マルちゃん家族 ~姉にはめられる~

最時

ウチの年末

 年末、父と物置の整理をしている。

「年末にやらなくても・・・」

 と思うのだウチでは毎年のことだ。


 正午を知らせる鐘の音が聞こえた。

「お昼だし、このくらいにしておくか」

 と父。もちろん十分だ。


 自室の座椅子完備一人こたつに入って、パソコンで映画を検索する。

 何を見ようかとホラーの検索にたどり着くとパソコン越しの扉の向こうから何かが来る気配がした。

「ヴォォォーーー」

 と激しく開いた扉の風が部屋中に渦巻き、軽くなったカレンダーがパソコンに舞い落ちると、怒りのツバサ姉が立っていた。

「わたしのキツネ食べたでしょ!」

 突然の出来事にしばし思考が停止し、動き出す。

「昨日、ツバサ姉自分で食べてなかった?」

「・・・んっ?」

 思い出したようだ。隣に駆け寄ってきて、手を握られる。

「社会人のお姉さんはこれからお昼のニュース見ないといけないからちょっと買ってきてくれない? 帰省してきたばかりで田舎の冷風で風邪引いたら大変じゃない!! おねがい♡」

「冷風・・・」

 突っ込みどころ満載だし。普通、弟にウィンクするか? と思いつつも立ち上がると抱きついてきて

「ありがとうー 早めにお願いね♡」

 単調な口調とは裏腹にウィンク・・・ 自分をどう思っているのだろうと・・・


 徒歩5分もかからない近所のコンビニへ、コートを着て家を出る。

 風一つ雲一つない秋晴れだ。

 家のある路地と違い、幹線道路は賑やかだ。ただ、トラックなどは少なく乗用車が多い。

「年末だな~」


 お昼のコンビニもまあまあのにぎわい。

「久しぶり」

 と声を掛けてきたのは商品を陳列していた幼なじみのカンナだ。オーナーの子。

「さっきお父さん買いに来たけど? 忘れ物?」

「はあ、ツバサ姉に頼まれて。まったく。一緒に買ってくれれば良かったのに・・・」

「ツバサさん帰ってきているんだ。私の憧れ」

「まあ、外面はいいからな。カンナもいつ帰ってきたの?」

「昨日。早速手伝わされてちゃって。仕方ないけどね。」

「偉いなあ。ツバサ姉とは違う」

「ふふ。ねえ、あとで話さない?」

「いいよ」

「終わったら連絡するから」

 ツバサ姉ありがとうと思ってしまった。


 ニヤニヤ軽やかにリビングの扉を開けると父、姉がそれぞれ緑のたぬきと赤いきつねを食べていた。

「早くって言ったじゃない。たぬき伸びちゃうよ。でカンナちゃんと話せた?」

 父は視線を合わそうとしない。はめられたと気づいた。


 三人で赤いきつねと緑のたぬきを食べていると、買い物をして母が帰ってきた。

「ただいま。もお、親子ねえ」

 母のレジ袋からは赤と緑のパッケージが透けて見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

マルちゃん家族 ~姉にはめられる~ 最時 @ryggdrasil

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ