第43話 僕なんかの部屋にいる和水さん⑧


「い、いつもそうやって使うんですか?」

「当たり前じゃん。うちのお母さんだってこうやって使ってるし」

「えぇええ!? 和水さんのお、お母様まで!?」

「だから、なんでそんなに驚いてるわけ?」


 これが驚かずにいられるだろうか。


 和水さんだけでなく、和水さんのお母様までキッチンでは裸エプロンが標準装備らしい。


 母親と娘が揃って裸エプロンなど、そんな事があっていいのだろうか。


 いや、むしろ納得かもしれない。


 裸エプロンのお母様に育てられたからこそ、きっと和水さんは裸エプロンを正常なものとして認識しているのだ。


 僕は和水さんのお母様のお姿を見た事はもちろんない。


 けれど、さぞお美しい女性だろう事は想像に難くない。


 なぜならこんなにも完璧なプロポーションと美貌を持つ和水さんのお母様だからだ。


 きっと絶世の美魔女なのだろう。


 そして、きっと和水さんに負けず劣らずの巨大なオッパイと、ムチムチのお尻をお持ちに違いない!


 髪は、和水さんと同じように染めているだろうか。


 きっと長い綺麗な髪をされているのだろう。


 和水さんのようにキリっとした気の強そうなお顔だろうか。それとも以外におっとり系だったり……。


 僕はもう和水家のキッチンの様子と、想像上のお母様のお姿の妄想で脳内がいっぱいになった。


 和水さんと、お母様が裸エプロン姿で、仲睦まじく料理をしている。


 エプロンの隙間から見えるお二方の素晴らしい横乳。


 料理に熱が入るごとに、フリフリとゆれる大きなむちむちのお尻。


 桃源郷は確かにそこにあったのだ。



「わ、わかりました。それが和水家のスタンスなら、僕はもう何も言いません」


 僕は覚悟を決めて和水さんを凝視した。


 裸エプロンが通常装備だと和水さんが言うのなら、その神々しいお姿を眺めても、咎められる事はないだろう。


 僕はこの機会を逃すことなく、和水さんの裸エプロンを堪能することにした。


「和水家っていうか、誰だってそうでしょ?」

「…………え?」


 のだが、なんだか話が噛み合っていないかもしれない事に気が付いた。


 やはり裸エプロンが常識の家庭で育ってきた和水さんは、それが特殊な文化だと気付いていないのかもしれない。


「だって料理する時は普通にエプロンつけない?」

「それはそうなのですが、つけ方が普通じゃないといいますか」

「つけ方? どういう事? 何か間違ってる?」

「あ、いえ、その、普通の人は、服の上からエプロンを付けるといいますか」

「……ん?」

「裸にエプロンは少数派といいますか……あぁ、いえ! 裸エプロンを否定してるわけじゃないんです! とっても素晴らしい文化ですから! むしろ僕は推奨してますよ! 和水家は素晴らしいと思います!」


 必死になって裸エプロンを肯定する。


 学校の家庭科の授業が心配だが、裸エプロンを常識と思っている貴重な思考を失くしてはいけないと焦ったのだ。


 拳を握って力説すると、少しの間ポカンとしていた和水さんは、何故か急に口角を上げてニヤリとした笑顔を浮かべた。


「さっきから何かおかしいと思えば、もしかして、私が裸にエプロンをしてるとでも思ってるの?」

「え? ち、違うんですか?」


 僕はそこで自分がとんでもない勘違いをしていたかもしれない事に気が付いた。


 慌てて和水さんを凝視する。


 だがそれでも、腕も足も、首筋も、やっぱりすべてが地肌で、エプロンの下に何も着ているようには見えない。


 僕が困惑していると、和水さんはますます愉快そうに笑った。


「確認してみる?」


 いいんですか!? そう僕が叫ぶ前に、和水さんはなんの躊躇もなくエプロンの裾を持って、めくり上げた。


 いきなりの大胆すぎる和水さんの行動に、僕は慌てて両手を目に当てる。


 流石に和水さんの秘部を見るわけにはいかないからだ……指の隙間は最大限にあけているけれど。


 そんな僕が見たエプロンの下は、



「……ぁ、ぁ、あれ?」


 普通にスカートを履いている和水さんの下半身だった。


「普通にスカート履いてるよ。短すぎてエプロンの方が長いけどね」

「あ、だから僕からは見えなかったのか」

「そう言う事。で、それを見て私が裸エプロンしてると思ったわけだ」

「あ、いえ、けしてそんな想像をしたわけではないんですよ!」


 今更遅いとは分かりつつも、言い訳をせずにはいられない。


 けれど和水さんは別に気にもしていない様子だった。


 いつものようにニヤニヤとした笑みを浮かべているだけで、特に変態だと罵られる事もなかった。


「まぁ別にどんな想像してもいいけど、それより夕飯作ったから食べて」

「えぇ!? 夕飯まで作ってくれたんですか!?」

「だからエプロン借りたわけ、ほら、早くおいでよ冷めちゃうから」

「あ、は、はい! ありがとうございます和水さん!」


 せかされて、僕は勢いよく立ち上がった。


 その瞬間の事だった。


 僕が立ち上がったのを見て、和水さんがこちらに背を向けた。

 


「……え?」


 僕は自分の目を疑った。


 和水さんの後ろ姿が明らかにおかしかったからだ。


 下半身は、さっき和水さんが見せてくれたようにしっかりとスカートで隠されていた。


 だから和水さんは裸エプロンではない。


 そのはずだった。


 けれど、上半身は違った。


 和水さんの背中は何物にも覆われることなく、無防備にさらけ出されていたのだ。


 染み一つなく、透き通るような綺麗な肌のなまめかしい背中が惜しげもなくさらされている。


 その背中には本当に何もない。


 制服も、下着すらもだ。


 つまり、和水さんの上半身は、あのエプロンの下には、和水さんのあの大きな生オッパイが……。


「ぁ、あら?」


 興奮しすぎたのだろうか。それとも頭を打った影響か。


 そこまで考えた時、僕は視界が暗転し、フラッと身体が揺れた瞬間には意識を飛ばしていた。

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