そないなことはどうでもよろしおす」


「確かにそうやな。けどな!わが欲しいのはあのお揚げや!あの汁がしみしみ~っとなって口ん中に入れたらもう中でじゅわ~って感じにお揚げの優しい甘さと汁の旨さがまじりあってこれがもう最高や!」


「せやね。そこは認めはります」


「お?攻守逆転したか?」


「せやけど、うちもそこまで言われたら黙っておれへんわ。今度はうちが紹介したります」


「それはええな!ほな早速やったってくれや!」


「全く狐はんはせっかちやなぁ……大体赤いきつねを食べる時も三十秒くらい早う食うてらっしゃりますな?」


「お湯かけて五分は長すぎんねん!そもそも麺が少し硬いくらいがちょうどえぇねんカップ麵は!」


「そうかもしれまへんな……それでうちがこだわる理由はやはりあのお出汁にありんす」


「確か……何や知らんけど日本のあっちとこっちで別れとるんやっけ?出汁」


「せやで。うちがおすすめしたいんは関西出汁やな。あの関西人に合わせて作られた出汁がまたたまらんのや……」


「ほー。まぁ出汁だけで言うなら赤いきつねも同じやけどな!そこんところはどないやねん」


「せやけど出汁の旨味を十全に引き出せるんはやっぱり緑のたぬきやと思いますわ」


「理由、聞かせてもろて?」


「やはり赤いきつねには既にお揚げがのっかってる状況にありんす。そうなりはるとやはりどこかで出汁の中にお揚げの味が混ざってしまうんですわ」


「なんやと?!今緑のたぬきバカにしたんか!?」


「そうは言うてはりません。確かにうちも甘いお汁は好きやけど、やっぱり出汁と言うはりますならガツンと旨味を味わいたいんどす」


「ふーむ。一理あるかもしれんわ……けど待て、緑のたぬきにはあのサクサクがのっかっとるやろ?アレ含めたら結局同じやないか?」


「あれは後乗せが可能なのですよ狐はん。半分くらい食うてな?その後サクサクのかき揚げを汁に浸して一気に噛り付くんや。多少下品かもしれんけどこれが一番美味しいとうちは思うとります」


「はー……成程なぁ。よっしゃそれはよう分かった。せやけどそれを加味してもわは赤いきつねがえぇ思っとるわ」


「これでも曲げへんのですか……そもそもお金はあるんやしどっちも買えばえぇんやないどすか?」


「いーや、そこは譲らへんで!何が何でも赤いきつねや!」


「えぇんちゃう、別に緑のたぬきを食べる訳でもあらんのに……」


「せやけどな、一緒に食うとるとそれも食いとうなってしまうんや。分かってくれんか?」


「それは分かります。この際もう面倒やしどっちも箱買いして年を越す、と言うのはどないでしょうか?」


「それはえぇな!通販で関西だけやなく関東出汁、北海道のも試すっちゅうのはどや!?」


「えぇねそれ。うちは賛成」


「よっしゃ!ほな早速スーパーに買い物に……ってなんや?今なんかピンポンならんかったか?」


「そう言えばそうやね……お客はん?」


「っす!ども、鴨っす!先輩がたお久しぶりっす!」


「おっすパイセン。あたしは豚、まーパイセン達の家近いんで遊びに来たって感じ。こっからどっか行くんです?」


「おわ、鴨が豚背負って来うてきましたわ」


「あぁ!買い物や!良かったらお前らも行くか?」


「おっ!それならお言葉に甘えさせてもらうっすよ!なんか買って欲しいっす!具体的に言えば鴨出汁そば!」


「マジっすか。じゃあたしは狸パイセンと一緒に待ってるんで黒い豚カレーうどんでおなしゃっす」


「……まぁえぇわ。ちゅーかあんだけ言っといて結局買いに行かんのかい」


「なんだかんだ言うて面倒やからね。金は出しまする、これで買ってきておくんなまし」


「……あぁもう分かったわ!えぇでえぇで!ほな行くで鴨!」


「分かったっすよ狐先輩!」


「うちらはおこたでぬくぬくしながら待つとしましょうか」


「OKすわパイセン。それじゃよろしく」


「んじゃ行って来るで!」

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『赤緑狸狐ぽんこん』 常闇の霊夜 @kakinatireiya

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