第22話「噂」
そして時は流れ、次期生徒会長選の時期がやってきた。
つまりは、これであーちゃんも晴れて生徒会長の責務をやり遂げる事が出来るというわけだ。
これまで学校を代表する模範生徒として、周囲だけでなく自らにも厳しく、率先して学校や生徒達のために頑張ってきたあーちゃん。
そんなあーちゃんは、まさしく学園のアイドルがごとく人気があり、その整った容姿も相まって全生徒の憧れ的存在。
俺はそんなあーちゃんの事を誇りに思っている。
幼馴染で、隣の部屋に住み、そして今では自分の彼女であるあーちゃんの事を、俺はこれまで出来る限りサポートしてきたつもりだ。
だからこそ、俺達の関係はずっと秘密にし続けてきたのだ。
でも、それもようやく終わりを迎える事になる……はずだった。
はずだったというのは、たった今学校中で噂になっている事のせいに他ならない。
"生徒会長に、どうやら彼氏がいるらしい"
そう、現在学校内での一番のホットな話題。
それが、生徒会長に彼氏がいる疑惑なのである。
そして悲しいかな、噂が立てば当然お相手は誰なのだという話になるのだが、それが残念ながら俺ではなく、同じ生徒会の副会長である
同じ生徒会の二人は、学校内でもよく一緒にいるところを目にする事が多く、二人とも美男美女で有名人。
だから当然と言えば当然なのだが、彼氏である自分としては、自分の彼女が別の誰かと付き合ってるだなんだと言われている事は気持ちの良いものではなかった。
――でも、あと少しの我慢だ……。
そう思い俺は、ここ数日そんな噂を全て聞き流して無視を続けている。
幸い、事情を知ってくれている幹久と佐伯さんは、そんな俺の事を笑って励ましてくれるおかげで、気持ちが随分楽になっているのは正直有難かった。
ちなみに二人とも、俺とあーちゃんの関係はちゃんと黙ってくれており、あれから何度かうちで集まってはのんびり遊んで過ごしたりする仲になっていたりする。
佐伯さんなんかは、休日にあの会長がテレビゲームをして喚いているというギャップに、最初は物凄く驚いていた事が懐かしい。
それだけ、歩くギャップみたいなあーちゃんだからこそ、佐伯さんも次第に興味津々になってくれたようで、今では学年こそ違うけれど、まるで昔からの友達のように二人は仲良しになっている事が俺は嬉しかった。
そんなこんなで、今日も朝起きた俺はいつも通り歯磨きをして身支度をしている。
そして、眠たい目を必死に開きながらシャコシャコと歯を磨く俺の事を、じーっと見てくる背後霊が一人。
「……あー、歯ブラシになりたい……」
「……えっと、それは一体どういう感情?」
「そしたら毎日かずくんに握られて、頭ごとお口の中にインできる尊みからです」
「ふーん、なるほどね。でも歯磨き粉まみれのあーちゃんはちょっと嫌かなぁ」
「じゃあ無しで! 今の全部無しー!」
そう言ってあーちゃんは、歯磨きを終えた俺の背中にぎゅっと抱きついてくる。
そんな、今日も朝からあーちゃんしてるあーちゃんをそのまま引きずりながら、俺は朝食の支度を始める。
「ウインナーがいいなぁー」
「はいはい、買ってありますよ」
「やった!」
本当に嬉しそうに微笑むあーちゃん。
そんなあーちゃんのオーダー通り、今朝はウインナーを炒めて簡単なサラダと共に朝食を用意すると、一緒に朝食を済ませる。
それから身支度を済ませると、いつも通り俺が先に学校へ向かい、そしてその後ろをあーちゃんがついてくるといういつもの背後霊スタイルで登校する。
もうこの登校スタイルになって暫く経つが、それでもあーちゃんはずっとニコニコと楽しそうに微笑みながら後ろを歩いている。
何がそんなに嬉しいのかは分からないが、あんな風にニコニコされる事自体は全くもって悪い気はしないため、俺も自然と口角が上がって来てしまう。
そんなわけで、今日もいつも通り登校していると、学校に近付くにつれ同じ学校の生徒達の姿も増えてくる。
そしてそうなると、自然と生徒会長であるあーちゃんの周りにも人が増え始め、気が付けば俺の後ろには人集りが出来ていた。
相変わらずの人気っぷりだななんて思っている俺の耳に、一つの声が聞こえてくる。
「会長、おはようございます」
「ああ、おはよう時田くん」
それは、正しく今話題になっている副会長の声だった。
その声に後ろを振り向くと、そこにはさも当然のようにあーちゃんの隣に並んで歩く副会長の姿があるのであった――。
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